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特集 上海ハイウェイス法律相談事例

会社が従業員に賠償請求するには、労働仲裁を提起しなければならないのか、 それとも直接提訴できるのか

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第56回~

法律物語

会社が従業員に賠償請求するには、労働仲裁を提起しなければならないのか、 それとも直接提訴できるのか

会社が従業員に賠償を求める状況は主に 5 つある。(1)従業員が会社の財産に損害をもたらした場合。(2)従業員が 職責履行において第三者の権利を侵害した際、会社が賠償し、後に従業員に求償する場合。(3)従業員が会社の営業秘 密を侵害する場合。(4)従業員が会社の財産を横領する場合。(5)会社が従業員の社会保険料を過払いし、或いは医療 費立て替えなど会社の義務でない費用を負担する場合。

労働関係の観点から、会社が賠償を主張する場合、法に基づき、労働仲裁という前置が必要である。労働仲裁の時効 は通常 1 年である。そのため、会社の損害賠償請求が仲裁時効を超えた場合は、勝訴権を失う可能性がある。例えば、 (2015)一中民終字第 01012 号事件では、Z 氏は 2012 年 3 月に退職し、会社は 2013 年 7 月に営業秘密侵害として 労働仲裁を提起した。最終的には仲裁時効を超えていたため、労働仲裁機関、一審裁判所、二審裁判所はいずれも会社 の請求を認めなかった。

そのため、1 年以内である場合は、労働関係に基づいて労働仲裁を提起することが考えられる。この場合に、『賃金支 払暫定規定』第 16 条の「労働者本人の原因で使用者に経済的損失をもたらした場合、使用者は労働契約の約定に従い経 済的損失を賠償させることができる。」という規定が主な法的根拠となる。上述の 5 つのうち(1)と(2)はその典型 的な状況にあたる。

1 年以上仲裁が提起されない場合、又は営業秘密侵害のような専門性の高い案件の場合は、民事訴訟を直接提起し、 解決のため、状況に基づく適切な事由を選択する必要がある(民事訴訟の時効は通常 3 年である)。

事由を選択する際は、主に権利侵害と不当利得の 2 つが係わってくる。

権利侵害は上述の 5 つの状況のうち(3)と(4)に係わる。まず、営業秘密侵害行為については、『不正競争防止法』 第 9 条における営業秘密侵害に関する規定が権利保護の法的根拠となる。また職務上の横領行為については、『民法典』 第 1165 条の「行為者が過失により他人の民事権益を侵害して損害をもたらした場合、権利侵害責任を負わなければな らない。」という規定が権利保護の法的根拠となる。

不当利得については、『民法典』第 122 条の「法的根拠なく、不当な利益を得た場合、損害を受けた者は不当な利益の 返還をその相手に請求する権利がある」という規定が法的根拠となる。上述の(5)が典型的な不当利得行為に該当する。

しかし、実務において、一部の裁判所は「権利侵害と不当利得に係る紛争は労働紛争に属し、労働仲裁の前置が必要 である。」と考えており、例えば、上述の(2015)一中民終字第 01012 号事件。『最高人民法院知的財産権案件年度報告 (2009)』(法〔2010〕173 号)においても、最高人民法院は「労働法第七十九条では労働争議の仲裁前置手続を定めら れている。仲裁の裁決に不服がある場合にのみ、人民法院に訴訟を提起することができる。使用者が労働契約での秘密 保持条項や競業制限条項に基づき、営業秘密侵害紛争を起こした場合は、当該紛争を労働紛争処理手続によって解決す べきか、不正競争紛争として人民法院に直接受理を求めるかという問題が生じる。」と指摘した。但し、司法実務におけ る規則も変化が見られ、ここ数年、権利侵害案件と不当利得案件を労働仲裁という前置により解決しなければならない と認定する判決が下されるのは珍しいようである。しかしながら、このような案件において、民事訴訟の直接提起を希 望する場合は、適用法律、訴状上の表現、証拠資料などの妥当性に特に注意を払うべきである。

実務検討

当事者が一方的に契約を解除できるのはどのような場合か

A 氏はある家具屋に家具を発注した。翌日、家具屋から「ご注文いただいた家具は旧式で、ちょうど売り切れた。現 在、新式の家具があり、価格は旧式と同じである。注文書を修正して頂きたい」という連絡が来た。A 氏は同意せず、 注文をキャンセルしようとした。同様のケースは他にもある。B 氏は当該家具屋から前払金を支払い、家具を購入した。 その後、B 氏は心変わりしたため、売買のキャンセルを要求したが、家具屋は同意せず、購入を要求した。

A 氏及び B 氏は契約を一方的に解除する権利はあるのか?

その答えは、当事者の一方的に契約を解除する権利の有無による。『民法典』の規定によると、一方的な解除権は法定 解除権と約定解除権の 2 種類からなる。

法定解除権の根拠は『民法典』第 563 条である。第 563 条第 1 項には、「次の各号に掲げる事由のいずれかに該当す る場合は,当事者は契約を解除することができる。(1) 不可抗力により契約目的の実現が不可能となった場合。(2) 履行 期限が到来する前に、当事者の一方が主要な債務を履行しない旨を明確に表示し,或いは自己の行為により表明した場 合。(3) 当事者の一方が主要な債務の履行を遅滞し,催告を受けた後もなお、合理的な期間内に履行していない場合。(4) 当事者の一方が債務の履行を遅滞し,又はその他の違約行為により契約目的の実現が不可能となったとき。(5) 法律で規 定するその他の事由。」と規定している。従って、A 氏の状況の場合は上述(2)の規定に合致するため、一方的に契約 を解除することができる。「持続的に履行債務を内容を伴う不定期契約」について、『民法典』第 563 条第 2 項では、「当 事者は契約を解除することができる。但し,合理的な期限前に相手方に通知しなければならない。」と規定している。

約定解除権の根拠は『民法典』第 562 条第 2 項の「当事者は,一方による契約解除の事由を約定することができる。 契約解除事由が発生した場合は,解除権者は契約を解除することができる」という規定にある。B 氏の状況は明らか

に法定解除権の規定に合致せず、一方的に契約が解除できるか否かは、B 氏と家具屋との間の契約において、B 氏の一 方的な売買キャンセルという契約解除の事由を約定していたかに依る。 このような約定がなければ、原則として B 氏 には解除権がない。

例外として、もし B 氏の家具が特注品である場合は、『民法典』第 787 条の規定により、請負人が作業にとりかかる 前であれば、注文者は契約を解除することができる。しかし、これにより、請負人に損失をもたらした場合は、損失を 賠償しなければならない。

では、一方的な解除権は通常どのように行使するのだろうか?『民法典』第 565 条第 1 項の規定によると、当事者は 解除通知を送付し、一方的な解除権を行使する必要がある。ただし、第 565 条第 2 項の規定によると、当事者は「訴訟 の直接提起又は仲裁の申立という方式を用い、法により契約解除を主張する」こともできる。認定される場合は、「契約 は、訴状副本又は仲裁申立書副本が相手方に送達されたときに解除される。」。

又、一方的な解除権の行使には期限がある。法律に解除権の行使期限についての規定に基づき、或いは当事者らが約 定している場合は、その期限日までに行使しなければならない。解除権の行使期限について法律に規定がない、もしく は当事者らで約定していない場合は、解除権者が解除事由を知ったか、または知り得たはずの日から 1 年以内に行使し、 或いは相手の催告を受けた場合は、その後合理的な期限内に行使しなければならない。

最後に、注意すべきことは、契約の一方的な解除による結果は履行状況によって異なる。具体的に言えば、まだ履行 されていない契約は履行終了となる。すでに履行されている契約については、履行状況と契約の性質によって、当事者 は原状回復またはその他の救済措置の請求、かつ損害賠償請求の権利がある。契約が相手方の違約により解除された場 合、当事者に別途約定がある場合を除き、解除権者は違約者に違約責任を請求することができる。

立法動向

『知的財産権濫用による競争排除・制限行為禁止に関する規定』

市場監督管理総局は先日、『知的財産権濫用による競争排除・制限行為禁止に関する規定』(以下『新規定』という) を公布し、2023 年 8 月 1 日より施行する。『独占禁止法』の関連規定の一つである『新規定』は、19 条だった『知 的財産権濫用による競争排除・制限行為禁止に関する規定』(2020 年版)(以下『旧規定』という)から、条文が 33 条に増加し、以下のような改正が行われた。

一、知的財産権の濫用に係るカルテルについては、

No改正ポイント
1『旧規定』第 3 条ではカルテルの「実施」のみを定めていたが、『新規定』ではカルテルの「達成」時にま で遡る。
2第 6 条において、「事業者は知的財産権の行使により他の事業者を組織してカルテルを達成したり、他の事 業者によるカルテルの達成に実質的な支援を与えてはならない」ことが新たに追加された。
3『新規定』第 18 条では、事業者が「正当な理由なく」標準の制定と実施を利用してカルテルを達成しては ならないとされる状況を新たに追加した。 1競争関係にある事業者と連携し、特定の事業者の標準制定への関与を排斥、或いは特定の事業者の関連標 準技術案を排斥する場合。 2競争関係にある事業者と連携し、他の特定の事業者による関連標準の実施を排斥する場合。 3競争関係にある事業者と他の競争的標準の不実施を約束する場合。 4市場監督管理総局が認定したその他のカルテル。
4『新規定』第 25 条では、「事業者が他の事業者を組織し、カルテルを達成したり、他の事業者によるカルテ ルの達成に実質的な支援を与える」行為について明確に禁止した。
『カルテル禁止規定』第 18 条第 2 項の規定によると、上述の「実質的な支援を与える」とは、「必要な支 援を与えること、重要な利便条件をつくること、またはその他の重要な支援を含む」こととしている。 注:どのような行為が知的財産権を利用した「実質的な支援を与える」行為に該当するかについては、今後 の司法実務における判例が指針となる。

二、市場における支配的地位の濫用については、

1.市場における支 配的地位認定のた めの特別な条件要素の追加

知的財産権の特殊性に鑑み、『新規定』第 8 条において、「知的財産権所有事業者が関連市場にお いて支配的地位にあるか否かの認定時には、関連市場で取引相手が代替関係にある技術や製品に 転向する可能性及転向コスト、下流市場の知的財産権利用に基づく商品提供への依存度、取引相 手の事業者に対する制約能力などの要素についても考慮することができる」と第 3 項の規定を新 規追加した。

2.不公平な高値に 関する規定の新規 追加

『国務院独占禁止委員会の知的財産権分野に関する独占禁止ガイドライン』第 15 条をもとに、『新 規定』第 9 条において、「市場における支配的地位を有する事業者は、知的財産権行使の過程にお いて知的財産権を不当な高値で許諾したり、知的財産権を含む製品を販売することにより、競争 を排除・制限してはならない」と新たに追加された。 前項の行為認定時は、下記の要素が考慮される。 ①当該知的財産権の研究開発コストと回収期間。 ②当該知的財産権のライセンス料の計算方法とライセンス条件。 ③当該知的財産権と比較できるこれまでのライセンス料又はライセンス料基準。④事業者が当該知的財産権のライセンスに対する承諾。⑤考慮すべきその他の要素。 注:企業が知的財産権の研究開発のために大量のコスト投入を必要とし、また知的財産権の限界 効用が低いという特徴を考慮し、「当該知的財産権の研究開発コストと回収期間」が考慮要素に 取り込まれた。

  1. 「限定取引行 為」の種類の増加
    『独占禁止法』第 17 条との一致のために、『新規定』第 11 条では、禁止対象となる限定取引行 為において「限定取引相手は特定の事業者との取引を行なってはならない」という項目を新たに 追加した。

4.抱き合わせ販売 行為についての 改正
『新規定』第 12 条では 2 種の抱き合わせ販売行為が削除された。1異なる商品の強制的なバン ドル販売や組み合わせ販売。2抱き合わせ販売行為により、当該事業者の抱き合わせ販売品市場 における支配的地位を抱き合わせ販売対象品市場に拡大し、他の事業者の抱き合わせ販売品市場 または抱き合わせ販売対象品市場における競争を排除・制限するもの。そして、新たに以下の 2 種を追加した。1知的財産権を許諾する際に、許諾者に他の不要な製品の購入を強要する、また は別の手段で強要する。2知的財産権を許諾する際に、許諾者に一括許諾の承諾を強要する、ま たは別の手段で強要する。


  1. 不合理な取引 条件付加に関す る規定の改正
    知的財産権を有していないものについては、事業者が不合理な取引条件を付加しても利益を得る ことはできない。従って、『新規定』第 13 条では、事業者が付加した「(四)保護期間が満了し た又は無効と認定された知的財産権に対して引き続き権利を行使すること」という不合理的な取 引条件を削除し、権利の転送においても、不合理な取引条件として「排他的」転送の禁止、「合 理的な対価を提供せずに、取引相手に同じ技術分野のクロスライセンスを行わせる」ことの禁止 が付け加えられた。

6. 「パテントプー ル」関連規定の改 正

『新規定』第 17 条では、パテントプールを利用した市場における支配的地位の濫用行為 3 種を 新たに追加した。
①不公平な高値でパテントプールを許諾する。 ②正当な理由なく、パテントプールメンバーまたは許諾される人の特許使用範囲を制限する。 ③正当な理由なく、強制的に競争的特許を組み合わせて許諾するか、または必須ではない特許、 終了済みの特許を他の特許と強制的に組み合わせて許諾する。

7. 「善意の交渉な しに」禁令の救済 を求めてはなら ないという規定 の新規追加

『新規定』第 19 条では、「標準必要特許の許諾過程において、公平、合理、無差別の原則に違反 し、善意の交渉を経ずに、裁判所またはその他の関係部門に対して関連知的財産権の使用を禁止 する判決、裁定、決定などを求めることで、許諾者に不当な高値やその他の不合理な取引条件を 納得させる。」ことが新たに追加された。

三、知的財産権に係わる事業者集中の規定の新規追加

『新規定』第 15 条では、「知的財産権に係わる事業者の集中が国務院が規定する申告基準に達した場合、事業者は 事前に市場監督管理総局に申告しなければならない。」ことを定めている。これは、『独占禁止法』と一致する。

知的財産権に係わる事業者の集中審査において、『新規定』第 16 条では「国務院独占禁止委員会の知的財産権分野 に 関 す る 独 占 禁 止 ガ イ ド ラ イ ン 」 第 2 4 条 を も と に 、「 知 的 財 産 権 に 係 わ る 経 営 者 の 集 中 取 引 の 具 体 的 な 状 況 に 応 じ て 、 付加的な制限条件は以下の4つの状況が含まれる。①知的財産権又は知的財産権に係わる業務からの撤退。②知的財 産関連業務の独立運営を維持。③合理的な条件における知的財産権の許諾。④その他の制限的条件。」ことを定めた。

なお、『新規定』第 25~28 条における行政罰の内容は基本的に『独占禁止法』第 56~59 条、第 63 条と概ね一致 し、つまり、処罰規則が一致している。

弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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