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上海ハイウェイス法律相談事例

職業病管理に関するQ&A

2021年8月3日

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第33回~

法律物語

職業病管理に関するQ&A

『職業病予防治療法』第 2 条には、「職業病とは、企業、事業所、個人経営の組織等に属する労働者が業務の遂行に当たり、粉じん、放射性物質、その他有毒・有害因子に触れることにより患った疾病をさす。」と規定されている。つまり、使用者と労働契約を締結し、職業病に罹患する危険のある作業に従事する労働者は『職業病予防治療法』に基づいて、就職前、在職中、離職時に職業健康診断を受け、職業病関連待遇を享受するはずだ。但し、特殊な状況に対して職業病予防治療措置が実されるか否かについては、実務において多くの議論がある。

Q1: 臨時に配置転換を受けた労働者は職業病管理対象者に該当するか?

A1: 『職業病予防治療法』第 33 条には、「締結済みの労働契約の期間内に労働者の持ち場または業務の内容に変更が生じ、労働契約の締結時に告知されていない職業病の危害がある作業に従事することになった場合、雇用者は、前項の規定により、労働者に誠実に通知する義務を履行すると共に、元の労働契約の関連規定の変更を協議しなければならない」と規定されている。

理由の如何を問わず、労働契約締結済みの労働者を職業病危害のある作業に従事させる場合は、持ち場又は業務内容の変更に該当し、職業病予防治療措置を講じなければならない。

Q2: 派遣労働者は職業病管理の対象者に該当するか?

A 2:『職業病予防治療法』第 86 条には、「......派遣先は本法に規定する使用者義務を履行しなければならない。......」と規定されている。

派遣労働者が職業病危害のある作業に従事する場合は、派遣先は職業病予防治療措置を講じなければならない。

Q3: 再雇用される定年退職者は職業病管理の対象者に該当するか?

A 3: 定年退職者の再雇用については主に2つの状況に分けられる。

1)定年退職年齢に達しているが、定年退職手続を行っていない、又は法に従い都市・鎮労働者基本養老保険待遇を享受していない状況で、元の使用者に再雇用されて職業病危害に係る作業に従事する場合『人力資源・社会保障部の<労働災害保険条例>の執行における若干問題に関する意見(二)』第 2 条に基づき、使用者は法に従い労働災害保険責任を負う。従って、再雇用される定年退職者は職業病管理の範疇に収まる。

2)定年退職年齢に達しており、法に従い都市・鎮労働者基本養老保険待遇を享受している状況で、元の使用者又はその他の使用者に再雇用されて職業病危害に係る作業に従事する場合は、法律において「使用者はそれらの者に対して職業病予防治療措置を講じる」ことを強要されないので、実務において対処方針が異なる。具体的に A4 の箇所で解説する。
手配を行うべきである。

Q4:労務者は職業病管理の対象者になるか?

A4: この雇用形態に係る紛争において、労務者が労働関係を主張し、裁判所の判決により認められた場合は、労働契約関係として対処する。上述の A 3 における 2 番目の状況と類似するケースもあり、実務において対処方針が異なる。一部の省・市では地方性規定により『職業病予防治療法』の適用を認めるか否かを確定する。例えば、『江蘇省工業企業職業健康監護監督管理弁法(試行)』(蘇安監規〔2011〕5 号)第 9 条には、「企業は臨時工又は請負労働者に対して就職前の職業健康診断を手配し、かつその他の職業病管理措置を講じる。」と規定している。但し、大部分の省・市では明確な姿勢は示されておらず、関連部門は管理職責も異なり、意見も一致しない。例えば、上海市人力資源・社会保障局は口頭で「定年退職者など、企業と労務関係を構築した人員は労働法分野でいう労働者に該当せず、職業健康診断を行うか否かは双方が自主的に約定する。」と答え、上海市衛生健康委員会は「職業病管理の範疇に収まったほうがよい」とさらに保守的な立場を持っている。

よって、職業病危害のある作業は全ての労働者に対して不可逆的な人身損害をもたらす可能性があるため、職業病管理は労働関係に関わらず、持ち場事態を対象とすべきであると思われる。コンプライアンス・リスク管理の視点からも、労務者に対して必要な職業病予防治療管理を行うことが望ましい。

実務検討

会社は退職済みの社員の肖像を含む宣伝映像を使用することができるか?

陳さんは H 社の元シェフであるが、退職後も、インターネット上で自分がコック服を着て海南鶏又は海南鶏飯を手に持ち宣伝紹介する写真、ポスター、映像が依然として掲載しされていることを発見し、H 社に対し、肖像権侵害を理由に訴訟を提起した。H 社は、「会社が陳さんの在任職中の写真を使うことを陳さんは認識しており、異議申し立てをしな かった。会社は肖像権侵害にならない。」と主張した。陳さんは、「H 社に協力して宣伝映像を作成することは職務行為に該当するが、H 社による使用を無条件に同意することを意味するものではない。」と主張した。陳さんが退職した後に、 H 社は上述の宣伝映像を使用することができるか?

本件は『民法典』施行前の判例である。当時の『民法通則』第 100 条には、「公民は肖像権を有する。本人の同意を得なければ、営利のためにその肖像を使用してはならない。」と規定されていた。

本件について、第一審の上海徐匯裁判所も第二審の上海第一中級裁判所も、以下のことを認定した。「宣伝製品、図形文字、ビデオの内容からみて、陳さんは H 社商標の付いたコック服を着て、海南鶏飯を手に持ち、宣伝している。その特定の身振り、表情から判断しても、、当該映像は消費者又は美食家をターゲットとして、H 社の宣伝のため、陳さんがシェフとして作成者の指示に従い協力し、作成されており、写真又は映像に陳さんの姿が映るのは必然的である。陳さんはそれを知っていたはずであり、陳さんの行為は自発的なもので、H社は肖像の使用は陳さんの同意を得たと推定される。しかし、H 社が陳さんの肖像を使用できる期限は陳さんの退職に伴い終了する。その理由は、双方間に明確な約定がなければ、従業員退職後、会社による使用行為は人的従属性が失われ、また当該従業員に肖像使用の対価が支払われていないからである。」(詳細は(2020)滬 01 民 終 7158 号を参照)。

但し、司法実務において判断基準が一致していない。例えば、(2016)京 0115 民初 8355 号判決において、北京大興裁判所は、以下の観点を示した。「撮影について原告の同意を得たものの、被告会社は当該宣伝作品を公開ウェブサイト“YOUKU”にアップロードすることについて原告の同意を得たという十分な証拠がない。又、被告会社がYOUKUウェブサイトに宣伝作品をアップロードする目的は、宣伝により経済利益を獲得することにある。従って、原告本人の同意を得ずに、被告会社が営利のために原告肖像を使用する行為は原告の肖像権を侵害したと認定するべきである。」

上記のまとめとして、『民法典』施行前における判断基準は、概ね以下の通りである。(1)従業員が事前に使用又は公開方法を知っている場合を除き、在職中に従業員が宣伝作品の作成に協力することは、必ずしも従業員がその肖像を宣伝に用いることに同意したとは限らない。(2)退職後に同意を得ず、従業員の肖像を含む写真、映像を使用する場合は、通常裁判所に認められない。

『民法典』第 1018 条~第 1023 条は、肖像権及びその使用について全面的な改定が行われ、肖像権者に対する保護により重点を置いている。『民法典』第 1019 条には、以下の規定がある。「......肖像権者の同意を得ていない場合に、肖像権者の肖像を作成、使用、公開してはならない。但し、法律に別途規定がある場合は適用除外とする。肖像権者の同意を得ていない場合に、肖像作品の権利者は、発表、複製、発行、貸与、展覧などの方式で肖像権者の肖像を使用又は公開してはならない。」従って、通常、肖像権者の肖像を作成、使用、公開する場合は、肖像権者の同意を予め得ておかなければならない。又、肖像権者が作成に同意することは、その使用又は公開にも同意することを意味しない。

『民法典』第 1021 条では、「当事者は、肖像使用許諾契約における肖像使用の関連条項の理解について紛争が起こる場合は、肖像権者に有利な解釈をしなければならない。」と規定しており、又、第 1022 条には、「当事者が肖像の使用許諾期限について約定せず、又は約定が不明確である場合は、いずれかの当事者が肖像使用許諾契約を随時解除することができる。但し、合理的な期限よりも前に相手方に通知しなければならない。」と規定している。

上述のことから、現行規定の顕著な特徴は、肖像権使用許諾を獲得しているか否かにフォーカスし、約定が不明確である場合は肖像権者に有利な解釈となるにある。

この背景下で、従業員の肖像に係る宣伝作品を使用する場合は、企業は慎重に対処する必要がある。リスクを回避するために、以下の 2 点が考えられる。

第一に、特定のポストで、長期的に映像作成に協力する必要がある場合。例えば、企業のオンライン生放送マーケティングプラットフォームのキャスター、オンライン授業の講師、オンライン販売商品の展示など。提案としては、労働契約及び持ち場職責書において映像作成の協力を職責範囲に入れ、関連映像作品の知的財産権の帰属を明記し、『肖像使用許諾協議書』を締結する。使用許諾期限なども明確に約定しておく。

第二に、一般のポストで、たまに宣伝のために製品又は会社のイメージに関連する作品の作成に協力する場合。使用前に従業員の同意を得ておき、『肖像使用許諾協議書』を締結し、対価支払の要否、使用範囲、使用期限などを明記するとともに、従業員退職後も会社がそれを使用し続けることについて約定しておく。

立法動向

『行政処罰法』が 2021 年 7 月 15 日より施行

中華人民共和国第 13 期全国人民代表大会常務委員会第 25 回会議では 2021 年 1 月 22 日に『行政処罰法』改正案(以下『2021 改正版』という)を可決した。改正後の『行政処罰法』は 2021 年 7 月 15 日より施行されている。今回の改正内容は多くあり、企業が特に注意を払うべきポイントは以下の通りである。

1、「初回の違法に対して行政処罰をしない」原則

『2021 改正版』第 33 条には、「.....初回の違法で、被害が軽微で、かつ適時に是正した場合は、行政処罰をしなくてよい。.....」と規定している。注意すべきことは、

(1)初回の行政法律・法規違反行為に対して、行政処罰を必ずとも罰せられないわけではなく、行政機関は各要素を総合的に判断した上で、行政処罰を受ける場合もある。

(2)行政機関の判断に影響を及ぼす要素は 2 つある。1被害が軽微である。2適時に是正した。

実務において、「被害が軽微である」という要素が定量的な基準に欠ける場合は、法律執行の寛厳程度は一致しない可能性がある。一部の省・市では細分化・具体化した定量的な基準を公布している。例えば、2020 年年初の『上海市市場監督管理行政処罰裁量基準(試行)』ではそれぞれの違反状況に対して、定量的な判断基準が定められている。関連企業はそれを踏まえて初歩的に判断することができる。

2、責任追及の期限元『行政処罰法』第 29 条には、「原則として、違法行為が 2 年を経過して発見されなかった場合、遡及して行政処罰を行わない。法律に別途規定がある場合は除外する。」と規定されている。『2021 改正版』では、「公民の生命の健康安全、金融の安全及び危害ある結果に及ぶ場合、責任追及の期限は 2 年から 5 年に延長される。」ことを定め、「原則として」という判断基準を明確にした。

3、「同一の違法行為に対して 2 回以上の行政処罰を行わない」原則元『行政処罰法』第 24 条には、「当事者の同一の違法行為に対して、2 回以上の過料の行政処罰を行ってはならない。」と規定されていた。当該規定を踏まえて、『2021 改正版』第 29 条では、同一の違法行為が複数の法律規範に違反した場合に「同一の違法行為に対して 2 回以上の行政処罰を行わない」の原則を如何に適用するかが細分化・具体化され、「過料を科すべき場合、罰金額の高い規定により処罰する」ことを定めた。

4、「法改正によって処罰の変更があったときは、その軽いものによる」原則

『2021 改正版』第 37 条では、「行政処罰を行うときに、違法行為が発生した場合の法律、法規、規則の規定を適用する。但し、行政処罰決定を下すときに、法律、法規、規則がすでに改正或いは廃止されており、かつ新しい規定により処罰が比較的軽い或いは違法とされない場合、新規定を適用する。」ことを新規追加した。実は 2004 年に最高人民法院が公布した『行政案件の審理における法律規範の適用問題に関する座談会紀要』(法[2004]96 号)では、当該原則の適用に言及している。当該原則を法律に盛り込まれたことは、行政機関が「法改正によって処罰の変更があったときは、その軽いものによる」原則を貫徹することに役立つと思われる。(3)著作権侵害に係る複製品、材料、ツール、設備の廃棄処分に関連する新規定の追加。


弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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