上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第64回~
法律物語
労働者が使用者の手配により新たな使用者の元で勤務する場合、 労働契約締結回数はどうカウントすべきか?
賈さんと北京の A 社との初めての労働契約が 2016 年 2 月 16 日に満了した後、A 社の手配によって、賈さんは A 社の完全子 会社である B 社と 3 年間の労働契約を結んだ。労働契約存続期間中に B 社の株主が A 社から他社に変更された。労働契約期 間満了前に、B 社は賈さんに「労働契約終了通知書」を送付し、契約期間満了により契約は終了となり更新されないこと、経済補 償金が支払われることを通知した。賈さんは「固定期間契約を 2 回締結したので、B 社は無固定期間労働契約を締結すべきであ る」と考え、労働仲裁を提起し、「B 社による労働契約の解除は違法である」と主張した。労働仲裁機関は賈さんの請求を棄却し たが、一審裁判所と二審裁判所は賈さんの請求を認めた((2021)京 03 民終 7906 号)。
元使用者の手配によって新たな使用者の元で勤務する場合、労働契約の回数をどのようにカウントするかという問題が本件 の焦点である。
『労働契約法』第 14 条では、固定期間労働契約を 2 回連続し締結した場合は、適用除外にあたる状況を除き、使用者は無固 定期間労働契約を締結しなければならないことを定めている。『労働契約法実施条例』第 10 条では、労働者本人の都合によらな い要因で元使用者の手配により新たな使用者の元で勤務する場合、経済補償金を支払う、または勤続年数を連続してカウントす ることが定められているものの、労働契約の回数を連続してカウントするか否かについては明記されていない。そのため、この問 題に対する全国一律の答えはない。
各地の規定や司法実務規則からみても、地域差が大きい。
浙江省では、現時点において、文頭のような状況では労働契約締結回数は連続してカウントされる。その根拠は 2019 年 6 月 21日に公布された『労働紛争事件の審理における若干問題に関する浙江省高級人民法院民事裁判第一庭 浙江省労働人事紛 争仲裁院の解答(五)』の第三条である。
多くの地域では、明確な規定は存在しないが、司法実務において、文頭のような状況の場合、労働契約締結回数の連続カウ ントを認めないとする姿勢が示されることが比較的多い。例えば、上海市、広州市、江蘇省など。
更に、一部の地方では、使用者に悪意がある場合、労働契約の結回数は連続してカウントされると定めている。例えば、『労働 争議事件の審理に関する深セン市中級人民法院の裁判ガイドライン』(2015 年)及び『北京市高級人民法院、北京市労働争議仲 裁委員会の労働争議事件における法律適用問題検討会の会議紀要(二)』(2014 年)は、使用者による悪質な『労働契約法』第 14 条違反は無効とし、勤続年数と労働契約締結の回数を連続してカウントすることを明確にしている。具体的な行為には、「関連 企業の設立を通じて、労働者と契約を結ぶ際に使用者の名称を交互に使う」などが含まれている。
注目すべき点は、個別の案件において北京裁判所が採用した観点は、浙江省の規則に似ている点である。例えば、文頭事案の判決書において裁判所は「関連会社間で労働者の労働契約締結主体を変更する場合、その主観的故意の有無は、労働者と の労働契約連続締結回数のカウントに影響を与えるべきではない」と明確に述べた。
以上のことから、様々な要因で従業員に他社との労働契約を締結させる場合、使用者は労働契約締結回数のカウントに十分 に注意を払い、事前に所在地での相応規定や司法実務規則の有無を確認し、労働者と他社との契約締結を手配するか否か、 労働契約期間をどのように設定するか、契約期間満了時に更新すべきか否かなどを判断するとよい。
実務検討
人材紹介会社を利用する際のリスク及びリスク対策
人材紹介会社を通じて求人することは、多くの会社にとって重要な人材募集の手段である。しかし、実務において人材紹介会 社の仲介サービスによってもたされるトラブルは珍しくない。では、使用者は、関連リスクをどのように防止又は対処すれば良い のか。
まずは、関連トラブルの一般的な発生原因を理解する必要がある。実務と裁判例から見て、トラブルの原因は主に以下の 3 種 類である。
第一に、複数のルートが同じ候補者を推薦したことにより発生するトラブル。企業は、公開求人、内部推薦、いくつかの人材紹 介会社に人材募集を依頼するなど複数の手段で求人することが多い。その結果、複数のルートから同じ候補者が推薦される可 能性がある。例えば、従業員が候補者 A を推薦し、人材紹介会社も A を推薦した。企業が従業員経由で A を面接し、採用を決定 した場合、人材紹介会社は「企業が不誠実で、料金の支払いを拒んでいる」と認識し、仲介手数料の請求を巡って紛争を引き起 こす可能性がある。
第二に、「人材紹介サービスの保護期間」。通常、人材紹介会社の契約では「サービス保護期間」が設定され、サービス保護期 間内に人材紹介会社によって推薦された候補者を「企業が採用する場合も、依然として仲介手数料を支払わなければならない」 ことが規定されている。
第三に、採用した人材が短期間で退職した場合、企業が仲介手数料を支払うべきか否かによって引き起こされるトラブル。企 業は人材紹介会社を通じて募集する人材に対して、通常、保証期間を設定する。一般的に試用期間が保証期間とされる。保証 期間内に人材が退職した場合は、人材紹介会社は、無料で他の候補者を推薦しなければならない。また、一部の契約では「保証 期間が満了後に仲介手数料を全額支払う」ことが約定される。人材紹介によって紹介された人材が保証期間満了後すぐに退 職 し、又は短期間内で頻繁に退職が繰り返されると、企業が、仲介手数料の免除又は減額を巡って人材紹介会社を相手に紛争を 引き起こすことが度々見られる。
上述の紛争原因から、企業は下記の観点から、リスク対策を講じることができる。
まず、「複数のルートから同じ候補者が推薦される」ことにより発生するトラブルについて。契約において、「人材紹介会社から 提供された候補者資料と他のルートから提供された資料が同じである場合、企業は〇営業日以内に人材紹介会社に通知するも のとする。その場合、当該候補者は人材紹介会社によって推薦された者と見なさない」ことを明確に約定しておく。
次に、「人材紹介サービスの保護期間」について。契約において、次のことを明確に約定しておくと良い。「企業は一定期間内に (例えば 1 年間)、人材紹介会社によって推薦された候補者を採用した場合、特定の状況を除き、仲介手数料を支払う。」「特定の 状況とは主に(1)他のルートを通じて当該候補者の情報を獲得した。(2)候補者の職位に実質的な変化があった、例えば職責、
職級が異なる等。(3)給料等級の変化幅が〇〇%を超える、などを含む。この点について、(2016)蘇 02 民終 3090 号事件におい て、裁判所は肯定的な意見を示し、「候補者が再入社した時の職責、職級が変更されたため、「人材紹介サービス保護期間」の除 外状況に該当し、企業は残りの仲介手数料を支払う必要がない」と認定した。従って、事前に明確かつ細かく契約内容の取り決 めを行っていた場合は、認められる可能性が大きくなる。
最後に、人材の短期間退職の問題について。人材紹介会社に対する考察と選別力を強化し、信義則に違反したことのある人 材紹介会社を適時排除するとともに、候補者の社会保険料の納付状況を予め確認し、社会保険料の納付状況が職歴と合わな い、又は 2 ヶ月ないし 1 年以内の短期納付回数が多い候補者を採用しないようにすると良い。
立法動向
改正後の『企業情報公示暫定条例』が 2024 年 5 月 1 日より施行
2024 年 3 月 10 日、国務院は『一部の行政法規の改正と廃止に関する国務院の決定』を公布し、その中で『企業情報公示暫定
条例』(以下『新条例』という)の内容が一部改正された。そのポイントは以下の通りである。
1. 条例違反行為に対する市場監督管理部門の調査処分権の新規追加。
『新条例』では第 16 条を新規追加し、下記のように定めた。市場監督管理部門は条例違反の疑いがある行為を調査処分する権 利を有する。具体的な職権は以下の通りである。
(1)企業の経営場所への立ち入り、現場検査の実施。
(2)企業の経営活動に係る契約、手形、帳簿及びその他の資料を閲覧、複製、収集。
(3)企業の経営活動に関係する組織・個人に対する調査。
(4)違法の疑いがある企業の銀行口座の法に基づく調査。
(5)法律、行政法規で定められたその他の職権。
企業の銀行口座調査の職権において、「市場監督管理部門の主要責任者の承認を得ておく必要がある」という制限を加えた。
条項の新規追加により、市場監督管理部門は企業の公示行為に対して自主的法律執行権が与えられた。一方、企業において は条例に規定された公示義務と要求に関して、より一層の注意を払わなければならない。
2. 経営異常名簿の管理を改正・整備と、行政処分の新規追加。
旧条例によると、規定通りに公示しない企業は経営異常名簿に記載される。法により 3 年間公示しなかった場合は、重大違法企 業名簿に記載される。重大違法企業名簿に記載後 5 年以内に再犯がない場合は、当該名簿から除外される。
『新条例』ではより厳格な規定を加えた。
(1)規定通りに公示しない企業は経営異常名簿に記載され、行政処分を受ける。2 年連続で規定通りに年度報告を提出せず、 経営異常名簿に記載された後も是正せず、かつ登録された住所や経営場所を通じて連絡が取れない場合、営業許可証を取り上 げる。
(2)公示した情報が真実を隠蔽し、または虚偽があり、法律、行政法規に規定がある場合は、規定通りに処理する。規定がない 場合は、市場監督管理部門は是正を命じ、1 万元以上 5 万元以下の過料を科す。情状が深刻な場合、5 万元以上 20 万元以下の
過料を科し、市場監督管理の重大違法・信用喪失名簿に記載し、かつ営業許可証を取り上げることができる。
注意すべきことは、『新条例』では、「5 年以内に再犯しない場合は、名簿から除外する」旨の規定が削除された点だ。なぜ削除 されたかというと、2023 年 5 月 1 日より施行されている『信用喪失行為是正後の信用情報修復管理方法(試行)』では、信用喪失 情報を如何に削除または終了するかについて詳しく規定したからである。つまり、企業が積極的に是正すれば、名簿から外れる ことが可能である。
弁護士紹介
金燕娟 弁護士/パートナー
8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。
その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。
学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。
使用言語:中国語、日本語
主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている