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上海ハイウェイス法律相談事例

「重大な損害」=「重大な経済損失」?

2022年4月1日

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第41回~

法律物語

「重大な損害」=「重大な経済損失」?

Z はある会社の主管会計係として、実費精算の初歩審査、後続の伝票整理・装丁・審査を含む採算管理を主に担当してい た。Z は業務遂行中、L と H により偽造された伝票が規定に合致しているか、帳簿と一致しているかを適時検査しておらず、自分 の署名が偽造され伝票に使用されていることにさえも気づいていなかった。その結果、L と H は伝票を偽造し、虚偽記載のある 燃油伝票を申告し会社から 64 万元以上の横領に成功した。会社は、Z の重大な職務怠慢により会社が重大な損害を受けたとし て、Z を解雇した。Z は、「横領された代金は事件発生後に回収されており、会社は実際に損失を被っていない」と主張し、労働契 約の違法解除を理由に労働仲裁を提起した。本件は第 1 審、第 2 審を受けた上で、山東省高級人民法院からの「Z の再審理請 求を棄却する」旨の裁定をもって終わりを告げた((2018)鲁民申 3526 号)。

なぜ会社の解雇処分は法院により認められたか?

『労働契約法』第 39 条第 2 項の規定によると、労働者が著しい職務怠慢、不正利得行為により使用者に重大な損害を与えた 場合、使用者は労働契約を解除することができる。「重大な損害」について、『〈中華人民共和国労働法〉の貫徹執行における若 干問題に関する意見』(労部発[1995]309 号)第 87 条では、以下の規定がある。「......「重大な損害」は企業の内部規則によって 決定される。企業の種類によって、重大な損害に対する認定も大きく異なり、統一的な解釈を行うことは容易ではない。このこと により労働紛争が起こった場合、労働争議仲裁委員会により、内部規則で定められる重大な損害を認定する。」 従って、「重大 な損害」については、企業が自ら定めることができる。企業は内部規則において、特定金額の「経済損失」に限らず、会社の信 用、イメージなど「その他の損害」を「重大な損害」に含めることができる。

司法実務において、仮に企業の内部規則に関連規定がないとしても、司法機関は損害の種類、結果、応対によるコスト、企 業が被る恐れのあるマイナスの影響などに基づき認定する。以下に「重大な損害」となる典型的な例を挙げる。

1、商業信用に対する重大な損害。(2021)粤 01 民終 9092 号案件において、広州市中級人民法院は、「......当該材料は不動 産の据え付け設備であり、長期的に使用されるため、徹底した品質管理が求められ、人身の安全にも係わる。仮に直接の経済 損失が生じていないとしても、兆○不動産会社の商業信用問題に重大な損害をもたらす。......」と指摘した。

2、企業の正常な運営に対する重大な損害。冒頭の案件において、山東省高級人民法院は、「事件発生後に、横領された代 金が回収されたが、上述の横領行為は客観的に発生しており、会社の経営管理に対して重大な影響を与えた。」と指摘した。

3、使用者の損害への対応コスト。(2020)滬 02 民終 5876 号案件において、上海市第二中級人民法院は、以下のことを指摘し た。「......S 氏は仕事において検査・清算を怠り、引き落とし通知を受領後、関連メーカーの帳簿でマイナスが出ていることを知 っていながら支払いを行った。当該職務怠慢行為は職責に係る規定に違反する。新○百貨公司は法律手段を通じて未払金の 支払を催促することができるが、そのための訴訟コストが発生することは避けられない。」

4、秘密保持義務違反も状況によっては「重大な損害」と認められる。(2021)浙 02 民終 2836 号案件において、寧波市中級人民法院は、「......従業員手帳には秘密保持事項の具体的な範囲が約定されていた。控訴理由においてのメールに関する J 氏の解釈は、特○科公司の高級管理職としてなぜプライベートのメールアドレスを使って仕入先に代理協議書の関連メ ールを送ったかという実質的で根本的な問題を避けているため、詳細についてのみに対する解釈は認められない。」 と指摘した。

実務検討

競合他社製品と類似の型番を使用することは、問題となるのか?

製品型番とは、製品を識別するための品番を指す。通常、型番は数個の英字、数字、英字+数字を組み合わせ、単独、 又はブランド名と共に特定の型番として構成される。例えば、アウディ A4、Q7。

一部の型番は、それ自体が比較的特別なものである。企業の長期的な使用・宣伝を経て、消費者は商品の型番を見る と、どの企業が販売しているものであるかをすぐ判断できる。言い換えれば、型番は商品の出所を区分する役割を果た す。但し、大部分の型番は、この機能を有しない。

実務において、一部の企業は自社製品にライバルと類似する製品型番を使用している。無意識に使用して「衝突」す るケースもあれば、故意に使用して「当たり屋行為」となるケースもある。このような場合、法的リスクは存在するの か?

上記の問いについての答えは、一概には言えないため、状況によって判断する必要がある。

ライバルの製品型番が業界において一般的な名称に該当し、かつ商標登録が行われていない場合は、ライバルと類似 する型番の使用は通常、権利侵害にならない。例えば、浙江省紹興市中級法院は(2020)浙 06 民初 193 号判決において、 「ZR-1000 は商品型番に該当し、英字と数字で組み合わせたものである。〇〇会社の商品型番の一つに属しているが、 その顕著性は高くない。また、マスク細菌濾過効率(BFE)検知器は商品の共通名称である。ZR-1000 のマスク細菌濾過 効率(BFE)検知器は商品型番と共通名称の組み合わせであり、その顕著性も高くない。」と指摘した。

また、商品型番そのものの顕著性以外にも、商用において顕著な特徴が現れるか否か、特定の商品との間に安定的な 対応関係を形成するか否かも法院の注目点となる。福建省高級人民法院は(2021) 閩民終 1161 号判決において顕著性を 分析するとともに、特に「......審理において、〇〇会社は以下の通り確認した。......製品型番が業界において唯一性を 有しないこと。ZR-1000 が当該会社の長期的な使用を経て顕著な特徴を有しており、〇〇会社が製造するマスク細菌濾 過効率検知器との間に安定的な対応関係を形成したような証拠はない。」ことを強調した。

逆に言えば、もし商品型番が比較的特別で、又は使用を経て、同類の製品との区別が明らかになり、かつ一定の市場 知名度を有するようになった場合は、『反不正当競争法』第 6 条により保護を受ける可能性がある。『最高人民法院によ る「中華人民共和国反不正競争法」の適用に関する若干問題の解釈』では、「商品の共通名称、図形、型番などの標識は 使用を経て顕著な特徴を得て、一定の市場知名度を有し、当事者が反不正競争法第 6 条の規定に基づいて保護するよう 要求した場合、人民法院は支持すべき」と定めている。

江蘇省高級人民法院の典型的な裁判例を見て見よう。「CM1 は開○会社の製品型番であると同時に、有名な商品固有の 名称の特性にも合致しており、実際の使用においても有名な商品固有の名称の機能を発揮する。第一に、CM1 シリーズ

は、開○会社が中国電器産業協会及びその共通低圧電気分会の審査を受けて登録した専用製品型番であり、唯一性を有 する。他社は一律にそれを使用してはならない。これは、関連商品とは異なり、関連商品と区別できる顕著な特徴を有 することを明らかにしている。第二に、CM1 シリーズは、国が重点的に保護する低圧電器製品型番でもある。その内、「C」 は開○会社を、「M」はプラスチックシェル遮断器を、「1」はデザイン順番を指す。これは、CM1 製品型番と開○会社と の間に自然なつながりをもたらし、消費者にとって、開○会社と同類製品のメーカーを区分するための標識となること を表明している。第三に、105 社の設計業者及び分会内の 50 社の企業向けのアンケートによると、開○会社及びその CM1 プラスチックシェル遮断器は業界内で高い影響力を有する。ユーザーの間で高い知名度を有し、関連ユーザーは、CM1 製品の専有型番を熟知しており、同類製品のメーカーと区分するための特有の標識になっている。」((2005)蘇民三終字 第 0108 号判決)。

従って、企業が製品を命名するときに、ライバルと類似する型番を使用しないように心がけるべきである。

諸事情により、ライバルと類似の型番を使用する場合は、少なくとも以下の 2 点に注意すべきである。1、業界内にお いて非常に高い知名度を有する製品型番は使用しない。2、製品自体及びその包装、宣伝において、ライバルの著作権、 商標権などの知的財産権を侵害すると認定されないよう注意する。又、ライバルとの混同や消費者の誤解を招き、不正 競争と認定されるリスクを避けるために、自社商標の使用を強調させることを提案する。

立法動向

『<中華人民共和国民法典>総則編の適用における若干問題に関する最高人民法院の解釈』が 2022 年 3 月 1 日より発効

最高人民法院は 2022 年 2 月 24 日に『<中華人民共和国民法典>総則編の適用における若干問題に関する最高人民法院の解 釈』(法釈〔2022〕6 号)(以下『民法典総則編解釈』という)を公布し、2022 年 3 月 1 日より施行することになった。

以下は商事契約に係る 2 つの主要条項について説明する。

1、「重大な誤解」に対する認定

『民法典総則編解釈』第 19 条によると、「重大な誤解」とは、行為者が行為の性質、相手当事者又は目的物の品種・品質・規格・ 価格・数量などに対して誤った認識をもち、一般的な判断で、誤った認識が生じなければ、行為者が相応の意思表示をしないことを 指す。

元『<中華人民共和国民法通則>の貫徹執行における若干問題に関する最高人民法院の意見(試行)』(法〔弁〕発〔1988〕6 号)第 71 条の「行為者が行為の性質、相手当事者、目的物の品種・品質・規格・数量などに対して誤った認識をもち、行為の結果が意に 背き、比較的多大な損失をもたらした場合、重大な誤解と認定することができる。」の規定と比べ、『民法典総則編解釈』第 19 条に は、以下の 3 つの変化が見られる。

(1)「比較的多大な損失」という結果要件を削除した。

(2)「価格」を誤った認識の対象に組み入れた。

(3)「意に背く」の意味を「一般的な判断で、誤った認識を持たない場合は、行為者は相応の意思表示をしない」ことと一層明確に した。

特に注意すべき点は、『民法典総則編解釈』第 19 条では、行為者が「重大な誤解」を理由に民事行為の取消を請求することに ついて、「商習慣などに基づき、行為者は取消請求権を有しないと認定された場合は除外する」と除外規定が追加された点だ。

2、代理人が複数いる場合、一人の代理人による無断な代理権行使に対する処理

『民法典総則編解釈』第 25 条には、「複数の委託代理人が共同で代理権を行使し、その内一人又は数人がその他の委託代 理人と協議せずに、無断で代理権を行使した場合は、民法典第 171 条(無権代理)、第 172 条(表見代理)などの規定に基づき 処理する。」と規定している。当該条項は、上述の法〔弁〕発〔1988〕6 号第 79 条の「複数の委託代理人が共同で代理権を行使し、 その内一人又は数人がその他の委託代理人と協議せずに実施する行為が被代理人の権益を侵害した場合は、関連行為を実 施する委託代理人が民事責任を負う。」という規定に基づいたものである。

新旧の規定を比較したところ、代理人が複数いる場合、個別の代理人が無断で代理権を行使したことについて、法〔弁〕発 〔1988〕6 号第 79 条では、代理の性質は判断されず、責任帰属を規定していることから、大多数の代理は表見代理と認定され る。『民法典総則編解釈』第 25 条では、代理行為の性質によって、無権代理と表見代理を区分していることから、代理行為の結 果、責任帰属の認定も異なる。


弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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