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特集 上海ハイウェイス法律相談事例

役職定年制は、中国でも導入可能?

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第58回~

法律物語役職定年制は、中国でも導入可能?

企業の設立年数が長くなるほど、年配管理者は多くなる。それと同時に、後継者や若手社員にも昇進やトレーニングの機会も 必要である。「1 本の大根に一つの穴」という諺の言うように、如何にして若い世代のための「持ち場」を作るかは企業の悩みの種 になっている。

日本では、多くの会社は役職定年制を採用している。つまり、一定の年齢に達した役職者は役職から離れ、補佐やその他の専 門職に配転される。その制度の目的は、「後継者」により長い引き継ぎ期間とより多くの成長の機会を与えること、そして他の従業 員のための「持ち場」をあけ、昇進の余地を与えることである。では、中国で設立されている会社の場合、役職定年制の導入は可 能なのか。

実は、中国の一部の国有企業や銀行でも、類似の制度があり、通常「退居二線制度」と呼ばれている。つまり、高級管理者は 定年退職の 2 年前から管理職を離れ、後継者の補佐となる。従って、管理者が定年退職を待たずに役職を退くことは中国では決 して目新しいものではないため、ゼロから認識して受け入れる必要もない。

しかし、役職定年制の導入を検討する際、会社は実情に合わせて、当該制度を効果的に実施できるか及びその効果に大きく 影響を与えるいくつかの重要な課題について予め熟慮する必要がある。業界、経営状況及び人材の配置などに基づき、下記の 要素を含むが、これらに限定されない。

(1)役職定年制の対象者。つまり、どの階級や職位を対象とするか?例外的な対応を要する特別な職位や人員がいるか否 か?

(2)役職定年制の開始日は定年退職の何年前に設定すればよいのか?職務毎にするのか、それとも一律にするか?役職定 年制には人間関係の対応における欠点も隠れているので、役職定年制の対象者と後継者との関係への対応、部下の業務報告 などの諸要素を考慮する必要がある。早ければ早いほどいいというわけではない。

(3)役職定年後の賃金は如何に設定すればよいのか?例えば、従来の職務手当は一律して取り消すのか?それとも他の柔 軟な方法を取るべきか?

実際に役職定年制の構築を導入する際は、法的リスク防止の角度から、以下のポイントに留意するよう勧める。

第一に、情理にかなう役職定年制を制定し、法による民主的手続きを履行すること。

一般的な方法としては、役職定年制を退職制度の構成部分として確立する。司法実務において、民主的手続きを履行し、かつ 明らかに不合理的ではない制度であれば、通常その効力は認められる。

また役職定年制の合理性についてのルールを設定する際は、以下の 2 点に注意を払う必要がある。一点目は、賃金の不利益 変更の幅が大きすぎると、不合理と認定される可能性がある。また、役職定年対象者の積極性と協調性に影響を与える可能性も 高い。二つ目は、役職から外すことにより、女性管理者が管理職から非管理職に変更された場合、その定年退職年齢に直接影 響するため、各要素と基準を慎重に設定する必要がある。

第二に、役職定年制を実行する際に注意すべき事項ついて。

注意事項は主に下記の通りである。

(1)役職定年対象者、後任者及び直属部下の状況を事前に調査して把握する。重要な職位に対しては事前にリスクの対策を 練る必要がある。

(2)役職定年対象者と面談をしっかり行い、その心情と提案を聴取し、以前の実績を肯定した上で、その経験と技能の発揮、 後任者への協力や会社から手配されたその他の仕事の遂行を促す。

(3)最後に、役職定年対象者と後任者が並存する期間中は、双方及び直属部下の業務交流などの状況に細心の注意を払 い、揉め事が生じた場合は、直ちに適切な方法で介入や調整を行う。

実務検討

相手が違約した場合は、こちらも投げやりになってよいか?

最近、顧客先の A 社から、「取引相手が違約したので、こちらは供給を停止するなど、自棄糞になってもいいでしょうか」という 相談を受けた。不景気で多くの企業が経営不振に陥っているため、違約したり、違約されたりするケースは珍しくない。A 社が抱 える問題に、多くの企業が関心を持っていると思われる。

法律の視点からみると、これは先履行の抗弁権に係わる。『民法典』第 526 条では、以下のことを定めている。「当事者は互い に債務を負い、履行には順序がある。債務を先に履行する当事者がそれを履行しない場合、後に履行する当事者はその履行 請求を拒否する権利がある。債務を先に履行する当事者の債務履行が約定に合致しない場合、後に履行する当事者はその相 応の履行請求を拒否する権利がある。」 従って、契約により、相手に先履行の義務がある場合は、当事者は相手の違約状況 に応じて、自分がどの義務を履行しなくてもよいかを判断することとなる。例えば、(2023)京 02 民終 6759 号事件において、北京 市第二中級裁判所は、「胡氏と陳氏は会社に対して先履行の抗弁権を有する。会社が約定通りに持分譲渡金の支払義務を履 行していない前提下で、胡氏と陳氏は、会社からの業績補償金の支払請求を拒否する権利がある」と指摘した。

企業が個別案件において先履行の抗弁権を主張できるか否か、つまり司法機関に認められるのかを判断する時に、以下の 要素を考慮する必要がある。

まずは、違約者が先履行の義務を負うかを確認する。これは先履行の抗弁権の前提条件である。実務において、通常契約の 約定、法規定、商習慣などに合わせて判断する。『最高人民法院民商事判例集要』の関連論述は参考に値する。「一方の当事 者が先行の履行義務を負うか否かを判断する時は、まず、契約において各当事者の義務の履行順序を明確に約定しているか 否かを確認する。明確な約定がなければ、法定の履行順序があるか否かを分析する。法定の履行順序がなければ、当事者間 又は取引地の商慣習の有無及び商慣習の具体的な内容、各当事者が契約においてそれぞれの義務の具体的な履行時点を約 定しているか否か、当事者一方の契約義務が相手の義務履行の条件として約定されているか否か、契約の全体的な調整、契 約の性質、主旨、目的などの要素と結び付けて、当事者の締約時における真の意思表示を総合的に判断し、先履行の抗弁権を 行使できるか否かを認定する。」

次に、義務の「対等性」を考慮する。双方の義務履行拒否は「対等性」がなければならない。実務において、先に履行する当 事者が付随義務/従たる給付義務のみを履行していない状況下で、後に履行する当事者がそれを理由に主たる給付義務を拒 否する場合、裁判所に認められない可能性が高い。例えば、(2022)京 03 民終 13061 号事件において、北京市第三中級裁判所 は、「M 社は、X 社が領収書を発行していないことを理由に、先履行の抗弁権を有し、かつその支払条件が成就しないことを主張

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した。北京第三中級裁判所は、先行履行の抗弁権を享有する各義務は通常、対等性があり、広告配信契約において支払義務 と対等の義務は広告配信義務であると判断する。一審裁判所は、X 社の広告配信義務は履行済みで、M 社が X 社の領収書未 発行のみを理由に支払を拒否することに根拠はないと認定した。又、一審裁判所が X 社の支払遅延による違約金の主張を認め たことも不適切ではない」と指摘した。

最後に、先に履行する当事者が違約した後、後に履行する当事者は状況に応じて、その先行履行の抗弁権を明示しなけれ ばならない。中国最高裁判所の『民法典契約編の理解と適用』によると、先履行の抗弁権の行使を明示する必要があるか否か は、状況によって検討しなければならない。先に履行する当事者が履行不能、履行拒否、履行遅滞になった場合、先に履行する 当事者は知っていると推定できるので、後に履行する当事者が自発的に明示する必要はない(もちろん、先に履行する当事者 が履行を請求した場合、後に履行する当事者は明確に回答しなければならない)。しかし、先履行の義務を負う当事者の履行に 重大な瑕疵がある場合、又は一部のみが履行された場合、信義誠実の原則に基づき、後に履行する当事者は先履行の抗弁権 を行使するには、損失の拡大を防止するため、相手への通知、かつ相手に立証、解釈、是正の機会を与えなければならない。 先に履行する当事者が、給付義務のすべてが履行済みだと思っている可能性があるからだ。そのため、このような状況になった 場合、後に履行する当事者は速やかに相手に通知しなければならない。

上記の纏めとして、相手が先に違約した場合に、当事者は上述の要素を慎重に考慮した上で、先履行の抗弁権の行使を主 張することができる。何も考えずになげやりになってはならない。さもなければ、かえって自分に違約のリスクを招くことになるか もしれない。

立法動向

『企業名称登記管理規定実施弁法』が 2023 年 10 月 1 日より施行訴

2023 年 8 月 29 日、国家市場監督管理総局は『企業名称登記管理規定実施弁法』(以下『新弁法』という)を公布し、2004 年版 を改正した。『新弁法』は 10 月 1 日から施行される。2021 年 3 月 1 日から施行されているその上位法である『企業名登記管理規 定』において、企業名称承認制度を企業名称自主申告制度に変更し、事前審査を事後監督管理に変更したため、下位法の具 体的な規則を調整することが今回の改正の主な理由である。

『新弁法』のポイントは下記の通りである。

1、一定の影響力を持つ企業名称に対する保護の強化

権利侵害の禁止という角度から、『新弁法』第 16 条には、「企業名称は同業界で先に一定の影響力を持った他人の名称(略 称、屋号などを含む)と同一又は類似の文字を使用してはならないと規定している。第 23 条には、「企業名称を申告する際に、 先に一定の影響力を持った他人の名称(略称、屋号などを含む)と類似の企業名称を故意に申告してはならない。」と規定して いる。

行政保護の角度から、『新弁法』第 33 条には、「省レベルの企業登記機関は企業名称登記管理業務において、全国で一定の 影響力を持つ企業名称(略称、屋号などを含む)が他人に無断で使用され、公衆の誤解をもたらしたことを発見し、当該企業名 称を企業名称使用禁止・制限管理を行う必要がある場合は、直ちに国家市場監督管理総局に報告する。国家市場監督管理総 局は具体的な状況に応じて、企業名称使用禁止・制限管理を行うか否かを決定する。つまり、一定の影響力を持った企業名称 に対して、馳名商標(注:著名商標のことを指す)の「区分を跨る保護」程度の企業名称の「行政区域に跨る保護」を提供する。ま た、第 48 条では、権利侵害行為禁止に違反した場合の行政罰措置を規定している。

2、企業名称紛争裁決手続規定への細分化

手続きの公平を保障するために、『新弁法』の第五章では、申請者が裁決のために提出する資料、企業登記機関の審査期 限、受理しない理由、答弁手続、調停及び裁決など、名称紛争裁決の具体的な手続を定めている。

3、企業名称の命名要求への更新

『新弁法』第 10 条では、企業名称における屋号に対する要求を追加した。屋号は顕著性がなければならない。そのため、企 業名称の命名は行政区画の名称、業界や経営特徴の用語を避けなければならない。但し、『新弁法』によると、用語に他の意 味があり、かつ社会大衆に明確に識別され、地名、業界や経営特徴と特定のつながりがあるかのように誤解をもたらさない場合 は、屋号または屋号の構成部分とすることができる。又、『新弁法』によると、自然人である投資家の氏名を屋号にすることがで きる。

弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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