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特集 上海ハイウェイス法律相談事例

退職者が無断で資料を削除した場合、会社はどうすればよいのか?

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第52回~

法律物語

退職者が無断で資料を削除した場合、会社はどうすればよいのか?

実務において、一部の従業員は会社から支給されたパソコンや携帯電話などに個人情報や資料を保存し、退職時に個人情 報の漏洩を防ぐため、関連資料を削除することがある。これは許容範囲の行為である。但し、一部の従業員は自らの鬱憤をは らす目的で、もしくはその他の理由で、業務メール、サーバーや共有ディスクなどに保存されている共有資料などを無断で削除 する。このような行為が会社の業務に一定の不利な影響や支障をもたらすことは間違いない。特にその中に営業秘密や今後起 こり得る訴訟に必要な証拠資料が含まれていた場合は、会社に大きな直接的損失と潜在的敗訴リスクをもたらすことになる。

会社がこのようなリスクに対応するためには、まず、従業員による資料の無断削除行為に対してどのように責任追及をするか を把握しておかなければならない。

一般的に言えば、具体的な状況によって、退職者の無断資料削除行為に対しては民事責任、刑事責任、行政責任の追及が 考えられる。

第一に、民事責任について。資料を削除した従業員は権利侵害責任を負う。『賃金支払暫定規定』第 16 条には、「労働者本 人の原因で使用者に経済的損失をもたらした場合、使用者は労働契約の約定に従い経済的損失の賠償を求めることができ る。」と規定している。従業員が退職時に会社の資料を削除して会社に損失をもたらした場合、会社は法に基づき従業員に賠償 させる権利がある。上述の損失には、会社が資料を復元するための費用(例えば、(2017)滬 02 民終 10169 号事案において、裁 判所は従業員に対して、資料復元の費用を賠償するよう命じた)、および会社にもたらしたその他の損失(例えば、(2021)粤 0115 民初 17763 号事案において、従業員が本人の 37 日間の仕事成果に係る資料を削除したことに対して、裁判所は一日当た りの賃金基準で賠償するように命じた)が含まれる。

第二に、刑事責任について。無断削除行為は、コンピュータ情報システム破壊罪、生産経営破壊罪、商業秘密侵害罪の 3 つ の罪に係る可能性がある。

削除行為によりコンピュータ情報システムの機能、データ、又はアプリケーションが破壊され、損失額が法定の最低限度額に 達した場合は、コンピュータ情報システム破壊罪と認定される。2020 年にプログラマーの間で「せいぜいライブラリを削除しても、 逃げれば大丈夫だ」という口癖が流行っていた。本当にライブラリ削除し逃げれば、通常耐え難い結果となる。例えば、(2020) 滬 0113 刑初 889 号事案において、従業員の賀氏は会社のシステムデータを削除したため、コンピュータ情報システム破壊罪と して懲役 6 年に処された。

一方、削除行為により会社の生産経営が破壊された疑いがある場合は、通常、生産経営破壊罪と認定される。(2021)滬 02 刑終 595 号事案において、財務責任者であった徐氏は退職前に会社の会計帳簿と財務会計報告書などの資料を削除し、パス ワードを教えなかったため、財務システムが作動できなくなり、会社に 2 万元余りの損失をもたらした。最終的に生産経営破壊罪 として懲役 1 年に処された。

司法実務において、コンピュータ情報システム破壊罪と生産経営破壊罪は競合するケースがある。例えば、従業員の資料 削除行為がコンピュータシステムを破壊し、同時に生産経営を破壊した場合、どうすればよいのか。コンピュータ情報システ ム破壊罪と生産経営破壊罪については、破壊行為以外に、重要な区別がある。それは、法定の最低損害額が異なることで ある。コンピュータ情報システム破壊罪の最低損害額は1万元で、生産経営破壊罪の最低損害額 は5000元である。そのた め、多くの会社は生産経営破壊罪として責任を追及するという手段を選ぶ。

従業員が資料を削除すると同時に、自らコピーを保管したり、第三者に開示したりし、かつその関連資料が営業秘密に属 する場合は、通常、営業秘密侵害罪になる可能性がある。

第三に、行政責任について。『治安管理処罰法』第 23 条には、「企業の生産経営を乱し、正常な仕事が不可能な状態にあ るが、まだ深刻な損失には至っていない場合には、警告又は過料を科すことができる」と規定している。第 29 条には、「国の 規定に違反し、コンピュータ情報システムに保存、処理、伝送されたデータとアプリケーションを削除した場合は、拘留に処す ることができる」と規定している。

以上のことから、会社は従業員により削除された資料の内容及び影響などに基づいて、可能となる責任追及の方向性を 決め、相応の措置を採るよう勧める。

実務検討

馳名商標(注:著名商標)はお守りなのか、それとも鶏肋なのか

2013 年商標法改正前、馳名商標は多くの企業に栄誉称号と見なされ、企業の対外宣伝のセールスポイントとされていた。そ れは、商標法が馳名商標制度が設けられた最初の意図とは異なる。商標法 2013 年改正案の実施に伴い、広告宣伝などに馳 名商標を用いてはならないということが明文化された。そのため、多くの企業は「馳名商標は何の役にも立たない鶏肋だ」という 認識を持つようになった。

最近、『商標法改正草案(意見募集稿)』が公布され、その中には馳名商標への保護強化が含まれており、企業の注目を集 めている。では、馳名商標はいったいお守りなのか、それとも鶏肋なのか?

結論から言えば、広告宣伝のために馳名商標を得ようとする場合、認定されたとしても鶏肋となるどころか、不適切な使用に よって行政罰を招くリスクにもなる。馳名商標の実質的な価値は普通の商標と比べ、法による特別な保護を受けることができる ことにある。法による特別な保護とは、主に以下の通りである。

1. 未登録馳名商標の「同じ区分での保護」

商標法第 13 条第 2 項によると、同一又は類似の商品について登録出願された商標が、中国で未登録の他人の馳名商標を 複製、模倣又は翻訳したものであり、容易に混同を生じさせるときは、その登録を認めず、かつその使用を禁止する。

これは商標法が未登録の馳名商標を保護するメカニズムである。具体的には、よく知られているブランドは国内で商標登録 出願が行われずに、他者が先行して商標登録出願を行う場合、企業は商標局に馳名商標認定を申請し、商標局に行政手続を 通じて他人の先行登録出願を却下を求めることができる。また馳名商標司法解釈第 2 条の規定に基づき、権利侵害事件におい て馳名商標の認定を申請することにより、権利侵害者の継続使用を阻止することができる。例えば、「パリバケット」商標権侵害 事件(事件番号:[2018]京 73 民初 316 号、[2021]京民終 438 号)において、裁判所は「被告の行為は、「巴黎貝甜」と「PARIS

BAGUETTE」商標について、ファーストフード店サービスにおける原告の未登録馳名商標の権益を侵害しており、関連侵害行為 を直ちに差し止めるべきである。」と述べた。

2.登録済み馳名商標の「区分を超えた保護」

商標法第 13 条第 3 項によると、非同一又は非類似の商品について登録出願された商標が、中国で登録されている他人の馳 名商標を複製、模倣又は翻訳したものであり、公衆に誤認を与え、当該馳名商標登録者の利益に損害をもたらし得るときは、そ の登録を認めず、かつその使用を禁止する。

このような状況は馳名商標の認定において最も普遍的である。有名ブランドにとって、全ての区分における商品の商標登録を 行なったら、非常に大きなコストがかかる。しかし、商標登録をせずに、他人に「便乗される」と、企業に悪影響をもたらす可能性 がある。馳名商標の認定により、「区分を超えた」保護を受けることができる。例えば、(2022)京民終 170 号「百度」商標権侵害 事件において、被告の京百度会社が提供したサービスは、「百度」商標の指定サービスと同一又は類似のサービスには属さな いが、裁判所は、百度会社からの馳名商標認定の要請が認められ、「百度」商標は、「区分を超えた」保護を受けることが可能と なった。そして、当該事件において、裁判所は、京百度会社の権利侵害行為の成立を認定した。

明確にすべきことは、「区分を超えた」保護と言っても、限界があり、全ての区分において保護を受けられるわけではない。商 標法の前述の規定によると、馳名商標の「区分を超えた」保護を受けるには、「公衆を誤解させ、これによって当該馳名商標登 録者の利益が損なわれる可能性がある」という前提条件を満たす必要があり、全ての非同一又は非類似の商品に無条件で拡 大できるわけではない。(2020)滬民終 538 号「巨人」商号を巡る不正競争紛争事件において、上海の高級裁判所は、以下のこと を指摘した。「中国は馳名商標に対して適度な「区分を超えた」保護を実施している。保護の範囲は具体的な事件の状況によっ て、その著名度、顕著性、訴えられた権利侵害商品との関連度などの要素を考慮して、ケースバイケースで合理的に確定すべ きである。本件四原告は、「巨人」の登録商標が原告の使用・宣伝を経て、ゲーム業界で高い知名度を持っていることを証明でき るが、その知名度は係る商標の指定サービスに限られている。係る商標の指定サービスと被疑侵害商品のそれぞれの消費者 は明らかに異なり、しかも「巨人」という言葉は共通語であり、顕著性は高くない。そのため、既存証拠は、「巨人」商標が馳名商 標と認定される条件を備えていることを証明するには十分ではない。」

3. 無効審判手続きにおける時効の制限を打ち破る

商標法第 45 条によると、登録済み商標が、この法律の第 13 条第 2 項と第 3 項の規定に違反した場合、商標登録日から5年 以内に、先行権利者又は利害関係者は商標評価審査委員会に対して当該登録商標の無効審判を申立することができる。悪意 のある登録である場合、馳名商標所有者は5年間という時効上の制限を受けない。

そのため、係争中の商標が 5 年以上登録されており、企業がその商標の無効を申立したい場合は、馳名商標の認定を求める と同時に、悪意のある登録であることをを主張し、係争中の商標を無効化を試みることができる。

4. 不正競争防止法からの特別保護

商標法第 58 条によると、他人の登録商標、登録されていない馳名商標を企業名称における商号として使用し、公衆に誤認を 生じさせ、不正競争行為にあたる場合は、『不正競争防止法』により処理される。

上述の「百度」紛争事件において、裁判所は当該規定を踏まえて、各被告に対して企業名に「百度」の文字の使用を停止する よう判決を下した。裁判所は、「原告の「百度」の商標は全国的に高い知名度と影響力を持っている。五被告は「百度」に類似す る「京百度」を企業の商号として使用し、原告の「百度」の商標の名声を利用し、故意にその名声に便乗しようとしており、客観的 にも五被告と原告の間に関連関係があるという関係大衆の誤認を招く。これによって五被告の投資や経営主体に対する誤認が

生じ、サービス出所の混同がもたらされ、不正競争になる。」と判断した。

5. ネットワークドメイン名の特別保護

『コンピュータネットワークドメイン名に係る民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈 (2020 改正)》第 4 条によると、人民法院はドメイン名紛争事件を審理するときに、被告ドメイン名又はその主要部分が原告の馳 名商標を複製、模倣、翻訳、音訳したもので、又は原告の登録商標、ドメイン名などと同一もしくは近似し、関係大衆の誤認を引 き起こすに足る場合、被告の登録、ドメイン名の使用などの行為を権利侵害又は不正競争と認定する。

そのため、馳名商標はドメイン名の先行登録を防ぐのに役立つ。(2021)京 0491 民初 10619 号「今日頭条」事件において、裁 判所は「原告は、「頭条」、「今日頭条」、「TOUTIAO.COM」などの商標権を取得した。そのうち「今日頭条」の文字商標は遅くとも 2017 年 5 月までに馳名商標になっているため、ドメイン名「toutiao.com」に対して権益を有すべきである。従って、原告が上述の 商業標識に対して有する合法的な権益は保護を受けるべきである。」と指摘した。

最後に、文頭で述べたように、今回の『商標法改正草案(意見募集稿)』では、馳名商標に関連する司法解釈における稀釈化 防止に関する規定が組み込まれており、「使用し、又は登録出願をした商標は、他人が広く知られている馳名商標を複製、模 倣、又は翻訳したものであり、当該商標と当該馳名商標の間に一定の関連性を持っているという関係大衆の誤認を引き起こす に足り、これによって馳名商標の顕著な特徴を弱め、馳名商標の市場名誉を損ない、或いは、馳名商標の市場名誉を不正に利 用した場合、当該商標の使用は禁止され、商標登録は認められない。」ことが定められている。上記の規定が正式に公布されれ ば、馳名商標に対する稀釈化防止は、民事紛争分野から行政分野に広げることになる。

この記事を参考に、貴社にとって、「馳名商標の認定を求めることは価値があるのか?」について一度、考えてみてくださ

立法動向

⚫ 長江デルタにおける従業員の賃金参考基準ができた!

2022 年 12 月 20 日、上海、江蘇、浙江の人力資源・社会保障部門は共同で『2022 年長江デルタ一体化モデル区製造業企業 市場賃金価格』を公布した。当該文書は『中華人民共和国職業分類大典(2015 年版)」の職業小分類に基づき、上海青浦、江蘇 呉江、浙江嘉善の 3 地区の 326 社の製造業企業、9.88 万人の従業員の 2021 年の賃金所得のデータを分析したものである。係 る賃金所得は、2021 年に取得したすべての賃金所得であり、基本給、賞与、手当、補助金、残業代などが含まれている。詳細は 以下のとおりである。

弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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