上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第49回~
法律物語
従業員が海外で治療を受けるために病気休暇を申請した場合、使用者は拒否できる?
タイトルを見ると、肯定的な意見を持つ者もいれば、否定的な意見を持つ者もいる。しかし、この問題は一概に論じることはで きない。
まず 2 つの判例を見てみよう。
判例 1:詹さんは 2019 年 12 月 25 日に中国の病院で診察を受けた際、椎間板性足腰痛と軟組織損傷と診断され、医師から 1 ヶ月間病気休暇が必要という旨の診断書を受けとった。当日中に、詹さんは同僚に病気休暇届をK 社へ郵送してもらい、その後 飛行機でカナダに向けて出発した。その後、新型コロナウイルスの流行により、詹さんは予定通りに帰国し、出勤することができ なくなった。K 社の質疑に対して、詹さんは、「カナダに行った目的は治療のためだった」と主張した。K 社はその理由に納得でき ず、最終的に詹さんが行い及び無断欠勤を理由に詹さんとの労働関係を解除した。二審において、詹さんは海外での受診状況 を証明する公証認証書類を提供したが、裁判所に認められず、「K 社による労働関係の解除が合法である」と認定された(詳細 は(2021)上海 01 民終 3292 号をご参照ください)。
判例 2:袁さんは 2016 年 8 月 1 日から 2016 年 8 月 14 日まで、切迫早産のため 2 週間の病気休暇申請し、M 社はこれを認 めた。2016 年 8 月 5 日、袁さんは出産準備のために米国ヒューストンに赴いたが、病気休暇期間満了後も出勤せず、米国の医 師が発行した「自宅での病気休暇を提案する」という旨の「証明書」を M 社に提出し、病気休暇延長の申請をした。M 社は上述の 「証明書」の真実性を認めず、病気休暇の継続を許可せず、予定通り出勤することを求めたが、袁さんがこれに応じなかったた め、最終的に無断欠勤を理由に一方的に労働契約を解除した。労働仲裁機関は袁さんの請求を棄却したが、一審と二審はい ずれも袁さんからの労働関係回復の請求を認めた。
では、従業員の海外での病気休暇申請にどのように対応すれば良いのか?
ある HR から、以下のような質問があった。規則制度において「海外の医療機関が発行した病気休暇証明書は認めない」こと を定め、これによって病気休暇申請手段を徹底的に断ち切ることは可能か?以下のシーンを想像しよう。従業員が海外の親会 社に出張中、不注意で転んで怪我をし、入院して治療を受けた。その場合、会社は当該従業員の海外での治療期間中の病気 休暇を拒否することができるだろうか?恐らく無理だろう。しかし、従業員が他市や他国で勝手に病気休暇を取得する可能性を 減らすための方法として、規則制度において「やむを得ない事由を除き、従業員は勤務先所在地の医療保険資格を持つ X 級レ ベルの病院にて診療を受けるものとする」と規定を定めておくことが考えられる。
次に、従業員がわざわざ国外に赴き、外国での受診を申請する場合、一般的に会社は認めない権利がある。原因は主に 2 つ ある。その一つは、基本的にすべての疾患は中国国内の異なるレベルの医療機関で治療でき、従業員は海外での治療の必要 性を証明しにくい点。もう一つは、海外での診察を受けることは、つらい思いをして長時間の移動に耐えることを意味し、その合 理性も通常は認められないからだ。注意すべきことは、海外での受診を会社が事前に承認し、または明確に異議を唱えずにい
たら、従業員が病気休暇の延長を申請し、かつ資格のある医療機関が発行した証明書を提出した場合に、会社が従業員の申 請を拒否することのリスクが相当高まると思われる。例えば、判例 2 の袁さんの請求が裁判所に認められた重要な原因は、袁さ んが「2016 年 4 月に M 社に対して出産のために米国に行くことを告知していたこと、2016 年 8 月 1 日に休暇を申請し、双方が 2016 年 7 月に病気休暇について数回やり取りを行っていたこと、M 社の要求に応じて相応のカルテを提出した」ことを証明するメ ールの受送信履歴を提供できたことにある。袁さんは米国での「病気休暇証明」を提出し、これによってアメリカでの病気休暇が 正当であることが証明され、裁判所に認められた。
第三に、従業員が外国での滞在期間中に、病気休暇を申請した場合は、会社が許可するか否かは、状況に応じて判断すべ きである。例えば、判例 1 の詹さんは国内の病院からの病気休暇診断書を以って椎間板損傷による病気休暇を取得したが、実 際に以前から航空券を用意しており、会社に知らせる十数時間前にはカナダに向けて出発していた。裁判所は上述の事実によ り、詹さんは単なる休暇のために出国し、病気休暇の必要は無かったと認定した。更に、新型コロナウイルスの蔓延により、詹さ んは予定通りに帰国することができなくなった後、中医師の診療を受けるためにカナダに行くことを主張したが、裁判所は前述の 事実により、詹さんの主張が常識に合わないと判断し、病気休暇の真実性を認めなかった。実務において、従業員が海外で休 暇中や出張中に病気休暇を申請した場合、会社は病気休暇に係る資料を慎重に審査し、審査を経て規定に合致すると判断し た場合、それを承認する。偽造の疑いがあるなど問題を発見した場合、従業員に補足資料を提出させ、状況に応じて最終的判 断を下すよう勧める。
実務検討
「代替〇〇〇」は得策か、それとも下策か?
「代替 LV」、「代替 SK-II」などを見ると、関連製品の品質やグレードが「LV」「SK-II」に近いと本能的に感じるので はないだろうか。そのため、一部の企業は「代替〇〇〇」という言葉に宣伝の重点を置き、自社の製品を業界内の有名 ブランドと直接的にリンクさせる。このようにして有名ブランドにただ乗りして、顧客を引きつけて市場を拡大する目 的を達成する。さらに、直接「代替〇〇〇」を商標として出願する企業もある。
ビジネスの観点から見て、「代替〇〇〇」は一円も使わず他社の商品に便乗する「得策」だ。しかし、実際には多くの 法的リスクが潜んでおり、最終的に割に合わない結果になる可能性が極めて高い。
商標登録の観点から見て、「代替〇〇〇」は通常、顕著性に欠けることにより商標登録を拒絶される。商標法第 11 条 の規定によると、登録出願の対象となる商標は顕著な特徴を有するものとする。「代替母乳」など特定の物質と代替する か、「代替 LV」、「代替 SK-II」など特定のブランドと代替するかを問わず、商標の文字を見ても、どの企業を指すのか確 定できず、商品の出所を区別する役割を果たさない。又、一般消費者もそれを商標として認識しにくいため、係る商標 は顕著性に欠けるとして拒絶されることが多い。代替する元のブランドが登録済みの商標である場合は、通常、先行商 標や類似商標の存在を理由に拒絶される。
では、商標登録を出願せず、広告宣伝だけを行った場合はどうなるか?やはり依然として法律規定に違反するリスク がある。
『広告法』第 28 条には、「広告が虚偽又は誤解を招く内容により消費者を詐欺、ミスリードした場合は、虚偽広告に なる。」と規定している。当事者が「〇〇〇の代替ができる」ことを証明する証拠を提出できない場合、虚偽広告として
処分を受けるリスクがある。例えば、諸市監検処〔2019〕498 号決定書において、市の監督局は、「当事者は「海外の Swagelok、Parker Legris、FITOK、STAUFF、Hamlet、Eton などのブランド業界のトップ地位を完全に代替できる」とい う旨の広告を発表した。しかし、上述の Swagelok、Parker Legris、FITOK、STAUFF、Hamlet、Eto はいずれも海外の知 名会社のブランドであり、当事者は上記の内容と証明資料を提供することができない。」と認定した。
又、特定の物質や技術を代替できる旨の広告宣伝も虚偽広告又は虚偽宣伝と認定されやすい。若干の実例をあげよう。
『広告法』第 20 条には、「マスメディア又は公共の場所において母乳の全部又は一部を代替できると公言する乳児用 乳製品、飲料及びその他の食品に係る広告の掲載を禁止する。」と規定している。従って、明示か又は暗黙かを問わず、 「調合乳が母乳を代替できる」という広告出した時点で、処分を受けるリスクが発生する。
京平市監処字〔2019〕第 336 号決定書において、当事者が自ら作成した「奇関臍療」のチラシで宣言した「奇関、臍 治療基準の制定者と指導者...完璧に点滴を代替する」などの内容について、市の監督局は、当事者が上記の広告宣伝内 容の合法性及び有効性を証明する根拠を提出できないことを理由に処分を下した。
滬市監黄処字(2019)第 012019001019 号決定書において、市の監督局は、「当事者が 1688 プラットフォームにより販 売する製品のウェブページにおいて「日本安心無痕下着......接着技術の最新位置制御接着、接着剤の代替」などの広告 内容を掲載しているが、当該広告内容に係る証拠材料を提出できないため、虚偽広告に当たる」と認定した。
なお、「代替〇〇〇」は権利侵害として訴えられるリスクもある。(2021)粤 1971 民初 35261 号の案件において、裁判 所は、「原告と被告は競争関係にある事業者であり、「〇〇〇」は原告の一定の影響力をもつ商号である。被告が生産・ 販売する商品の名称において「代替〇〇〇」を使って商品宣伝を行うことは、原告の取引機会を奪い、原告の競争優位 性を損なう可能性があるため、不正競争行為に当たる。」と認定した。
以上のことから、事業者はビジネス活動において「代替〇〇〇」という表現の使用は慎重に行うべきである。油断し たら、全て失敗に終わる可能性がある。また、同業他者が「代替〇〇〇」という表現で自社の商品に便乗していること を発見した場合は、実情に基づいて、上述の分析により適切な権利保護手段を適用してよい。
立法動向
『女性権益保障法』第 3 回改正、2023 年 1 月 1 日より施行
『女性権益保障法』は 1992 年より施行され、2005 年と 2018 年の 2 回の改正を経て、2022 年 10 月 30 日に第 3 回改正案(以下
『2022 改正版』という)が可決され、2023 年 1 月 1 日より施行されることとなった。 以下は、企業が日常管理において重点的に注目すべき条項について解読する。 1.セクハラについて
『民法典』1010 条には、「他人の意思に背き、言葉、文字、画像、身体的行為などにより他人にセクハラ行為を行った場合は、被 害者は法により、行為者に民事責任を負わせることを請求する権利がある。機関、企業、学校などは合理的な予防、苦情申立ての 受理、調査処分などの措置を講じ、職権や従属関係などを利用したセクハラを防止・制止する。」と規定している。『2022 改正版』第 23 条は上述の規定と一致する一方、第 24 条と第 25 条により新規定を織り込み、セクハラの予防・処置メカニズムを一層改善した。
第 25 条によると、雇用企業は下記の措置を講じ、女性へのセクハラを予防・制止する。 (1)セクハラ禁止の規則制度を制定する。
(2)担当機関又は担当者を明確にする。
(3)セクハラ予防・制止のための教育を行う。
(4)必要な安全保護措置を講じる。
(5)苦情申立てに対応する電話、メールボックスを設置し、有効な相談窓口を確保する。
(6)調査処置プロセスを確立、改善し、紛争を適時処理し、当事者のプライバシーと個人情報を保護する。
(7)被害者の女性が法により権利を守ることに対してサポート・支援をし、必要に応じて被害者の女性のメンタルヘルスケアを 行う。
(8)その他の合理的なセクハラ予防・制止措置。
従って、企業は上述の要求に合致する職場セクハラ防止管理制度を確立すべきである。
2.女性従業員向けの特定の健康診断
『2022 改正版』第 31 条の規定によると、企業は定期的に女性従業員のために婦人科疾患、乳腺疾患の健康診断及び女性に 特に必要なその他の健康診断を手配するものとする。
3.女性就労の保障
まずは、『2022 改正版』第 43 条の規定によると、国に別途規定がある場合を除き、企業は人員募集・採用の過程において下 記の行為を実施してはならない。
(1)男性に限定する、或いは男性優先と定める。 (2)個人情報以外に、女性応募者の結婚や出産状況を追求し詳しく質問したり、調査したりする。 (3)妊娠テストを入社健康診断項目とする。 (4)結婚、出産の制限又は結婚、出産状況を採用条件とする。 (5)性別を理由に女性の採用を拒否したり、差別的に女性の採用基準を引き上げるなどの行為。 従って、企業は求人広告、さらには内部募集を行うときに、上記の禁止行為を避ける必要がある。
次に、『2022 改正版』第 44 条の規定によると、(1)女性従業員と締結した協議書では、女性従業員向けの特別保護条項を含 まなければならない。(2)集団契約では、男女平等、女性従業員の権益保護に係る内容を含めるか、関連内容について特別の 章、別紙を制定する、或いは単独で女性従業員権益保護特別集団契約を締結しなければならない。
従って、企業は既存の契約、規則制度を再度確認し、上述の要求の確実な実行を確保する。
最後に、『2022 改正版』第 48 条では、女性従業員の「三期」(妊娠、出産、哺乳)について、賃金を引き下げてはならないという 従来の規定を保留するとともに、女性従業員の昇進、昇級、専門技術の職名や職務の評価に対して制限を行ってはならないと いう規定が新規追加された。また第 49 条では、職場における性別差別行為を労働保障監察の範囲に入れることが定められた。
弁護士紹介
金燕娟 弁護士/パートナー
8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。
その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。
学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。
使用言語:中国語、日本語
主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている