上海ハイウェイス法律相談事例

競業避止補償金の落とし穴

2021年6月2日

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上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第31回~

法律物語


競業避止補償金の落とし穴

実務において、使用者と労働者の間で競業避止が約定されるケースは多い。しかし、使用者が競業避止に係る補償を重要視していないことが原因で引き起らされるトラブルや対策に苦慮するケースは少なくない。

参考のために競業避止補償金の落とし穴とリスクについて整理しておく。

■落とし穴1:競業避止補償金の具体的な金額が約定されていない。

分析:競業避止補償金の具体的な金額を約定していない場合でも、競業避止に関連する約定は無効にはならない。具体的な金額は司法機関が認定する。

『労働争議案件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈(四)』(法釈〔2013〕4 号)第 6 条(既に廃止)及び新しく実施された『労働争議案件の審理における法律適用の問題に関する最高人民法院の解釈(一)』(法釈〔2020〕26 号)第 36 条では、「労働者の労働契約解除又は契約満了前 12 カ月間の平均賃金の30%」、かつ「契約履行地の最低賃金基準を下回ってはならない」という基準が定められている。従って、使用者の所在省・市に相応の地方規定がない場合に、通常、司法機関は「労働者の労働契約解除又は契約満了前の 12 カ月間の平均賃金の30%、かつ当地の最低賃金を下回らない」ことを基準とする。

使用者の所在地に相応の地方規定がある場合、通常、司法機関は地方規定を基準にする。例えば、『江蘇省労働契約条例』では「月給の 3 分の1を下回らない」ことを定めている。『深セン経済特区企業技術秘密保護条例』では、「退職前 12 か月間の平 均給与の 2 分の 1 を下回らない」ことを定めている。『寧波市企業技術秘密保護条例』では、「退職直前 1 年間の年収の 2 分の 1 を下回らない」ことを定めている。従って、使用者は所在地の地方規定の有無に注意を払うべきである。

■落とし穴2:約定された競業避止補償金が低すぎる。

現行の法令又は司法解釈において、約定された競業避止補償金があまりにも低い場合は、競業避止約定自体が有効であるか否か、いかに対処するかなどが明確にされていない。実務において、通常、約定された競業避止補償金が低すぎることを理由に、競業避止約定自体が無効と認定されることはない。一部の地方規定、例えば、浙江省高級人民法院民一廷と浙江省労働人事争議仲裁院が共同で公布した『労働争議案件の審理における若干問題に関する解答(三)』では、「補償金が低い場合も、競業避止約定自体の効力は影響を受けない」ことを指摘した。各地の関連裁判文書においても同じ観点が示されている。

又、不足分について、『深セン経済特区企業技術秘密保護条例』のように一部の地方規定では、補足給付が必要と規定されているところもある。その他の地方では、一般的に裁判において不足分の補足給付を認めている。

■落とし穴3:労働者の退職後、使用者が補償金を支払わない。

使用者が3か月以上、補償金を支払わない場合は、競業避止に関連する約定が依然効力を持つのかについては不確定性がある。

法釈〔2020〕26 号第 38 条では、「使用者の都合で補償金が退職後 3 か月を経過しても支払われない場合は、労働者は競業避止関連約定の解除を請求することができる。」ことが定められているだけである。労働者が競業避止関連約定の解除を請求しない場合は、競業避止義務が継続的に履行されるか否かについては明確にしていない。司法実務において、「使用者が補償金を支払わない場合も、競業避止義務は自動的に効力を失うことはない」という観点を認める傾向がある((2021)蘇 05 民終 1864 号、 (2019)滬 02 民終 7553 号、(2020)京 01 民終 755 号等)。

但し、当該観点を認めない地方規定もある。例えば、『江蘇省高級人民裁判所による労働紛争案件審理ガイドライン』第 13 条では、使用者が約定通りに補償金を支払わない場合は、係る約定は労働者に対して拘束力がないと定めている。

又、2020 年 7 月人力資源・社会保障部と最高人民法院が共同で公布した『第一回労働人事争議典型案例の連合公布に関する通知』における 12 番目の案例において、使用者が 11 カ月以上競業避止補償金を支払っていなかったが、正義公正の原則に基づき、仲裁委員会は、「使用者の都合で経済補償金が 3 カ月以上支払われていない状況で、労働者が競業避止行為を行った場合は、労競業避止約定の解除を要求したと見なされる。労働者に競業避止義務違反による違約金を支払わせるという使用者の主張は認めない。」と認定した。

実務検討

企業の登記上の住所地と実際の所在地が一致しない場合はどうなるのか?

実務において、企業の登記上の住所地と実際の所在地が一致しないケースは珍しくない。その理由は、移転後に直ちに登記上の住所地を変更しなかったことや、優遇政策を享受するために登記上の住所地を選択し登記手続する、便利を図るために登記上の住所地を実際の所在地とせず、実際の所在地を別途選択することもある。工商管理において、登記上の住所地と実際の所在地が一致しないことは許されるが、慎重に対処しなければ、場合によっては企業の事業活動に影響を及ぼし、リスクや余分なコストを引き起こし兼ねないため、重要視されるべきである。

まず、訴訟に係る影響について主に以下の 2 つの状況に分けて検討する。

1、契約締結時に約定された住所地が事後に変更された場合。例えば、浦東新区の A 社と B 社は 2019 年に契約締結時に「本契約に係る紛争は、甲の住所地の人民法院による管轄を受ける」ことを約定し、2020 年 A 社は長寧区に移転した。その後、A 社 と B 社の間で紛争が起こった。この場合に、案件は浦東裁判所による管轄を受けるか、それとも長寧裁判所による管轄を受けるか?『<中華人民共和国民事訴訟法>の適用に関する最高人民法院の解釈(2020 改正)』第 32 条によると、当事者間の別途約定がある場合を除き、契約締結地の人民法院による管轄を受ける。従って、企業は実際の所在地、管轄を自ら選択したい場合、契約締結時に相応の約定を行っておくべきである。

2、登記上の住所地は未使用で、他の住所地を選択して実際に事業を行っているが、申告を行っていない場合。この場合、裁判所は登記上の住所地への送達ができず、公示送達を余儀なくされることが多い。公告期間内に被告側の企業が公示送達を受けとれない場合、応訴できなくなり、さらに信用を喪失することになる執行債務者名簿に入れられるなど思いがけないことも起こる。公示送達を減らし、当事者の訴訟費用や手間を省くために、北京高級裁判所と北京市市場監督管理局が、上海高級裁判所と上海市市場監督管理局が共同で公布した規定によると、法律文書が裁判所から、企業の確認を経た送達住所まで届けられた後、受け取られなかった場合は、不可抗力、意外事件又は企業が自ら失態がないことを立証できる場合を除き、送達済みと看做される。企業の確認を経た送達住所は、初期の送達住所(登記上の住所地)と予備的な送達住所を含む。言い換えれば、登記上の住所地以外で事業を行う場合は、年間申告を行うときに、予備的な送達住所を申告するように注意すべきである。

次に、企業の知的財産権保護に係るリスク。登録商標、特許などの知的財産権を保有している企業は住所地を変更するときに、一連の変更手続を適時行わなければならない。さもなければ、リスクに直面する。例えば、第三者が企業の商標登録の無効を申請した後、商標局からの関連文書が届いていないので、抗弁の機会を逃した。(《法律記事》第 73 期―『商標権者の住所や氏名等情報を変更した場合の留意点』の文章をご参考ください。)又、注意すべきことは、住所地の変更に伴い、取引銀行、税務情報、社会保険情報、輸出入及び他の資格・証明書・許可証に係る情報も変更する。相応の変更手続を適時行わない場合は、予測不能なリスク、労働力・財力によるコストは大きくなる。

立法動向

『民法典の貫徹実施に関する全国裁判所の会議紀要』(法【2021】94 号)が2021年4月6日より施行

2021年1月1日『民法典』の施行に伴い、当初の『民法通則』、『契約法』関連の司法解釈は廃止になったが、新しい司法解釈はまだ公布されていないので、実務上の問題を解決するために統一的な規則を制定することが急務である。これに鑑み、最 高人民法院は 2021 年 4 月 6 日に『民法典の貫徹実施に関する全国裁判所の会議紀要』(法【2021】94 号)(以下『紀要』という)を公布した。商事法律に係るポイントは以下の通りである。


一、訴訟時効について『〈中華人民共和国民法通則〉若干問題の貫徹執行に関する意見(試行)』(廃止済み)第 175 条の規定によると、一般的な訴訟時効は中止、中断、延長の関連規定の適用を受けることができる。「20 年」の訴訟時効は延長の関連規定の適用を受けることができが、中止、中断の関連規定の適用は受けることができない。『紀要』の規定によると、一般的な訴訟時効は延長の関連規定の適用を受けることができない。

二、契約の成立について『紀要』では、「裁判所は契約自由を尊重し、取引を奨励・促進するという方針で法に従い処理する」ことを明確にした。『民法典』及びその司法解釈、『紀要』では、商事分野において取引を奨励・促進するという自由裁量権の傾向も示した。

三、代位権行使の範囲について『契約法』第 73 条の規定により、代位権行使の範囲は期限が近づく債権のみに限る。『民法典』第 535 条では当該規定を変更した。『紀要』では、『契約法解釈一』第 13 条における「金銭の給付を内容とし、期限が近づく債権」という規定を削除した。つまり、債権者が代位権を行使する範囲は、期限に満たない債権にまで拡大しただけでなく、金銭の給付を性質とする債務に限定していない。

四、明らかに不合理な低価格、損害賠償、違約金などについて明らかに不合理な低価格、損害賠償、違約金などの関連規定について、『紀要』と『契約法解釈二』は基本的に一致する。例えば、譲渡価格が取引時に取引地の指導価格又は市場取引価格の 70%に達していない場合は、明らかに不合理な低価格と見なすことができる。譲渡価格が当地の指導価格又は市場取引価格の 30%を上回る場合は、明らかに不合理な低価格と見なすことができる。当事者間で約定された違約金が損失額の30%を上回る場合は、「損失額を明らかに上回る」と認定することができる。


弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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