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上海ハイウェイス法律相談事例

『著作権法』が 2021年6月1日より施行

2021年1月5日

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第26回~

法律物語

採用時に既往歴を隠していた従業員を解雇できるか

 2012年10月入社時、LさんはS社に対し既往歴を報告しなかった。2016年、S社はLさんが8級の労働機能障害と認定されたことに気づき、Lさんが既往歴を故意に隠し、会社と労働契約を締結したと判断した。S社は労働契約を解除を求め、双方間の紛争が引き起こされた。

実務において、既往歴を隠蔽していた従業員に対して、本件のS社のように『労働契約法』第26条に従い「詐欺により労働契約を締結した」ことを理由に解雇するケースもあれば、『労働契約法』第3条の「信義誠実の原則」及び第8条の「労働者は労働契約と直接関係する基本的状況を事実通りに説明しなければならない」の規定に違反したことを理由に、一方的に解雇するケースもある。

司法裁判の実務では、以下の司法傾向が示されている。

(1)原則として、法令又は行政規則には、特定疾病の既往歴のある者が特定業界に従事してはならないという特別規定が定められている場合にのみ、就職差別に該当しない特別規定とは、主に食品、特種業界など特定の業界や職場に係わる。例えば、『食品安全法』第34条には、「下痢、チフス、ウイルス性肝炎等の消化器感染症及び活動性肺結核、化膿性又は滲出性皮膚病など、食品の安全を害する疾病の既往歴のある者は、直接口に入れる食品に係る業務に従事してはならない。」と規定している。

(2)使用者が『労働契約法』第26条に従い一方的に解雇する場合は、通常、裁判所は認めない。

(3)使用者が『労働契約法』第3条及び第8条に従い一方的に解雇する場合は、個別案件によって裁判所に認められた事例もある。例えば、(2019)蘇 01 民終 5419 号、(2020)魯 02 民終 10746号。

上述のことから、使用者にとって、リスクを低減するために、以下の措置を講じることが考えられる。

まずは、食品等の特定業界・職場に係る特別規定を参照し、特定疾病の既往歴のある者を採用してはならない特定職場を確定し、採用条件において当該疾病の既往歴を隠蔽した場合の扱いを明記し、応募者に署名確認させる。特別規定には、特定の疾病が特定の業務において自分自身又は他人の健康権を侵害する可能性があるという立法倫理が含まれる。従って、重労働に係る職場の場合は、「腰椎椎間板ヘルニアの既往歴がある者、务性の身体障害者を採用しない」という採用条件を設定することができる。歯車装置など高速で動く機械設備の操作に係る職場の場合は、「癲癇病の既往歴がある者を採用しない」という採用条件を設定することができる。

次に、関連文書において相応の条項を織り込む。例えば、「本人は、重大な疾病に罹患したことがなく、既往歴を隠蔽していないことを認める。虚偽の申告を行った場合は、信義誠実の原則及び会社の『従業員マニュアル』に著しく違反したと看做され、会社は一方的に労働契約を解除する権利があり、かつ経済補償金を支払わない」など。そうすることで、司法機関に信義誠実の立場に立って使用者の主張を認めてもらうよう説得した場合、成功する可能性が比較的大きくなる。

実務検討

違約により取得した証拠は有効であるか

X社はY社に対しEシステムの構築・メンテナンスのサービスを提供する会社であり、Y社の要求に応じて、双方の契約に いて「契約履行における書面又は書類のやり取りは全てY社の指定メールアドレスを使用し、他のメールアドレスへ無断で複製又は転送してはならない。」ことを約定した。しかし、X社は契約履行の中で、BCC(blind carbon copy)によりX社のメールアドレスに転送した。その後、X社とY社の間に紛争が起こり、X社は関連メールを証拠として提出しようとするが、それらのメールの効力が認められず、かつY社に違約責任を追及されることを恐、どうしたらよいか分からず苦慮している。

『民事訴訟法』及び『民事訴訟証拠に関する最高人民法院の若干規定』(法釈〔2019〕19 号)の関連規定によると、合法性とは主に「証拠の形式、出所は法律規定に合致する」ことを指す。但し、違約により取得した証拠の出所が法律規定に合致するか否かは明確にされていない。

司法実務において、裁判所によって明確で統一的な判断規則はないし、ケースバイケースで証拠の有効性の判断も不確定である。

(2020)滬02民終5872号案件において、Y社と田さんは「労働契約」及び「秘密保持協議書」を締結し、「田さんは、Y社の仕入先・顧客情報、事業情報などの営業秘密を尋ねたり、漏らさないこと、また当該秘密保持義務に違反した場合は、直ちに是正するとともに、Y社に対し20万人民元の違約金を支払う。」ことを約定した。Y社は田さんが秘密保持義務違反を証明するため、田さんの個人用メールアドレスにおける一部のメールを証拠として提出した。第一審裁判所は、「それらの証拠は田さんの個人用メールアドレスから取得されたものであるが、田さんがY社において個人用メールアドレスの自動登録を設定したので、Y社が不正な手段により取得したものではない。田さんの個人用メールアドレスにおけるメールは証拠としての効力が認められる。」と認定した。第二審裁判所は、「Y社から提供された証拠から、田さんが在任中にY社の事業情報を個人用メールアドレスに複製したことを証明できる。秘密保持協議書で田さんはY社の営業情報を複製・摘録してはならないことが約定されているが、田さんは個人用メールアドレスにY社の営業情報を多数複製したことからして、秘密保持協議書の約定に違反している。従って、Y社の営業情報が含まれる関連メールを削除し、引き続き秘密保持義務を履行するものとする。」と指摘した。田さんは秘密保持義務に違反したと認定されたが、関連メールの証拠としての効力は認められなかった。

しかし、一部の労働紛争案件において、労働者が賃金、残業代、業績などを主張するために、個人用メールアドレスに関連メールを転送し、かつ証拠として提供する場合、通常、裁判所は、「転送されるメールは再編集ができるので、証拠の原本とはならない。使用者がそれらの証拠を認めず、かつ補足証拠もない状況下で、裁判所はそれらの証拠の真実性と客観性を判断しにくい」ことを理由に、関連証拠の効力を認めない(例えば、(2020)滬01民終7077号、(2019)滬02民終6307号、(2018)魯06民終 2406 号、(2018)滬 0115 民初 10675 号、(2018)滬 0110 民初 730 号)。

評価報告又は専門項目の鑑定報告について「評価機関の同意を得ずに、他人に提供してはならない」ことを約定した場合に、被告は、「原告は関連証拠を取得する権利がなく、取得方式は法律規定に合致しない。」と主張することが多い。しかし、関連証拠を「真実かつ合法で、案件と密接に関係する」と認定し、関連証拠の効力を認めた判決もある((2020)浙 0782 民初 5688 号、 (2020)湘 13 民初 14 号判决)。

以上のことから、個別案件において、違約により取得した証拠の有効性の判断は不確定であるが、以下の規則から、特定の規則から、特定の証拠の効力は認められる可能性を推測することができる。

第一に、権威ある機関から発行される評価報告、鑑定報告は、仮に違約により取得した証拠として提出した場合でも、通常、裁判所は、証拠としての効力を認める。
第二に、双方間の約定に違反して取得した証拠が、双方間の紛争に用いられる場合、証拠としての効力が裁判所に認められる可能性が高い。法理からみて、その理由は、まず、情報を知る者の範囲が拡大しておらず、無断で情報を取得した当事者自体が当該情報の開示対象者であること、次に、法廷審理においてのみ関連情報を使用し、営業秘密に係る場合は非公開審理を申請することができる。そうすると、情報の所有者に損害をもたらすことにもならないからだろう。当然、情報の所有者が、相手のBCC又は転送行為が約定に違反すると主張し、かつ違約責任を約定していた場合に、別途訴訟を提起することができる。しかし、例外となる労働紛争案件もある。例えば労働者が無断転送により取得した残業や業績を証明する関連証拠の効力は、通常、裁判所は認めない。

立法動向

『著作権法』が2021年6月1日より施行

2020年11月11日、第13期全国人民代表大会常務委員会第23回会議では著作権法の改正に関する決定を可決した。改正後の『著作権法』は2021年6月1日施行される。企業が関心を持つポイントは下記のものだろう。

1、著作物の客体範囲の調整

『著作権法』(2020改正)では、「映画著作物及び映画の撮影制作と類似する方法で創作された著作物」を「視聴覚著作物」に改めた。今回の改正は、要件又は参考要件から「撮影制作」を削除した。これによって、音楽噴水ショー、オンラインゲームの生放送などの新型著作物は著作物と認定される可能性が高くなる。又、著作物の客体に係る一般条項を法定原則から「著作物の特徴に合致するその他の知力成果」に改め、著作物の客体の種類を限定しないというのが原則となった。
又、適用対象外の客体における「時事ニュース」を「単なる事実報道」に改め、事実報道の表現に対する限定を取り消した。

2、著作権帰属紛争における問題の釈明

『著作権法』(2020改正)では、共同著作物の著作権紛争について、「共同著作物の著作権は共同著作者が合意した上で行使する。合意に達せず、正当な理由もない場合は、いずれか一方は相手による譲渡、他人への使用許諾、質入れ以外の権利行使を阻止してはならない。但し、所得収益は全ての共同著作者へ合理的に配分される。」と規定を具体化した。又、「映画著作物及び映画の撮影制作と類似する方法で創作された著作物」から「視聴覚著作物」への改正による著作権紛争について、「視聴覚著作物における映画著作物、ドラマ著作物の制作者は著作権を有する。スクリプトライター、ディレクター、撮影者、作詞者、作曲者などは署名権を有し、制作者との契約により報酬を獲得する。上述の規定外の視聴覚著作物の著作権帰属は当事者の約定による。約定がなく、又は不明確である場合は、制作者が著作権を有する。但し、著作者は署名権及び報酬獲得の権利を有する。」と規定を具体化した。

3、著作権侵害に対する懲罰の強化

(1)権利侵害責任を確定する方式の調整

『著作権法』(2020 改正)では、権利者の実際の損失と権利侵害者の違法所得の優先順位を区分せず、並行して権利侵害責任の確定に用いる。

(2)懲罰性賠償及び法定賠償の限度額の引き上げ『著作権法』(2020 改正)によると、故意に著作権を侵害し、情状が深刻である場合は、既定の賠償額以上5倍以下の懲罰性賠償を適用する。権利者の実際の損失、権利侵害者の違法所得、著作権使用料の計算が難しい場合は、裁判所は権利侵害行為の情状に基づいて賠償額を最高500万元にすると判決を下すことができる。

(3)著作権侵害に係る複製品、材料、ツール、設備の廃棄処分に関連する新規定の追加。


弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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