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上海ハイウェイス法律相談事例

これってパワハラ?

2021年5月6日

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第30回~

法律物語

これってパワハラ?

2020年8月、とある銀行員がミニブログにで「長期にわたって上司からの精神的苦痛を受けており、3 か月にわたり、エレベーター横の給湯室に閉じ込められている。食べること、トイレに行くことだけ許されており、勤務時間内に給湯室を離れることは許されない。離れたら、守衛に強制的に追い返される」などと記載した摘発状を実名で掲載した。これをきっかけに、パワハラ(「職場PUA」とも呼ばれる)が、再び注目を集めることとなった。

パワハラ(英語:power harassment)は日本の職場で多発すると思われている。中国の法令ではパワハラを定義していない。

日本『パワハラ防止法』(注:実際には『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』第 30 条第 2 項から第 7 項並びに関連条項の改正案を指す)によると、パワハラは次の 3 要件を同時に満たさなければ ならない。1業務上優先的な関係を背景とした言動。2業務上必要かつ相当な範囲を超えるもの。3労働者の就業環境が害されるもの。「業務上優先的な関係」とは、パワハラ被害者が行為者に対して抵抗・拒絶することができない関係を指し、例えば、行為者の職務上の地位が上位の者である、もしくは行為者が同僚又は部下で、当該行為者の協力を得なければ関連業務の円滑な遂行が困難となるなど。

日本の法令では、「身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個への侵害」と 6 種のパワハラ行為を例示している。本件において、上司の行為は明らかに「人間関係からの切り離し」に該当する。

中国の現行の法律からみて、上述の日本の法令に例示された行為に該当する場合は、『労働法』、『治安管理処罰法』の関連規定に基づき、関係者の責任を追及する可否を検討することができる。

(1)『労働法』第 96 条の規定によると、暴力、威嚇又は身体の自由を不法に拘束する手段で労働を強制した場合、又は労働者に対し侮辱、体罰、殴打、違法捜索又は拘禁を行った場合、公安機関は行為者に対して 15 日以下の拘留、罰金又は警告を行う。犯罪に当たる場合は、法により行為者の刑事責任を追及する。

(2)『治安管理処罰法』第 42 条第 5 項の規定によると、繰り返し淫猥、侮辱、恐喝又はその他のメール(情報)を送りつけ、他人の正常な生活を妨害した場合、5 日以下の拘留又は 500 元以下の罰金に処する。情状が比較的深刻な場合、5 日以上 10 日以下の拘留に処し、500 元以下の罰金を併科することができる。

上述の法律で定められた範囲外の行為に該当する場合は、現行の法律では、行政処分又は刑事処罰を求めるのは難しい。

社内規則制度でパワハラ行為について規定、罰則を明確に定めている場合、企業は関連行為者に対して処分を行うことが可能であるものの、係る行為者の言行がパワハラ行為に該当するか否かの判断は不確定性があり、根拠となる事実を立証することも相当難しいため、慎重に判断するべきである。

実務検討

駐在員の職務発明の権利の帰属

Aは日本M社の指示により中国にある関連会社の技術部の責任者を務めていた。僅か数か月で技術的な難関を切り抜け、大きな発明をした。当該発明は日本M社の所有に属するか、それとも中国の関連会社の所有に属するか。職務発明の報酬は如何に計算するか、双方どちらが支払うかについて、日本M社と中国の関連会社の意見は一致しない。

中国『特許法』第6条には、「当該組織の職務を遂行し、又は主に当該組織の物質・技術的条件を利用して完成した発明創造は職務発明創造とする。職務発明創造について特許出願を行う権利は当該組織に帰属し、出願が認可された場合は当該組織を特許権者とする。......」と規定している。本件において「当該組織」は日本 M 社を指すのか、それとも中国の関連会社を指すのか?

『特許法実施細則』第12条の規定によると、当該組織は臨時的な勤務先も含まれる。司法実務からみて、企業と労働契約を締結している場合も、特定の任務を遂行するために使用者と臨時的な役務関係を構築している場合も、いずれも「臨時的な勤務先」の範疇に含まれている((2017)京 73 民初 1588 号、(2017)滬 73 民初 350 号)。言い換えれば、駐在員が中国の子会社と労働契約を締結したか否かは、職務発明帰属の判断要素ではない。

駐在員の職務発明の帰属を判断するためのポイントは、当該職務発明の創造は、親会社の任務を遂行するために完成したものであるか、それとも中国の関連会社の任務を遂行するために完成したものであるか、又どちらの物質・技術的条件(資金、設備、部品、原材料、対外的に公開しない技術資料など)を利用して完成したものであるかにある。本件のように職務発明完成後に職務発明の帰属について双方の見解が一致しないことを避けるために、海外派遣元と国内派遣先は、事前に職務発明の奨励、報酬、支払なども含めて職務発明の帰属を約定し、駐在員の認可を得ておいたほうがよい。

『特許法実施細則』第 78 条の規定によると、権限を授けられた組織が発明者、考案者と約定を行っていない、又は規則制度で報酬を定めていない場合、売上高又は許諾使用料の一定の割合で報酬を支払う。職務発明の奨励、報酬を約定していない状況で、駐在員の職務発明権が海外派遣元に帰属することを約定した場合、司法機関は、国内派遣先と労働契約にある駐在員が国内派遣先に職務発明の報酬を求める主張を認める可能性が高い。典型的な「3M」職務発明紛争事件の判決では、以下の観点及び理由を示した。「法により、特許発明の実施後、企業は普及・応用の範囲、獲得した経済的利益により、発明者に対し合理的な報酬を与えるべきである。本件において 3M 社とその関連企業の合意に基づき、係る発明は 3M 創新公司が特許を出願して特許権を獲得した。但し、特許法における「発明者に報酬を与える」とうい規定の意図は、発明者が獲得すべき労働報酬を得ることにあり、当該報酬を獲得する合法的な権利は、多国籍企業内部の合意により侵害されるべきではない。本件において 3M 中国公司は発明の特許権者ではないが、張〇〇の雇主であるので、依然として張〇〇に対し職務発明の報酬を支払うべきである。」

立法動向

『一般的なモバイルインターネットアプリケーションに必要な個人情報範囲の規定』が2021年5月1日より施行

2021年3月12日、国家インターネット情報弁公室秘書局、工業・情報化部弁公庁、公安部弁公庁、国家市場監督管理総局弁公庁は共同で『一般的なモバイルインターネットアプリケーションに必要な個人情報範囲の規定』(以下『規定』という)を公布し、「モバイルインターネットアプリケーション(App)の運営者は、ユーザーが不必要な個人情報の提供に同意しないことを理由に、App の基本サービスの提供を拒否してはならない」ことを定めた。

モバイルインターネット APPとは具体的に何を指すのだろうか、必要な個人情報の範囲には何が含まれるのかに注意を払うべきである。

1、適用対象の細分化
『規定』第2条によると、Appには(1)スマートフォン端末にプリインストールされている標準アプリ、(2)アプリのオープンプラットフォームインタフェースに基づいて開発された、ユーザーがインストールすることなく使用できるアプリが含まれる。

2、必要な個人情報の範囲
『規定』第 5 条では 39 種の一般的な App を列挙した。その内、必要な個人情報を提供する必要がある App は 26 種あり、具体的に提供すべき必要な個人情報は、APPの基本機能であるサービスによって異なる。

オンラインショッピングという分類を例にとると、その基本機能であるサービスは「商品の購入」である。必要な個人情報には、次のものが含まれる。(1)登録ユーザーの携帯電話番号。(2)荷受人の氏名(名称)、住所、連絡先電話番号。(3)支払時期・支払金額・支払ルート等の支払情報。

フードデリバリーという分類を例にとると、その基本機能であるサービスは「飲食類の購入及びデリバリー」であり、必要な個人情報には、次のものが含まれる。(1)登録ユーザーの携帯電話番号。(2)荷受人の氏名(名称)、住所、連絡先電話番号 (3)支払時期・支払金額・支払ルート等の支払情報。

上述の2種を除き、残りの13種のAPPは、個人情報を提供しなくとも、基本機能であるサービスを利用することができる。具体的には以下の13種である。

(1)女性健康類(注:「女性月経期管理、妊娠児準備、エステ等の健康管理サービス)。(2)インターネット生放送類。(3)オンライン映像/音楽類。(4)ショートムービー類。(5)ニュース情報類。(6)運動・フィットネス類。(7)ブラウザクラス類。(8)入力法類。(9)セキュリティ管理類(注:ウイルスの駆除、悪意のあるプラグインの整理、脆弱性の修復など)。(10)電子図書類。(11)撮影美化類。(12)アプリストア類。(13)実用ツール類(注:カレンダー、天気、辞書翻訳、電卓、リモコン、懐中電灯、羅針盤、時計目覚まし時計、ファイル転送、ファイル管理、壁紙着信音、スクリーンショット、録音、文書処理、スマートホームアシスタント、星座性格テストなど)。


弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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