上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第37回~
法律物語
従業員を出向させる時の注意事項
李さんと印刷インキ会社 A 社は労働契約を締結し、月給を 5 万元と約定していた。A 社はある原因のため生産を一時的に停止し、李さんを関連会社の B 社に出向させた。出向期間中、関連会社は李さんに対して月給 3 万元の賃金を支払 っていた。4 か月後、李さんは A 社が賃金を全額支払っていないことを理由に労働契約を解除し、未払い賃金および経 済補償金の支払を請求した。労働仲裁委員会、第一審裁判所、第二審裁判所はいずれも李さんの請求を認めた。
本件において、李さん、A 社、B 社は「出向関係」にある。出向は特殊な雇用形態であり、通常、関連会社間で発生する。例えば、グループ会社の副総経理を総経理として子会社に出向ささせる等。
「出向」については、『労働法』にも『労働契約法』にも明確な規定がない。『<労働法>の徹底執行の若干問題に関する意見』と『労働災害保険条例』では、出向における社会保険料の納付および労働災害責任の負担について定めている。 前者の第 74 条によると、出向者の「社会保険料は依然として出向元の使用者および出向者本人が納付する。また社会 保険料の納付期間は納付年限に計上される」。後者の第 43 条によると、「従業員が出向期間中に労働災害事故に遭った場合は、出向元の使用者が労働災害保険責任を負うものとするが、係る費用の補償については出向元使用者と出向先企 業で約定することができる」。なお、『<労働法>の徹底執行の若干問題に関する意見』第 7 条では、「使用者者は協議の 上、労働契約書の関連条項を変更することができる。」という方法が示されている。
このように現行規定が非常に限定的であるため、当事者間に明確な規定がない、或いは不明確な場合、今後、仕事内 容、労働报酬、福利待遇、経済補償金などについて紛争が発生しやすくなる。
実務において、人事部署は主に以下の 2 点から出向の手配や約定を考慮すること。
第一に労働関係の角度から、出向契約、勤務場所、役職などの変更について、従業員と面談し、従業員に書面で同意 を得る必要がある。それを元に、労働契約補充協議書を締結することで、労働契約において変更すべき事項(勤務場所 や職務や福利厚生など)を明確に約定する。
第二に従業員、出向元、出向先の三方当事者間に協議書を締結する。協議書において勤務時間、条件、内容、賃金待 遇、職業危害、労働契約解除による補償、労働災害および相応の責任主体(例えば、出向先)などを明確にする。注意 すべきことは、約定される出向期間が労働契約期間を超えないようすることである。さもなければ、出向先は労働者と事実上の労働関係を構築していると認定されるリスクが発生する。
最後に、出向先の賃金不払いや閉鎖などの問題により出向元に与え得る影響やリスクを低減するために、出向元は出 向先の運営状況および財務情報など(特に非関連会社の場合)を把握しておくとともに、出向先による出向過程にも注 意を払うべきである。出向先が規定に違反し出向者の権益を損なう恐れがあることが発見された場合には、必要に応じて適時に介入、阻止、是正する。
実務検討
ビッグデータの活用とリスク防止
オンラインショッピング、オンラインブッキング、各の APP......インターネットが様々な分野で活用されることで膨 大な量のデータが形成されている。それらのデータは多くの企業にとって非常に価値のあるものである。前期の製品開 発やユーザーニーズ調査を行う際に、ビッグデータ分析により適切なビジネス戦略を立案することができる。また、販 売においても、データ分析に基づいた「ユーザープロファイル」は企業の価格設定、販売予測、販促計画の策定などに 役立つ。
いかにビッグデータを獲得するか、いかにビッグデータを活用するかは、多くの企業が直面している、または今後直面する問題である。
今年、年初より施行されている『民法典』第 127 条では、データと仮想財産が初めて保護の対象とされた。一方、11 月より施行されている『個人情報保護法』では、個人情報に係るビッグデータの所得・使用に対する制限が明確にされ、 主にその第 24 条では「自動化された意思決定行為」に対する規制が反映されている。「自動化された意思決定」とは、 「コンピュータプログラムを通じて個人の行動習慣、興味または経済、健康、信用状態等を自動的に分析・評価して意 思決定する活動を指す。」(同法第 73 条)。
まずは、この前訴訟に追い込まれた「携〇アプリケーション」の VIP 向けの価格が新規ユーザー向けの価格を遥かに 上回るという「ビッグデータによる価格差別扱い」行為について、『個人情報保護法』第 24 条第 1 項では、「個人情報処 理者が個人情報を利用して自動化された意思決定を行う場合には、意思決定の透明度および結果の公平性・公正性を保 証するものとし、取引価格等の取引条件において、個人に対して不合理な差別的待遇を行ってはならない。」と規定して いる。従って、出前プラットフォーム、オンラインショッピングプラットフォーム、オンラインシタクシー予約、オン ライン旅行などに携わる企業はそれを重視するとともに、上述の規定に違反していないか否かを自己検査するべきであ る。
次に、「自動化された意思決定の方法により個人に対して情報のプッシュ通知、商業的なマーケティングを行う」行為 について、『個人情報保護法』第 24 条第 2 項では、「その個人的特徴に対して向けられたもの以外のオプション項目も同 時に提供するか、個人に対して簡便な拒否方法を提供しなければならない」と規定している。例えば、ピザを 2 回オン ライン注文した者に対して、出前 APP はピザの関連情報のみを通知してはならず、その他の情報をオプション項目として提供し、商業的な情報の通知を拒否するためのオプション項目も提供すべきである。拒否のオプション項目は簡単で 便利に行われるものでなければならず、分かりにくい煩雑に設定してはならない。
第三に、「自動化された意思決定の方式により、個人の権益に対し重大な影響をもたらす決定を行う」行為について、 『個人情報保護法』第 24 条第 3 項では、「個人は、個人情報処理者に対して説明を求める権利を有し、かつ個人情報処 理者が自動化された意思決定の方式のみによって決定を行うことを拒否する権利を有する」と規定している。但し、「個 人の権益に対し重大な影響をもたらす決定」の判断基準については明確にされていない。『情報安全技術・個人情報安全 規範』(GB/T 35273—2020)では、「自動化された意思決定の方式により個人与信・融資限度額を決定し、または面接者の 自動化選別などに用いられる」例が示されているため、参考にすることができる。
注意すべきことは、『個人情報保護法』第 55 条により、個人情報を用いた自動化された意思決定を実施する場合は、 個人情報処理者は、個人情報保護の影響評価を事前に行い、かつ処理の情況を記録しておかなければならない。又、GB/T 35273—2020 によると、「自動化された意思決定の方式により、個人の権益に対し重大な影響をもたらす決定を行う」 場合は、個人情報保護の影響評価を事前に行うとともに「個人情報主体に対して、自動化された意思決定の結果に対す るクレームルートを提供し、自動化された意思決定の結果に対する人為的再審査を認める」。要するに企業は関連規則を 制定する際はこの点を重要視するべきである。
実務において、一部の企業は製品またはサービスにおいて、個人情報収集機能を有する第三者自動化ツールまたはサ ービス(コード、スクリプト、インターフェイス、アルゴリズムモデル、ソフトウェア開発キット、アプレットなど) にアクセスする必要があり、コンプライアンスに基づいた管理を如何に実施するかも問題となっている。GB/T 35273—2020 によると、以下の措置を講じるべきであるということだ。(1)技術テストを行い、個人情報の収集・使用が 約定に合致することを確保する。(2)第三者に組み込まれたまたはアクセスされた自動化ツールによる個人情報の収集を監査し、約定を超える行為を発見した場合、即時アクセスを遮断する。
立法動向
『中華人民共和国人口?計画生育法(2021 改正)』の影響--各地では「育児休暇」を相次いで公布
2021 年 8 月 20 日より施行されている『中華人民共和国人口・計画生育法(2021 改正)』第 25 条では、「国は、条件を
満たす地方に育児休暇の導入を支持する。」と規定している。
各地方では相次いでそれぞれの人口・計画生育条例を改正したり、関連意見を制定したりすることにより、「育児休暇」 関連規定を公布した。2021 年 11 月 25 日に「上海市人口と計画生育条例」(改正版)を公布し、女性従業員の生育休暇を 30 日から 60 日に延長され、また育児休暇が設けられ、子供が 3 歳未満の子供を持つ夫婦にそれぞれ年 5 日間の育児休暇 が与えられる。それ以外に、江西、四川、江蘇、貴州、吉林、山西、黒龍江,遼寧、湖南、湖北、陝西、安徽、海南、 寧夏を含む 15 省でも、当地の人口・計画生育条例改正案または関連意見が公布された。他の省・市・自治区でも相次いで意見募集稿を公布し、近い将来正式版が打ち出される見込みである。
「育児休暇」に関する規定を公布した各地域の規定の全体像からみてると育児休暇とは主に、3 歳未満の子供を持つ夫 婦双方に対して、使用者が一定日数の育児休暇を付与することを指す。育児休暇の具体的な日数は地域によって異なる。
育児休暇を公布した各地の関連規定から鑑みて、以下の問題を明確にする必要がある。
1、育児休暇は強制的であるか?
地域によって異なる。例えば、『四川省人口・計画生育条例』第 24 条によると、育児休暇の付与は強制である。『江蘇 省婦女権益保障条例』(2018 年施行)第 26 条第 2 項によると、妻の産休期間中、夫の使用者が夫に対して 5 日以上の共 同育児休暇を享受させることが奨励される。ここでいう育児休暇の付与は奨励である。今年 9 月より施行されている『江 蘇省人口・計画生育条例』改正案によると、育児休暇は省政府が別途規定することができる。当該規定では、江蘇省は 姿勢を明確に示していない。
2、使用者は、育児休暇の取得に対して、一定の勤続年数を前提条件とすることは可能か?
国の立法目的、育児休暇や出産介護休暇など性質が類似する休暇から考えてみると、一定の勤続年数があるを育児休 暇の取得条件とすること(例えば、入社満 1 年になる者は育児休暇を取得できるなど)は認められないと思われる。特 に使用者の所在地で、育児休暇が強制的に付与することが定められている場合はなおさらである。
3、育児休暇には休日・祝日が含まれるか?
育児休暇を付与する目的は「親子のコミュニケーション」であり、現行の規定では、育児休暇を一回で消化するとい う要求はない。従って、育児休暇は休日・祝日を含まない労働日に限ると解されるべきだと考えられる。この点につい て、四川省衛生健康委員会による『<四川省人口・計画生育条例>施行における「育児休暇」関連問題に関する指導意見』 でも上記の観点を示されている。
弁護士紹介
金燕娟 弁護士/パートナー
8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。
その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。
学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。
使用言語:中国語、日本語
主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている