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上海ハイウェイス法律相談事例

【法律相談】従業員にカルテの提出を求められるか?

2023年11月2日

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第59回~

従業員にカルテの提出を求められるか?

受付をするだけで診察を受けない、虚偽の病欠証明書を購入、長引く腰痛......様々な虚偽の病欠は、人事部門最大の頭痛 の種になっている。そのため、多くの企業では、規則制度において、病気休暇を申請する際に従業員が人事部門に提出すべき 証明書類(例えば、診療申込書、病欠証明書、カルテ、医薬品リスト、検査報告書、入院報告書など)を明記している。

しかし、『個人情報保護法』(2021 年 11 月 1 日より)施行後、多くの従業員は「プライバシー」や「個人のセンシティブ情報」を理 由に、カルテや検査報告書などの病欠書類の提出を拒否するようになった。一方、使用者は、人事管理の観点から、会社には 病欠審査権があり、個人情報であっても確認しなければならないと認識している。この問題の本質は、使用者の病欠審査権と 個人情報保護が抵触するときに、どちらを認めるかということである。この問題に対し、実務では 2 つの観点があり、食い違いも 大きい。

それでは、司法機関はどのような立場を持っているのだろうか。これは恐らく使用者及び従業員が高い関心を持つところだろ う。まずは 2 つの典型的な事例を見てみよう。

(2021)京 03 民終 106 号事件において、従業員 X はうつ病の診断証明書と病欠証明書を提出したが、会社の要求するすべて の受診書類を提出しなかった。北京第三中級人民法院は「会社が求めるカルテ、心理証明資料、費用伝票など証明書類は必 要なもののみに限るべきである。X が提供した診断証明書と病欠証明書は、病気休暇が必要であることを証明するのに十分で あり、X が医療期間の延長を要求した場合にのみ、会社は他の診療書類の別途提供を要求する必要がある。」と指摘した。

(2022)滬 01 民終 11917 号事件において、従業員 G は 2019 年 1 月 10 日から労災で入院した。会社は 2019 年 7 月から労働 能力検定を 5 回通知したが、G は協力を拒否した。2020 年 4 月 30 日、G はリハビリ病院に 2 月 27 日から 4 月 29 日までの 6 通の病欠証明書を一括して発行してもらった。その内、個別に補充した病欠証明書の発行日が、G が会社に他市へ服喪に訪れ ると通知した日であった。会社は何度も G に対し、規則制度に従い入院報告書などの証明書類を提出するよう要求が、G はプライバシーに係わるとして提出を拒否した。これについて、上海第一中級人民法院は、以下の通り指摘した。「会社は G から提供 された受診記録によって入院期間を判断できないため、入院報告書の提出を要求した。これは合理的である。G が提供した病 欠証明書の発行日に G は上海にいなかったため、会社は合理的な疑念を抱き、証明書類の提出を求めるのも合理的である。」

以上の事例から、判断の基本ルールをまとめることができる。会社が従業員の病欠を審査する際、病気休暇に係る確認書類 の「幅」と「深さ」は「必要」最低限とする。つまり、会社は診断証明書と病欠証明書の審査から、従業員が確かに病気休暇を要としていることを確定できる場合、これ以上にカルテなどの他の書類の提出を要求するべきではない。逆に、従業員から提供された書類だけでは会社として判断できず、又は矛盾点などを発見した場合、病気休暇が本当に必要かどうかを合理的に判断できるまで、病欠を証明するほかの書類の提出を別途要求することができる。

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では、冒頭で述べたように、従来の「就業規則」や病気休暇に関する規定で、様々な病欠書類を詳しく定めている場合、係る内容の修正をする必要があるのか。私見としては、状況によって審査対象となる病欠書類が異なるため、規定自体を修正する必要はないと思われる。しかし、人事部門は具体的な病欠、従業員から提供される病気休暇証明書類に対して、柔軟かつ合理的に判断しなければならない。従業員から提供される書類が少なく、判断できない場合は、すぐさま、一度でたくさんの書 類の提出を要求するのではなく、自制的、保守的な態度で、判断できるまで少しずつ書類の提出を要求したほうがよい。

実務検討

特定の契約違反行為に対して複数の責任が約定された場合、どうなるか?

契約締結時、相手の行為を有効的に拘束し、違約のリスクを下げるために、当事者は複数の違約条項を約定することが多い。 例えば、支払期限を過ぎた場合の延滞利息に併せて支払期限を過ぎた場合の違約金も約束する。しかし、このような約束は本当 に有効であるのか?つまり、本当に支払期限を相手先が守らなかった場合に、延滞利息と違約金両方を主張することはできるの だろうか?

これは一概には言えない。

貸借契約については、現行の司法解釈では、どちらか選択、あるいは両方共主張することができると明確にした上で、その総額に上限を設けている。具体的には、『最高人民法院の民間貸借事件の審理における法律適用の若干問題に関する規定』第 29 条の規定によると、貸主と借主が延滞利息に加え、違約金またはその他の費用も約定している場合は、貸主は延滞利息、違約 金またはその他の費用のどれか、またはそれらを合わせて主張することもできる。しかし、総額が契約成立時の 1 年物プライムレ ートの 4 倍を超えた部分は、人民法院は認めない。

その他の種類の契約については、法律法規及び司法解釈では明確に規定されておらず、司法実務においても観点が異なる。

観点 1:合わせて主張することはできない。違約金と延滞利息はいずれも支払期限を過ぎた代金支払という 1 つの行為に基づ いており、かつ損失は主に利息損失であり、延滞利息を認める場合、その損失をカバーできるからである。例えば、(2020)最高法 民申 1964 号事件において、最高裁判所はこの見解を示し、「資金占用費と契約解除違約金はいずれも X 社が支払期限を過ぎた 代金支払という単一行為によるものである。また支払期限を過ぎた代金支払の損失は主に利息損失であるため、一審判決と二審判決は「T 社が年利 24%で延滞利息を計算する」という主張のみを認め、契約解除違約金という主張は認めなかった。延滞利息 は、X 社の支払遅延により T 社が被った損失を補うのに十分である」と指摘した。

観点 2:延滞利息と違約金は性質が異なるため、合わせて主張することができる。例えば、(2020)最高法民終 1310 号事件にお いて、最高裁判所は「工事代金の延滞利息と支払遅延違約金はいずれも支払遅延行為に基づく責任であるが、性質が異なる。 工事代金の延滞利息は法定利益に該当する。支払遅延違約金は当事者間の約定によるもので、補償性と懲罰性を有し、当事者 による積極的な契約履行を促し、当事者間の合理的な希望を守り、取引の安全性を促進する。工事代金の延滞利息と支払遅延 違約金を同時に認めてはならないという R 社の控訴事由は成立せず、認められない。」と指摘した。

多くの事案においては、上記の 2 つの絶対的な意見とは異なり、裁判所は原則として、延滞利息と違約金の主張を同時に認める一方、利益のバランス、信義誠実の原則、公平の原則などを踏まえ、かつ個別の事件の様々な要素を考慮した上で、適切な調整を行うという姿勢を取っている。例えば、(2017)最高法民終 820 号事件において、裁判所は「契約の約束に従えば、Z 社は J 社に対して残りの前払金 9320 万元を返却し、同時に 9320 万元相応の違約金と延滞利息を支払うべきである。しかし、当時の多結晶シリコンの市場環境の急激な悪化、業界発展の不景気に鑑みると、関連する市場主体は生産制限、販売制限により損失の拡大防止をするのが一般的で、実態に合い、道理にかなっている。このような市場環境の下で、契約者双方は本来互いに配慮しなければならないが、いずれも相互配慮義務を尽くしていない。」と指摘した。最終的に裁判所は延滞利息と違約金の総額 を調整し、「Z 社が前払金を返還し、かつ中国人民銀行の同期同類貸付基準金利で資金占用期間の利息を支払う」ことを命じ た。

契約当事者は相手の違約行為を拘束する手段として、複数の違約責任を約束することができるが、相手が実際に違約した場 合、責任の追及可能範囲に大きな期待をしてはいけない。もちろん、訴訟になった場合は、裁判官に利益のバランス、信義誠実 の原則、公平の原則を踏まえ、自らの主張を認めてもらうため、できるだけ各方面からの自分に有利となる証拠や説明を提供す るべきである。

立法動向

『外国公文書の認証を不要とする条約』が 2023 年 11 月 7 日より中国で発効・施行』

外国籍人員、外国会社、渉外業務であれば、身分証明書、主体資格証明書、信用証明書、権属証明書などの外国公文書に関わることは避けられない。

これまで長い間、外国の公文書を中国の関連行政管理部門、司法部門に提出する場合は、公証認証手続を行う必要があっ た。具体的には、所在国で公証手続を行い、その後、所在国の外交部又はその委託機関に提出して認証を受け、最後に中国の 現地駐在大使館・領事館に提出して認証手続を行う必要があり、「公証+二重認証」に相当する。同様に、中国の公文書を外国で使用する場合も、類似の要求を受けることが多い。上述の公証認証手続は煩雑かつ複雑で、時間も費用も要する。

2023 年 3 月 8 日、中国は『外国公文書の認証を不要とする条約』(以下『条約』という)に締約した。『条約』は 2023 年 11 月 7 日に中国で発効し、施行される。

『条約』によると、今後、所在国で公証手続を行った後、所在国の主管部門に提出して付加証明書(Apostille)を発行するように 簡略化される。「公証+付加証明書」に相当する。つまり、中国の現地駐在大使館・領事館の認証手続は不要となる。「付加証明書」は「所在国の外交部又はその委託機関による認証」を簡略化したものである。

注意すべきことは、今回の認証が不要となる対象は「公文書」に限られていることである。『条約』第 1 条によると、「公文書」は 以下の 4 種を含む。(1)一国の機関、裁判所または法廷の役人が発行する文書。監察官、裁判所書記官または司法執行員が発 行する文書を含む。(2)行政文書。(3)公証文書。(4)個人が個人として署名する文書の公式証明。例えば、文書の登記や特定 の日付に存在する事実を記録した公式証明、署名に対する公式証明と公証証明。要するに、契約書など訴訟でよく使われる域 外証拠の一部に対しては、『条約』に基づき手続を簡略化することができない。

弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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