上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第66回~
法律物語
外国人駐在員と現地法人の間に労働紛争が発生した場合は、どのように対処すべきか?
外国人が中国で就労する場合は、『外国人の中国における就業管理規定』(以下『外国人就業規定』という)に基づいて外国人 就業許可証を取得しなければならない。
外国人就業許可証の申請をする際、ほとんどの省・市は『外国人就業規定』第 17 条の規定に基づき、使用者と雇用される外 国人が労働契約を結ぶことを要求する。しかし、一時的な派遣として、中国子会社に勤務するだけで、親会社との労働関係を維 持したままの外国人が多い状況であることに鑑み、一部の省や市では、一定の条件を満たす中国子会社に派遣状などの書類を 提供することで労働契約の代わりとすることを認めている。一定の条件については、省・市によって異なる。例えば、上海では、多 国籍企業や地区本部の場合において、派遣状を通じて中国子会社に高級管理職又は技術者を派遣することができる。
懸念されるのは、中国子会社と労働契約を結んでいる外国人駐在員の間に労働紛争が発生した場合、如何に処理するべき かという点である。
まずは、当該外国人駐在員と中国子会社が労働関係に該当するかを判断する必要がある。
この問題については、実務観点が比較的統一されている。即ち、ほとんどの裁判所が、中国子会社が賃金を支給しているかど うかによって労働関係に該当するか否かを判断する。例えば、(2021)遼 02 民終 7576 号案件において、裁判所は「外国籍従業員 は中国子会社と労働契約を締結しているが、給料は依然として海外親会社から支給され、かつ当該従業員が海外親会社の派遣 状に署名しているため、当該従業員と中国子会社との間に労働契約関係が存在すると認定されるべきではない。そうすること で、外国人従業員が労働契約解除後に海外親会社から相応の賠償を得た後、国内子会社に賠償を主張するリスクを回避する のに役立つ。」と判断した。一方、(2017)滬 01 民終 2768 号案件と(2020)魯 10 民終 1902 号案において、裁判所は「外国籍従業 員が中国子会社へ労働を提供し、中国子会社が外国籍従業員に給料を支給することは、労働関係の基本的な特徴に合致する ため、双方間に労働関係が存在する。」と判断した。更に、外国人駐在員の給料を海外親会社と中国子会社がそれぞれ一部ず つ負担する場合は、中国子会社が給料を支払っている以上、金額が少なくても、通常、中国子会社と外国籍駐在員との間に労 働関係が存在すると認定される。
また、双方間の関係が労働関係であると判断された場合、外国籍駐在員との労働契約の解除または終了について必ずしも 『労働法』、『労働契約法』の規定に基づいて処理するわけではない。その原因としては、このような場合、『外国人就業規定』第 25 条を適用するか、それとも第 22 条を適用するか、地方によって意見が異なるからである。
『外国人就業規定』第 25 条には、「使用者と雇用されている外国人との間で労働紛争が起こった場合、『労働法』と『労働争議 調停仲裁法』に基づいて処理する」と規定している。但し、『外国人就業規定』第 22 条には、「中国で就労する外国人の勤務時 間、休憩、休暇、労働安全衛生及び社会保険については、国の関連規定に従い執行する」と規定している。当該文言から見て、 「国の関連規定」に従い執行する対象は上述の 5 つの項目のみに限られ、「等」という表現がつけられていないため、適用対象を広げる余地がない。従って、司法実務において、外国人駐在員との労働契約を解除または終了する場合は、『外国人就業規定』 第 25 条を適用するか、それとも第 22 条を適用するか、つまり、『労働法』などの関連条項に従い執行するか、それとも双方間の 約定に従い執行するかについて、意見のバラつきが見られる。
例えば、上海では、2017 年と 2018 年の判決において、労働契約の解除または終了について、『労働法』及び『労働契約法』の 関連規定に従い執行することを認めたケース(例えば(2017)滬 02 民終 1039 号など)がある。しかし、それ以降処理規則が変わ り、いずれのケースにおいても『外国人就業規定』第 22 条に従い厳格に執行されている。また、北京市、広州市では、労働契約 の解除または終了について、『労働法』及び『労働契約法』の関連規定に従い執行するという観点が主流となっている。例えば、 (2018)粤民再 267 号案件において、裁判所は「1か月前に労働契約を解除する場合、責任を負わないという双方間の約定は『労 働契約法』の強行規定に違反しており、無効である。」と判断した。又、(2019)京 0108 民初 28262 号案件において、裁判所は、 「外国籍従業員が 30 日間継続して病気休暇を取得した後もなお職場復帰できない場合、会社は責任を負うことなく労働契約を解 除できるという双方間の約定は、医療期間の関連規定に違反し、無効である。」と判断した。
以上のことから、中国子会社が、外国人駐在員との労働契約の解除または終了について、『労働契約法』などの規定の適用を 避けるために2つの方法が考えられる。一つは、給料は海外親会社が支払うこと、もう一つは、労働契約において解除または終 了の条件及び責任について特別な約定を行うことである。こうすることで、少なくとも一部の省・市では認められるはずだ。
実務検討
製品の生産を停止する場合は、生産中止案内をする必要があるのか?
現代社会において商品がモデルチェンジされる速度は速く、新製品はすぐさま旧製品に取って代わる。日用消費財(FMCG)で あれば、問題ないが、電気製品などの耐久消費財は、修理やメンテナンスなどが必要なので、製品の生産停止後、部品の供給問 題が発生する。従って、メーカーは 2 つの問題点を考えなくてはならない。一つは、製品の生産停止後、いつまで部品を供給し続 けるべきか。もう一つは、生産中止案内は必要か。
製品の生産停止後、いつまで部品を供給し続けるべきか?
生産停止後の部品の供給期間は製品別によって判断する必要がある。
例えば、テレビ、家庭用冷蔵庫、洗濯機、家庭用エアコン、ガス給湯器、レンジフードなど「三包(修理・交換・返品の保証、以下 同様)」を実行する日用家電製品については、『一部の商品の修理・交換・返品責任規定』第 7 条の規定によると、生産者は製品 の生産停止後 5 年間は技術要求に合致する部品を提供し続ける責任がある。具体的な商品は『三包を実行する一部の商品カタ ログ』を参照する。
又、自動車製品について、『自動車販売管理弁法』第 21 条によると、「サプライヤーは生産停止や販売停止の対象となる車種 を速やかに社会に公表し、かつ生産停止や販売停止後に少なくとも 10 年間、部品供給及び相応のアフターサービスを保証しなけ ればならない。」
生産中止の案内をする必要があるのか? まず、法定の開示義務の有無という観点から考えると、以下の 2 つの状況下で、生産者は開示義務を負う。
(1)上場会社の主力製品が生産停止となり、経営業績に重大な悪影響を与え得る場合、『上場会社情報開示管理弁法』の関連 規定によると、係る上場企業は速やかに公開・開示する義務を負う。例えば、ある上場企業に対する「行政監督管理措置決定書」 において、監督管理部門が、「同社が主力製品の生産停止が会社の経営に影響を与え得るという関連情報を速やかに開示してい ない。上述の行為は『上場会社情報開示管理弁法』第 3 条第 1 項、第 22 条の規定に違反する。」と指摘している。
(2)『一部の商品の修理・交換・返品責任規定』、『自動車販売管理弁法』などの特殊規定を適用する製品について、生産停止後 の一定の年限内に部品を供給する場合は、生産者は生産停止日を明確にしなければならない。言い換えると、これらの規定は、 生産者が開示義務を負うという旨が示されている。また、生産者のリスク管理という観点から言えば、生産停止日を開示しない場 合、年限の起算点がいつになるかという点が争点となり、間違いなく生産者に不利となる。
次に、契約履行のリスク防止の角度から考えると、以下の状況下では、取引相手に製品の生産停止情報を開示しなければなら ない。
(1)生産者とマーケティングチャネルとの関係においては、生産者が生産を停止すると、契約を履行できなくなったり、マーケティ ングチャネルの在庫などに影響を与えたりする可能性があるため、生産者は速やかに通知する義務がある。例えば、( 2017)滬 0151 民初 5959 号案件において、裁判所は「契約履行において、製品の生産停止や製品をアップグレードする場合、被告は適時原 告に通知すべきである...しかし、原告が初回注文した際、被告は関連状況を知らせなかった。被告の自認によると、原告が関連状 況を開示したことがない」と判断した。
(2)生産停止の対象となる型番に該当するか否かが消費者のアフターサービスなどの重要な権益に影響を与える場合、生産者 または販売者は関連状況を開示し、詐欺と認定されるリスクを避ける。判例を検索したところ、販売者が製品の生産停止情報を知 らせなかったため、消費者に詐欺として提訴されたケースが多く存在する。裁判所は通常、売り主に詐欺の主観的故意があるか否 か、製品の生産停止が消費者の重要な権益に影響を与えるか否かなどを考慮する。(2016)蘇民申 5583 号案件において、裁判所 は「当該製品が法定の販売・使用禁止状況に該当しない場合、生産停止の対象機種であるか否かは、購入者が契約通りに販売 者及びメーカーから承諾されたアフターサービスを享受することに影響を与えない。」と判断した。つまり、消費者のアフターサービ スに影響を与える場合は、詐欺と認定される可能性がある。
立法動向
『関税法』が 2024 年 12 月 1 日より施行
中国は 1985 年に『輸出入関税条例』を公布し、施行後 40 年近く経った。その間に 6 回の改正が行われた。『立法法』第 11 条によ ると、税収に関する基本制度は法律により制定するしかない。『税関法』では関税を定めたが、関税に係る具体的な税率、徴収・管 理は主に『輸出入関税条例』に基づき執行されている。又、市場の変化、特に電子商取引の発展は、本来の関税徴収に大きな挑戦 をもたらした。2024 年 4 月 26 日第 14 期全国人民代表大会常務委員会第 9 回会議で『関税法』が採択され、2024 年 12 月 1 日から 施行されることになった。『関税法』は『輸出入関税条例』を基礎とする。大部分の条項が元の条文を踏襲し、以下の内容を新規追 加した。
1、特殊税率を確定する規則及び税率調整のプロセス
『関税法』では、特殊税率を確定する規則及び相応の法定プロセスを新規追加した。第 11 条には、「関税税率の適用は、相応す る原産地の規則と一致しなければならない。完全に1つの国または地域で獲得した貨物は、その国または地域を原産地とする。2 つ 以上の国または地域が生産に関与した貨物は、最後に実質的な変更を遂行した国または地域を原産地とする。国務院は、中華人民共和国が締結するか、又は共同で参加する国際条約、協定に基づいて原産地の確定について別途規定がある場合、 その規定に従う。輸入貨物の原産地を具体的に確定については、本法及び国務院並びにその関連部門の規定に従い執行す る。」と規定している。
『関税法』第 15 条では税率調整の法定プロセスを定めた。そのうち、中華人民共和国が世界貿易機関(WTO)加盟議定書に基 づき承諾した最恵国関税率、関税割当率および輸出税率を調整する必要がある場合は、国務院関税規則委員会が提案し、国務 院がそれを審査し、全国人民代表大会常務委員会に報告し決定を求める。
2、アンチダンピング関税、補助金相殺関税、保障措置関税、報復関税について、中華人民共和国と締結したか、または共同で 参加した国際条約、協定における最恵国待遇条項または関税優遇条項を相手方が履行せず、対等の原則に基づき相応の措置 を講じたなどの状況下においては、『関税法』第 19 条によると、納税者が証明資料を提供できない場合、または証明資料を提供 したが、税関審査の結果、当該貨物が所定の措置を講じた国または地域を原産地とすることを排除できない場合、当該貨物は以 下のいずれか高い税率を課される。1所定の措置を講じることによって当該貨物に課される最高税率に、法によって適用される 税率を加算したもの。2普通税率。
3、関税の計算・徴収方式
『関税法』第 23 条には、「関税は従価税、従量税又は複合課税の形式で課される。従量税の場合、課税額は課税価格に比例 税率を乗じて算出する。従量税の場合は、課税額は貨物の数量に定額税率を乗じて算出する。複合課税の場合、課税額は課税 価格に比例税率を乗じたものと、貨物数量に定額税率を乗じたものとの和として算出する。」と規定している。
4、「不足額の補填」と「追徴」を区別しない
『輸出入関税条例』によると、輸出入貨物を通関した後、税関が関税徴収額の不足や徴収漏れを発見した場合、「1 年補填、3 年追徴+延滞金」として処理する。『関税法』第 45 条によると、3 年以内に関税徴収額の不足や徴収漏れが発見された場合、税関 が課税対象額の確認後、納税者が不足額を補填する。税関の所定期間内に不足額を補填しない場合、所定期間の満了日から 日割りで延滞金を徴収する。
5、新たな行政処罰の根拠
主に第 62 条「納税者が合併、分立、解散、破産など特殊な状況下で税関に事前に報告しなかった場合の罰則」、第 63 条「不正 な手段で税金の追納を妨害した場合、未納税額の 50%以上 5 倍以下の罰金を科す」、第 64 条の「源泉徴収又は徴収すべき税額 が徴収されなかった場合、源泉徴収又は徴収すべき税額の 50%以上 3 倍以下の過料を科す」を含む。
弁護士紹介
金燕娟 弁護士/パートナー
8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。
その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。
学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。
使用言語:中国語、日本語
主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている