Offcial SNS

上海ハイウェイス法律相談事例

【法律相談】AI で生成する画像、文章は著作権法の保護対象の著作物に該当するか

2024年1月3日

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第61回~

法律物語

期間満了により労働契約を終了する場合、30 日前に通知する必要はあるのか?

北京のある会社と田さんが締結した労働契約の期限は 2021 年 10 月 8 日までである。同社は 2021 年 10 月 8 日に田さんに対 して労働契約更新の通知を行ったが、双方は労働契約更新について合意に至らなかった。田さんは労働仲裁を申し立て、会社 が 30 日前に通知しなかったことによる賠償金を請求した。労働仲裁、一審、二審はいずれも田さんの請求を認めた((2023)京 02 民終 7836 号)。

一般的な認識では、『労働契約法』第 40 条では、使用者は法に基づき一方的に労働契約を解除する場合、30 日前に通知する か、または解雇予告手当を支払うことを明記されているのに対し、第 44 条では、労働契約の終了についての予告期間が明確に定められていないため、この判決を意外に思う人は少なくないだろう。しかし、本件において仲裁機関と裁判所は「的なくして矢を射る」というわけではなく、地方性規定を根拠としている。

『北京市労働契約規定』(2021 年改正、2001 年に初回施行時に当該条項がある)第 47 条には、「使用者は本規定第 40 条に 違反し、労働契約終了を 30 日前に労働者に通知しない場合、労働者の前月の平均賃金を基準とし、遅延 1 日ごとに労働者に対 して 1 日分の賃金相当額を賠償金として支払う」と規定している。この規定により、本件において、北京の会社は最終的に 1 ヶ月 分の賃金相当額を賠償金として支払うという判決を受けた。

ほかの地方の実務規則はどうだろう?

調べてみると、湖北省と江蘇省では、30 日前に労働者に通知することが定められているが、予告しないことによる責任につい ては明記されていないことが分かった。又、湖北省と江蘇省の裁判例を検索したところ、使用者が予告しなかったことにより賠償を命じられた判例は見つからなかった。

一部の省・市では地方性規定によって状況が少し異なる。地方性規定では予告期間を明文化していないが、労働契約モデル では 30 日前に通知することを約定している。例えば、浙江省の『労働契約管理の更なる強化に関する通知(2003)』の別紙の「労 働契約モデル」にも同様の規定がある。しかし、このような省においても、使用者が予告しなかったことにより賠償を命じられた判 例は見つからなかった。

以上のことから、冒頭の北京の会社のような結果を招かないために、使用者は、所在地の地方性規定に、労働契約が期間満 了により終了する場合の通知期限に係る要求があるかないかについて細心の注意を払わなければならない。一歩引いて、所在地にそのような関連規定がなくとも、コンプライアンス管理、リスク低減の観点から、特別な事情がない限り、30 日前に通知したほ うが良いだろう。そうすることで、更新が遅れることで無固定期限労働契約に直接入ることや、労働契約締結の遅れで2 倍の賃金 を支払うリスクを回避するとともに、仕事の引継ぎや未消化の有給休暇の消化などを適時指示することができる。

実務検討

AI で生成する画像、文章は著作権法の保護対象の著作物に該当するか

2023 年 11 月の末、北京インターネット裁判所の判決が話題になっている。原告は AI で画像を生成して小紅書(RED)に投稿し、 被告は自分の文章を投稿する際に原告の関連画像を使用した。そして、原告は著作権侵害を理由に訴訟を提起した。北京イン ターネット裁判所の一審判決は、「本件の AI で生成した画像は『著作権法』の保護対象の著作物に属するため、権利侵害が成立 する。」と認定した。

本件について、北京インターネット裁判所は、「画像が著作物になるか否かは、知的成果に属するか否か、独創性があるか否 かによって認定する。」と指摘した。

まず、「知的成果」の認定について、当該裁判所は「原告は画像の構想から最終的な選定まで、人物の表現方法の設計、プロ ンプトの選択、プロンプトの順序、パラメータの設定、どの画像が期待に添うかなどの選定を含めて、一定の知力を働かせた。画 像は原告の知力を表しているので、「知的成果」の要件を備えている。」と判断した。

次に、「独創性」の認定について、当該裁判所は「原告は人物やその表現方法などの画像要素をプロンプトにより設計し、画像 の構図などをパラメータにより設置し、原告の選択と取り決めを体現している。また原告はプロンプトの入力、パラメータの設定に より、最初の画像を取得した後、プロンプトの追加、パラメータの修正及び調整を絶えず続け、最終的に本件に関わる画像を取 得した。この調整過程も原告の審美的選択と個性的判断を体現している......本件の画像は「機械的な知的成果」ではない。反対 の証拠がない場合に、本件の画像は原告が独立して完成したもので、原告の個性的表現を体現していると認定することができ る。」と指摘した。

本件は中国において AI 生成画像による著作権侵害の初めての事件である。これに先立ち、深セン南山裁判所は AI 自動生成 文章の著作権侵害事件((2019)粤 0305 民初 14010 号)について判決を下した。当該事件においては、深セン南山裁判所は「AI で自動的に生成した文章は著作物になる」と認定し、「本件の文章の生成過程から分析すると、当該文章の表現形式は原告の 創作チームメンバーの個性的取り決めと選択によって決められたものであり、その表現形式は唯一ではなく、一定の独創性を有 する」と主な認定理由を指摘した。

それにもかかわらず、AI で生成したコンテンツ(画像、文章など)は著作物にあたるか否かについては、法学と司法実務におけ る意見が大きく異なる。問題の核心は、AI で生成したコンテンツに独創性があるか否かについての意見が一致しないことにある。

AI の技術的特質に基づいて、AI で生成するコンテンツの独創性は認められるべきではないと思われる。

司法実務において、独創性を認定するとき、通常、2 つの要素を考慮する。1、著作者が独立して創作したものであるか否か。 2、表現の取り決めは著作者の選択、判断を体現しているか否か。

著作者が独立して創作したものであるか否かの要素については、ユーザーが AI を利用しなければ、自分で相応の「著作物」を 創作できない場合は、自分で創作したとは言えない。この点において、技術的な手段で創作した著作物とは明らかに異なる。例 えば昔の手描きや定規を使った絵、現在のコンピュータで製図するなど技術的な手段は、あくまでも「ツール」の役割を果たして いるに過ぎず、「ツール」を用いて自分の「思想」を表現するのは著作者である。米国の「スペースオペラハウス」の著作権登録棄 却事件は、この見解を反映している。ジェイソン・アレンが AI システム Midjourney で作成した「スペースオペラハウス」は、2022 年 コロラド州博覧会のアートコンペティション賞を受賞したが、米国著作権局に著作権登録を申請したところ、米国著作権局は最終 著作物の形成過程において AI システムの影響が実質的に存在するとして、申請を棄却した。

表現の取り決めについても、著作者の選択、判断を体現しているか否かの要素において同様の結論になる。

まず、AI によるコンテンツの生成は、AI が十分なデータ/素材を「与えられた」という前提を満たす必要がある。言い換えれば、 AI は「人」からの指令に基づいて、既存のデータ/素材を選択、配列、組み合わせ、すなわち表現手段において編集作品に類似 する。しかし、AI で生成するコンテンツは明らかに編集作品の定義と要求に合わない。

次に、AI で生成するコンテンツが知的創造に達しているか否か。前述のように、AI によるコンテンツの生成は既存のデータ/素 材を配列し、単純な線、事実情報、グラフ公式、法律法規などの非著作物、または『著作権法』を適用しない部分を排除するもの で、残りは全て既存の著作物である。この場合に、既存の著作物の配列、組み合わせなどに対して「知恵を使った」としても、通 常、「知的創造」には至らない。

最後に、逆に言えば、AI で生成するコンテンツは『著作権法』の保護対象の著作物になると認定された場合、当該「著作物」は オリジナルデータ/素材に基づいた元の著作物の著作権を侵害している疑いがある。司法結論の傾向から、好ましくない循環に 陥る可能性がある。

そのため、現行の規定及び現在の AI 技術段階から言えば、AI で生成するコンテンツを著作物とし、著作権法による保護を認 めるのは適切ではないと思われる。

立法動向

『中華人民共和国特許法実施細則』が改正済み、2024 年 1 月 20 日より施行

2020 年に『特許法』が改正され、2022 年 2 月 5 日に中国が世界知的所有権機関の『工業製品意匠国際登録ハーグ協定』への 加入申請後、上述の変化に対応するために、国務院は 2023 年 12 月 11 日に『特許法実施細則』改正案を可決し、2024 年 1 月 20 日より施行することになった。

今回の改正のポイントは以下の通りである。

1. 新規性を失わない状況の認定基準の一層明確化

『特許法』第 24 条では、特許を出願する発明創造について、出願日前の 6 ヶ月以内に下記の 4 つの特定の状況が発生した場 合、新規性を失わないことを定めている。(1)国家に緊急事態または非常事態が発生し、公共の利益のために初めて公開された 場合。(2)中国政府が主催または承認した国際展覧会で初めて出展された場合。(3)所定の学術会議または技術会議で初めて 発表された場合。(4)他人が申請者の同意を得ずにその内容を漏洩した場合。

新『特許法実施細則』第 33 条では、上述の 4 つの状況について、認定基準及び手続要件を下記のように定めている。「特許法 第 24 条第(2)号にいう中国政府が承認した国際展覧会とは、国際展覧会条約に規定された国際展覧局に登録しているか、また は当該国際展覧局に認可された国際展覧会を指す。特許法第 24 条第(3)号にいう学術会議または技術会議とは、国務院の関 係主管部門または全国的な学術団体が開催する学術会議または技術会議、および国務院の関係主管部門の認可を受けた国際 組織が開催する学術会議または技術会議を指す。特許を出願する発明創造が特許法第 24 条第(2)号又は第(3)号の状況に該 当する場合、出願人は特許を出願する際に声明し、出願日から 2 ヶ月以内に、発明創造がすでに展示または発表されたこと、お よび展示日または発表日に関する証明書類を提出しなければならない。特許を出願する発明創造が特許法第24 条第(1)号又は 第(4)号の状況に該当する場合、国務院特許行政部門は必要と判断した場合、出願人に指定期限内に証明書類を提出させるこ とができる。出願人が本条第 3 項の規定に基づいて声明せず、証明書類を提出しない場合、または本条第 4 項の規定に基づい て指定期間内に証明書類を提出しない場合、その出願には特許法第 24 条の規定が適用されない。」

2. 職務発明奨励及び報酬の基準の引き上げ

新『特許法実施細則』では、発明特許の賞金を過去の 3000 元から 4000 元に調整し、実用新案または意匠の賞金を 1000 元か ら 1500 元に調整した。

報酬について、元「特許法実施細則」第 78 条では、会社に規定がなく、かつ設計者との約定がない場合に、関連営業利益また は使用許諾料から一定の割合を報酬として抽出すべきであると規定している。新「特許法実施細則」ではこの規定を削除し、『科 学技術成果転化促進法』の規定に基づき報酬を与える内容に変更した。

『科学技術成果転化促進法」に規定された関連営業利益の割合は 5%である。これは従来の『特許法実施細則』に規定された発 明特許または実用新案に関連する営業利益の 2%、意匠に関連する営業利益の 0.2%をはるかに上回っているため、今後、規定及 び約定がなければ、職務発明報酬基準は大幅に引き上げられる。また、許諾使用料については、旧『特許法実施細則』では 10%、『科学技術成果転化促進法』では純収入の 50%と規定されている。

弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

-上海ハイウェイス法律相談事例
-

  • この記事を書いた人
  • 記事一覧

上海ハイウェイス法律事務所

会社業務、知的財産権、国際貿易、税関業務、不動産、金融証券など様々なリーガルサービスを提供。日本語が堪能な弁護士が企業や個人のお悩みを丁寧に対応。
電話:(86) 21 5877 3177 (86) 1391 742 1790
E-mail: kittykim@hiwayslaw.com