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上海ハイウェイス法律相談事例

従業員が Wechat「モーメンツ」内で共有したものについて、なぜ会社は巻き添えを食うか?

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第38回~

法律物語

従業員が Wechat「モーメンツ」内で共有したものについて、なぜ会社は巻き添えを食うか?

A社の営業マンである王さんがWechat「モーメンツ」内で共有したテキストと複数枚の写真には「Bブランドの共有モバイルバッテリーが発火した」写真とAブランドのモバイルバッテリーが合格品であることを示す検査報告書の写真が含まれていた。その後、B社は不正競争としてA社を訴えた。A社は、Wechat「モーメンツ」内での共有行為はあくまでも王さん個人の行為であり、A社はそれに関知していないと抗弁したが、最終的に裁判所は、B社の主張を認めた。

近年の司法実務において、Wechat「モーメンツ」、ミニブログなどに対する基本的な見方は概ね以下の通りである。セルフメディアとして、パーソナル・コミュニケーションにおいて重要な役割を果たしているほか、それらを活用して積極的に業務開拓を行う個人も珍しくない。さらに従業員に会社の広報宣伝内容を関連セルフメディアに掲載させる会社もある。従業員が会社の要求に従いセルフメディアに違法な情報を掲載し、他人の権利を侵害した場合、会社が責任を負うのは当然である。しかし、従業員が自らセルフメディアに情報を共有する場合は、「職務上の行為」にあたるか否かについては往々に議論がある。

この問題について、一部の典型的な裁判例は、会社が「職務上の行為」と判断する際の重要な参考となる。そのうち、上海市浦東新区人民法院が(2018)滬0115民初92656号事件において示した判断方法が代表的なものであると言える。当該事件の判決書において、裁判所は以下のことを指摘した。「Wechatのモーメンツは単なるパーソナル・コミュニケーションの場所ではなく、市場促進や情報伝播などの役割を果たす。行為発生場所の全体的な属性、具体内容、受益者、会社の意思に関わるかなどの要素を総合的に考慮した上で、職務上の行為にあたるか否かを審査し判断する。」つまり、職務上の行為に該当する否かを判断する基準は、会社が従業員に対して指示したかどうかだけではないということだ。行政法律執行及び司法実務からみて、従業員がセルフメディアという手段を通じて共有するなどの行為が法律に違反し、それによって会社が責任を追及された事案の中で、会社が従業員に対して指示をしていない、又は事情を知らなかったと抗弁することが多いものの、公開された判決書及び行政処分決定書を見てみると、それが認容されるケースは大変珍しい。

巻き添えを食うリスクを減らすために、会社は以下の対策を採るよう勧める。

まずは、従業員個人の行為について、セルフメディアに係る行為、相応の管理措置、罰則などを含むコンプライアンス管理体制を構築・完備し、定期的に教育を行うこと。

次に、従業員の仕事とプライベートの境界線をしっかり引かせること。仕事において、従業員に対して業務用のメールアドレスや企業版Wechatなどを使うよう求め、さらに定期的に従業員の仕事を審査・評価する。

最後に、従業員のセルフメディアを利用する必要がある場合は、事前にその内容の適法性などをチェックしておくこと。

実務検討

定型約款に関する民法典の規定と実務上の留意点

「定型約款」とは、当事者が重複利用するために事前に作成しておき、契約締結時に相手方と協議しない条項を指す。電信サービス契約、保険契約、各種のネット通販での売買契約などが挙げられる。通常、定型約款の作成側は相対的な優越的地位にあり、権利を最大化し、義務・責任を最小限に抑えるため、相手方に過酷な又は不利な条項を設定することが多い。定型約款があまりにも過酷で、明らかに相手方に不公平であるとき、法律による介入が必要となる。旧『契約法』では、定型約款に対して制限規定を明確にしており、「覇王条項」(備考:当事者の利益を一方的に害する条項)を無効としていた。

2021年1月1日より、旧『契約法』に代わって『民法典』が適用されるにつれて、「定型約款」に関連するルールも変更した。
第一に、定型約款の提供側が注意又は説明の義務を履行すべき範囲の拡大。旧『契約法』第39条の「その責任を免除又は制限する関連条項に注意するよう相手方に促す」の規定を、『民法典』第496条では、「その責任を免除又は軽減するなど、相手方と重大な利害関係がある関連条項に注意するよう相手方に促す」に変更した。

それでは、「重大な利害関係がある関連条項」を如何に捉えるべきか?

『民法典契約編-理解と適用』には、「『民法典』第470条に例示される目的物、数量、品質、代金又は報酬、履行期限、場所・方式、違約責任、紛争解決策などは全て相手方と重大な利害関係がある関連条項に属する。」と規定している。但し、個別事案において、「重大な利害関係がある関連条項」に該当するか否かを判断するときは、契約や取引の種類、慣習、特徴などを総合的に考慮すべきである。事業者は、消費者に係る定型約款について、『消費者権益保護法』第26条では以下の規定がある点に注意すべきである。「事業者は経営活動において定型約款を使用する場合、商品又はサービスの数量、品質、代金や費用、履行期限、方式、安全注意事項、リスク警告、アフターサービス、民事責任など消費者と重大な利害関係がある内容について注意を払うよう分かりやすい方法で消費者に促す。」

第二に、定型約款の提供側が注意又は説明の義務を履行しない場合の責任。旧『契約法』には明確な規定がない。相手方が定型約款を理解しているという前提下で、定型約款の提供側と関連内容に合意することを保証するために、『民法典』第496条では以下のように定めている。「定型約款の提供側が注意又は説明の義務を履行せず、これによって相手方が自身と重大な利害関係のある条項に注意を向けなかった、又は理解していなかった場合は、相手方は「当該条項が契約内容に入らない」ことを主張することができる。」ここで注意すべきことは、「仮に定型約款の提供側が注意又は説明の義務を履行していなかったとしても、相手方が契約における関連条項に気づき、かつその意味を理解していた場合は、当該条項が契約内容に入らないと主張することはできない」ということだ(出所:『民法典契約編-理解と適用』)。

第三に、『民法典』によると、以下のいずれかの状況に該当する場合は、定型約款は無効である。1民事行為無効の一般規定に合致する場合。2定型約款の提供側の責任を不合理に免除又は軽減し、相手方の責任を加重し、相手方の主要な権利を制限する場合。3相手方の主要な権利を排除する場合。上述のいずれかの状況に該当する場合に、仮に定型約款の提供側が注意又は説明の義務を履行したとしても、定型約款は無効となる。

注意すべきことは、旧『契約法』とは異なり、『民法典』では上述の2において制限条件として「不合理に」という言葉がつけ加えられたことだ。つまり、定型約款の提供側の責任を免除又は軽減し、相手方の責任を加重し、相手方の主要な権利を制限する定型約款が合理的であり、かつ定型約款の提供側が注意又は説明の義務を履行しており、さらにその他の定型約款無効の情状がない場合は、例外として当該定型約款は有効である。旧『契約法』における「画一的な処理方法」と比べ、『民法典』における変更後の規定のほうがビジネスニーズに応えると思われる。『民法典』の規定により、定型約款の受入側が「不合理」を立証しなければならないからである。


企業は『民法典』の上述の新ルールに基づき、定型約款を提供する場合は、合理的な方法により契約相手方に注意を促すように努めることが望ましい。具体的には以下のことが考えられる。

①記号、色、太字、文字を大きくするなど、関連条項を目立つようにする。②リスクを回避するために、専門的な理解しにくい言葉、概念、法律結果に対して書面で説明を添え、相手方が関連条項の意味及び相応の法律結果を理解できるよう徹する。③『個人情報保護法』の発効後、企業は関連の規則制度や個人顧客との契約において個人情報の取得に同意するというような条項を盛り込むことが予想されるが、そのような場合、係る条項が定型約款に該当すること、またしっかりと注意・説明の義務を果たすことが大切である。

立法動向

『人民法院持分強制執行の若干問題に関する最高人民法院の規定』が 2022 年 1 月 1 日より施行

持分執行の基準を統一し、持分執行における問題点や困難を解決するため、『人民法院持分強制執行の若干問題に関する最高人民法院の規定』(法释〔2021〕20号、以下『持分執行規定』という)が、最高人民法院により2021年12月20日に公布され、2022年1月1日より施行する。以下では、『持分執行規定』のポイントを説明する。

1、適用範囲
『持分執行規定』は有限責任公司の持分と株式会社の株式が適用対象となる。後者の内、法により設立された証券取引所に上場して株式売買を行う、又は国務院の承認を得たその他の国レベルの証券取引場所で株式売買を行う株式会社の株式(以下「上場会社の株式」と総称する)は対象外とされる。その理由は、上場会社の株式は、証券監督管理委員会が証券関連法律法規に従い規制し、かつ上場会社の株式の相場価格の評価、流通性、人為的な価格変動は比較的にコントロールしやすいからである。

2、持分価額の確認
持分価値評価の困難を乗り越えるために、『持分執行規定』では3ステップの以下のルールを明確にした。1価額が確定できる場合は、確定した法律文書で決定した債権額及び執行費用を弁済するのに十分な価額を上限とする。2価額が確定できない場合は、執行申立者により差押えを申し立てられた割合や数量に基づき、差押えすることができる。3執行被申立者が、差押えられた持分の価額が高すぎると判断した場合、相応の証明を提出して異議申し立てを行うことができる。審査を経て、異議申立が成立したと認められた場合、明らかに高すぎる分の差押えは解除される。
つまり、持分の価額について紛争が生じた場合に、裁判所は状況によって持分価額の立証責任を区分する。3、持分価額の絞込条件『持分執行規定』では、持分価額に影響を与える状況を列挙し、相応の絞込措置を定めた。

(1)被執行者は差し押さえられた持分について譲渡、質入れやその他の執行を妨害する行為を執行申立者に対して行ってはならない。

(2)増資、減資、合併、分割など、差し押さえられた持分の価額に重大な影響を与える行為については、企業に対して実施前に書面で裁判所に報告するよう求めることができる。裁判所は報告を受けた後、国家秘密又は営業秘密に係る場合を除き、執行申立者に通知しなければならない。

(3)持分に基づく被執行者の利息や配当金などの収益を差し押さえることができる。

(4)被執行者が、差し押さえられた持分の価額の変更を申請する場合は、執行申立者及び裁判所が認知しているその他の債権者の同意を取得する、又は変更後の価額が債務を弁済するのに十分な価額でなければならいない。また最長3カ月以内に完了させること。

(5)差し押さえられた持分を競売する場合は、『人民法院の財産処分の際の参考価格の確定における若干問題に関する最高人民法院の規定』で定められた手続に従い、持分を処分する際の参考価格を確定する。競売において差し押さえられた持分の代金が明らかに債権金額より高い又は低いことが発覚した場合、競売する持分の数量を調整することができる。

(6)差し押さえられた持分の評価を委託する場合、被執行者は評価に必要な書類不足による不利益を被る。現有の書類の不足により評価報告書が発行できない場合は、執行申立者が書面で申請した後、裁判所は執行費用を適切に上回る基準で競売開始価格を確定することができる。


弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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