Offcial SNS

上海ハイウェイス法律相談事例

【法律相談】入社後社会保険の空白期間内における労災責任は誰が負うのか?

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第63回~

法律物語

入社後社会保険の空白期間内における労災責任は誰が負うのか?

本来、労災保険における空白期間を作らないよう、新入社員を採用した場合、会社は直ちに新入社員のために社会保険加入 手続きを行なわなければならない。とは言うものの、実務においては状況によって会社のやり方も異なる。入社後すぐに社会保 険加入手続きを行う会社もあれば、毎月 15 日から 20 日までの間で統一的に社会保険加入手続きを行う会社もあり、この場合 は 15 日以前に入社した場合は、一律に社会保険加入手続き期間の日まで待つことになる。特に従業員の離職率が比較的高い 製造工場などでは、入社 1 ヶ月後、さらには試用期間満了後に従業員の社会保険加入手続きを行う会社もある。会社としてはリ スクマネジメントの観点から、社会保険における空白期間に従業員が労災に遭った場合、会社は責任を負うべきかという問題を 考えておかなければならない。

『社会保険法』第 58 条には、「使用者は、採用日から 30 日以内に従業員のために社会保険取扱機関に社会保険登記を申 請しなければならない。」と規定している。そのため、法定期限、即ち採用日から 30 日以内に使用者が従業員の社会保険料を 納付する限り、労災が発生した場合は労災保険基金から賠償を行うべきであるという意見がある。しかし、当該意見のとおり実 行すれば、使用者が意図的に社会保険加入手続きを遅らせ、さらに主観的に社会保険加入手続きを行うつもりがなく、従業員 が入社後 30 日以内に労災に遭ってから社会保険加入手続きを行うという不誠実な行為を助長する可能性がある。

各地方の規定を検索したところ、『広東省労災保険基金省レベル計画案配業務規程』だけが条件付きで当該意見を採用して いる。同規程第 164 条には、「使用者のこれまでの社会保険加入記録が良好で、保険料納付が連続的に規範化されている場 合、または法により新たに設立した使用者である場合は、仮に新入社員が入社後、労災に遭った時にまだ社会保険に加入して いなくても、入社後 30 日以内に追納した場合、保険待遇は従業員の労災発生日から計算する。」と規定している。

例えば(2017)蘇 8602 行初 1153 号事件のように、裁判所が「使用者が 30 日以内に従業員のために社会保険料を納付するこ とは、合理的かつ正常な処理期限を超えず、社会保険料の追納と認定されるべきではない」と判断し、社会保険センターに障害 補助金を支払わせる旨の判決を下したケースはごく稀である。但し、当該事件では労働者が医療費を主張していないことを考慮 すると、このことから「30 日以内に追納すれば労災保険基金が補助金を支払う」ことが無条件に認められたとは言えない。

実務においては、使用者が適時追納した場合、追納日から新規発生した費用は労災保険基金から支払いができるという意 見が主流である。当該意見の法的根拠は、『労災保険条例』第 62 条、「使用者が労災保険に加入し、納付すべき労災保険料、 延滞金を追納した後、労災保険基金と使用者は本条例の規定に従い新規発生した費用を支払う」ということである。「新規発生 した費用」の範囲については、『若干問題の執行に関する人的資源社会保障部の意見(二)』第 3 条によると、「(一)業務上の事 由により負傷した場合は、保険加入後に新規発生した労災医療費、労災リハビリ費、入院食事補助費、計画案配地区以外の医 療、交通、食事、宿泊費、補助器具配置費、生活介護費、1 級から 4 級の障害手当金、及び保険加入後に労働契約を解除した 場合の一回限りの労災医療補助金の支払い。(二)業務上の事由により死亡した場合、保険加入後に新規発生した、条件に合 致する扶養親族に対する慰謝料の支払い。」 が含まれる。

以上のことから、使用者は従業員のための社会保険料は適時納付するべきである。適時納付が明らかに難しい、かつ生産特性 により労災のリスクが比較的高い場合は、雇主責任保険に加入することで一定のリスクを下げることが考えられる。

実務検討

『刑法改正案(十二)』による外資企業の不正防止に及ぼす影響できるか?

『刑法改正案(十二)』は 2023 年 12 月 29 日に全国人民代表大会常務委員会の審議を経て可決され、2024 年 3 月 1 日から施 行される。今回の改正は、外資企業の不正防止に大きな影響を与えるものであるため、注目に値する。

一、「収賄は重く処罰、贈賄は軽く処罰」から「贈賄罪と収賄罪共に重んじて処罰する」への転換は、贈賄行為を抑制につなが る一方で、企業の不正防止調査における贈賄者を「寝返らせる」ためのリニエンシー制度の適用範囲と可能性を縮小させる可能 性がある。

賄賂は現金で渡したり、第三者に振り込んだりすることが多いため、隠蔽力が強く、証拠を集めるのが非常に難しい。長い間、 捜査機関は贈賄者と収賄者の攻守同盟を破り、収賄者を調査処罰するために、司法取引を通じて「汚点証人」(注:罪滅ぼしに手 柄を立てる容疑者)を利用して証拠を得る必要があった。そのため、刑法では贈賄罪について明文化されているにもかかわらず、 収賄者が刑事罰を受ける件数と比べると、贈賄行為で刑事責任を追及されるケースはかなり珍しい。

2015 年に公布された『刑法改正案(九)』では、贈賄罪に対して罰金刑の追加、寛大処罰の条件の厳格化、規制対象の拡大な ど、贈賄犯罪への打撃を強化することが示されている。翌年、最高人民法院、最高人民検察院が共同で公布した『汚職・賄賂刑 事事件司法解釈』では、贈賄罪の金額、情状、対象などを一層明確にしている。

近年、情報ネットワーク化の進展により、捜査機関はビッグデータ技術を広く利用して証拠を収集できるようになってきた。しか し同時に、「贈賄は軽く処罰する」が、継続的な腐敗の原因となり、賄賂は依然として普遍的に存在している。

このような背景下で、『刑法改正案(十二)』では、贈賄犯罪に対する処罰をさらに強化した。具体的には、

贈賄犯罪の立法沿革や国の腐敗防止動向からみて、贈賄犯罪への取り締まりは一層厳格化している。このような状況下では、 贈賄者の懸念するため、企業の不正調査における、贈賄者が賄賂の事実を自白することで、企業が贈賄者への責任追及を放棄 することで合意するリニエンシー制度の効果が得られにくくなる。企業の不正調査の難易度が一定程度上がるだろう。

一方、今回の改正案では、リニエンシー制度実施の余地を増やす一面もある。『刑法改正案(十二)』第 390 条第 3 項では、贈賄 者が処罰の軽減又は免除を受けられる事由のうち、「犯罪が比較的軽い場合」、「重大事件の解決に重要な役割を果たした場 合」、「大きな手柄を立てた場合」をそのまま踏襲し、「重大事件の捜査・突破に肝心な役割を果たした場合」の事由を追加した。

二、同類営業不法経営罪、親戚や友人のための不法営利罪、私欲私利のための会社持分低額譲渡・資産低廉売却罪の適用 範囲は国有企業以外の一般企業にまで拡大し、外資企業の不正防止の手がかりとなる。

注意すべきことは、同類営業不法経営罪と親戚や友人のための不法営利罪は、いずれも「法律、行政法規の規定に違反する」 という前提を満たす必要があるということである。具体的にどのように解読・適用するかは、司法解釈を通して明確にしていく必要 がある。

また、『公安機関管轄の刑事事件の立件追訴基準に関する規定(二)』(公通字 201023 号)によると、当初国有企業にのみ適 用されていた同類営業不法経営罪の立件基準は「不法利益を得て、その金額が 10 万元以上の場合」であり、親戚や友人のため の不法営利罪の立件基準は「国に直接的な経済損失をもたらし、その金額が 10 万元以上の場合;その親戚や友人が不法利益 を得て、その金額が 20 万元以上の場合;関係組織が破産し、廃業・生産停止期間が 6 ヶ月以上で、または許可証と営業許可証 を取り消され、閉鎖・廃止・解散を命じられた場合」であった。しかし、2021 年 9 月 20 日から施行されている『監察法施行条例』に よると、同類営業不法経営罪と親戚や友人のための不法営利罪の 2 種に係る事件が監察機関による立件調査に変更された。そ のため、2022 年 5 月 15 日から施行されている改正版の『公安機関管轄の刑事事件の立件追訴基準に関する規定(二)』では、 当該 2 種の罪の立件基準規定が削除された。『刑法改正案(十二)』の施行後、従来の立件基準を参照するのか、それとも新しい 立件基準を打ち出すのかについては注目に値する。

立法動向

『生産安全事故に関する過料・処罰規定』(2023 改正)が 2024 年 3 月 1 日より施行

『生産安全事故に関する過料・処罰規定(試行)』は 2007 年 7 月に公布・施行されて以来、2011 年と 2015 年に 2 回の改正が行 われた。2021 年に『行政処罰法』と『安全生産法』を改正し、2022 年に国務院は『行政裁量権基準の制定と管理を一層規範化する ことに関する意見』を公布、2023 年 12 月 25 日に国家緊急時対応管理部は『生産安全事故に関する過料・処罰規定』(2023 改正) を審議可決した。『生産安全事故に関する過料・処罰規定(試行)」(2015 改正)と照合したところ、2023 改正版では、過料基準を調 整するとともに、違法情状の認定をより重視し、違法状況をさらに細分化している。

以下で個人に関する過料についてのみ整理する。

1. 事故を起こした生産事業者の主要責任者に関する過料基準

個人への過料は依然として前年度の年収を基準とし、割合が調整された。

2. その他の責任者と安全生産管理者に関する過料基準

個人への過料は依然として 1 年間の年収を基準とし、割合が調整された。また重罰基準(適用条件は上述の注記と同様)及び 法により安全生産管理職責を履行しないことにより異なるレベルの事故をもたらした場合の過料が追加された。

弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

-上海ハイウェイス法律相談事例
-

  • この記事を書いた人
  • 記事一覧

上海ハイウェイス法律事務所

会社業務、知的財産権、国際貿易、税関業務、不動産、金融証券など様々なリーガルサービスを提供。日本語が堪能な弁護士が企業や個人のお悩みを丁寧に対応。
電話:(86) 21 5877 3177 (86) 1391 742 1790
E-mail: kittykim@hiwayslaw.com