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上海ハイウェイス法律相談事例

【法律相談】中国で設立された外資企業間の契約において、国外の仲裁機関による仲裁を約定することはできるか?

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第62回~

法律物語

従業員が最終出社日の帰宅途中に交通事故に遭った場合、労災に該当するのか?

Z 社の元従業員である王さんは、2017 年 7 月 31 日の午後、退職手続を済ませ会社を出た。思いもよらないことに、その帰宅途中に交通事故に遭い、王さん本人に責任はなかったがが、応急手当の甲斐なく命は救われず、当日死亡が確認された。王さんの家族は労災認定を申請し、浦東新区の人的資源・社会保障局もそれを労災と認定した。これに不満を抱いた Z 社は、行政訴訟を起こした。最終的に一審裁判所も二審裁判所も浦東新区の人的資源・社会保障局の決定を認めた。((2018)滬 01 行終 1436 号)。『労災保険条例』第 14 条第 6 項の規定によると、従業員が通勤途中に本人が主たる責任を負わない交通事故で負傷した場合は、労災に認定される。しかし、実務において、会社との間に労働関係が存在しないため、入社当日の出勤や退職当日の退勤途中で従業員が交通事故に遭った場合、「通勤途中」とは言えないという認識を持っている会社は多い。しかし、この認識は誤りである。

入社当日について。入社当日は労働契約に記載される契約発効日であるので、当然通勤途中に該当する。入社手続きの日、即ち従業員が会社に行って労働契約を締結する日であれば、一部の人的資源・社会保障部門は「双方間で労働契約を締結していないが、事実上の労働関係を構築しており、労災と認定される」と判断している。例えば(2020)蘇民申 6126 号事件において、裁判所は「周さんが通知通りの期日に関連資料を持って会社に行ったことは、双方が労働契約関係の構築について合意に達していたと見做されるべきである。通勤途中は仕事の自然な広がりであるため、労災と認定されるべきである」と指摘している。

退職当日について。『労働契約制度の実行における若幹問題に関する通知』第 5 条には、「……労働契約の終了時刻は、労働契約期間の末日の24 時とする。」と規定している。そのため、自ら退職するか、それとも解雇されるかに係わらず、従業員が通常の退勤途中で本人が主たる責任を負わない交通事故に遭遇した場合、退職手続きを済ませたからと言って労災と認定されないわけではない。
但し、実務においては、従業員が無断で遅刻、早退した通勤途中に交通事故に遭遇するというような特殊なケースもある。この場合は、労災と認定されるのか。『<労災保険条例>の執行における若幹問題に関する意見(二)』(人社部発 2016 年 29 号)には、「六、従業員が通勤を目的とし、合理的な時間内に勤務先と居住地を往復する合理的な経路は、通勤途中と見做される。」と規定している。「合理的な時間内」には上述の状況が含まれるか否かについて、司法実務には意見が異なる。

1つ目の意見は、労働紀律違反であるか否かは仕事の広がりであるか否かとは無関係で、労災と認定されるべきであるというものである。例えば、(2020)魯行申 594 号、(2018)蘇行申 135 号等。

2つ目の意見は、従業員が労働規律に違反した通勤時間は合理的な時間ではないため、労災と認定されるべきではないというものである。例えば、(2017)粤行申 919 号等。

判例を検索したところ、1つ目の意見を認める裁決は比較的多くみられた。

実務検討

中国で設立された外資企業間の契約において、国外の仲裁機関による仲裁を約定することはできるか?

江蘇省の米系企業 A 社と上海の日系企業 B 社は売買契約を締結し、「紛争が発生した場合、いずれか一方は香港のある仲裁機関に仲裁裁決を申し立てることができる。」ことを約定している。このような約定は有効であるか?

民法の基本原則の一つは意思自治であるので、上述のような約定は有効だという意見がある。しかし、実際はこの認識は間違いである。これについて、最高裁判所は『渉外商事海事審判実務問題解答』第 83 条において、「法律において、国内当事者が渉外要素のない紛争について国外仲裁を申し立てることを許可していない。そのため、国内当事者は、渉外要素のない契約または財産権益紛争について、国外仲裁機構に仲裁を申し立てるか、または国外で臨時仲裁を行うことを約定した場合、人民法院は仲裁に関する合意を無効と認定する。」と指摘し、明確な態度を見せている。最高裁判所は『大韓商事仲裁院の第 12113-0011 号、 第 12112-0012 号仲裁裁決に対する北京朝来新生体育休閑有限会社の認可申請案件の指示に関する返信』において、同じ意見を表明している。従って、関連紛争が渉外民事関係に属さない場合は、国外仲裁機構による管轄を受けるという約定は無効となる。

渉外民事関係の判断については、主に『<中華人民共和国渉外民事関係法律適用法>の適用における若幹問題に関する最高人民法院の解釈(一)』第1条を根拠とする。同規定によると、「民事関係が次のいずれかの状況に該当する場合は、人民法院はそれを渉外民事関係と認定する。(1)当事者の一方または双方が外国公民、外国法人またはその他の組織、無国籍者である場合。(2)当事者の一方または双方の経常居住地が中華人民共和国の領域外にある場合。(3)目的物が中華人民共和国の領域外にある場合。(4)民事関係の構築、変更、消滅をもたらす法律事実が中華人民共和国の領域外にある場合。(5)渉外民事関係と認定できるその他の状況。」

上述の(1)、(2)、(4)に対する判断は比較的明確である。例えば、本件の 2 社は明らかに(1)、(2)の状況に合致しない。しかし、(3)の目的物に対する判断及び(5)のその他の状況の適用はケースバイケースで紛争が発生しやすい。

まず、目的物については、中国領域外にあることをどのように確認するのか?「メックス船舶事件」において、当事者はいずれも中国現地法人であり、上海海事裁判所は以下の要素を通じて、渉外仲裁の約定を有効と認定した。1事件に関わる船舶は ABS (American Bureau of Shipping)に入る予定の国際航行船舶である。2マーシャル諸島を船舶の国籍国と約定した。3買主が国外で完全子会社を設立して契約上の権利を承継することを約定した。4全体的に見て、目的物は中国国内に入ったことがないか、又は所有権証明書に記載された国は中国ではない。(2015)四中民(商)特字第 00152 号寧波新匯事件において、当事者はいずれも中国現地法人であり、北京第四級裁判所は「事件に係わる契約ではいずれも上海保税区現物交付を約定している。税関管理制度によると、保税区内の未通関貨物は未入国貨物に該当するため、本件は渉外要素がある」と判断している。但し、同様の事件が他の裁判所によって異なった結論が下されている。

次に、司法実務において通常「非典型的な渉外要素」と呼ばれる「その他の規定」については、判例が少なく、主に自由貿易区に設立された主体に係わる。例えば、(2013)滬一中民認(外仲)第 2 号シーメンス事件において、上海市第一中級人民法院は「申請者と被申請者はいずれも中国法人であり、契約で約定された納品地、目的物所在地はいずれも中国国内にあり、当該契約は表面上渉外要素がないと考えられる。しかし、申請者と被申請者はいずれも上海自由貿易試験区内に登録された外資系独資企業であり、その資金源、最終利益の帰属、会社の経営決定はいずれも外国投資家と緊密に関係している。自由貿易試験区を通じて投資貿易の利便性を推進するという改革の背景下において、これらの渉外要素はより重視されるべきである。また、契約履行の特徴から見て、目的物はまず国外から自由貿易試験区へ運ばれて保税監督管理を受け、その後契約履行の必要に応じて適時通関手続を行われ、区内から区外へ流通する。これも一定の国際貨物売買の特徴を持っている」と指摘した。当該事件に対する最高裁判所の返信(2015 民四他字第 5 号)において、「本件の申請者と被申請者はいずれも中国法人であり、双方が締結した『貨物供給契約』に典型的な渉外要素がないが、本件は自由貿易区に関わる案件であり、双方の当事者はいずれも外資系独資子会社である......『人民法院が「一帯一路」建設のために司法保障を提供することに関する最高人民法院の若幹意見』を貫徹するため... 自由貿易区の法治建設を支援するための先行先試(全国に先駆けて新たな政策を試行する)精神に基づいて......」と指摘し、最終的に「渉外民事関係の他の状況」と認定した。実際には、『自由貿易試験区の建設に司法保障を提供することに関する最高人民法院の意見』(法発 2016 年 34 号)には、「9.仲裁合意の効力を正しく認定し、仲裁事件の司法審査を規範化する。自由貿易試験区内に登録された外商独資企業が互いに商事紛争について域外仲裁を約定した場合は、その紛争には渉外要素がないという理由だけで、関連仲裁合意を無効と認定すべきではない」と指摘した。しかし、それにもかかわらず、司法実務において、類似の事件に対して異なる判決が下されるケースもある。

以上のことから、契約が『<中華人民共和国渉外民事関係法律適用法>の適用における若幹問題に関する最高人民法院の解釈(一)』に規定された(1)、(2)、(4)の要求に合致せず、かつ目的物が(3)の要求に合致するかどうかが不確実である場合、契約当事者は「国外仲裁機構による管轄を受ける」ことを約定しないほうが良いと思われる。

立法動向

改正後の『中華人民共和国会社法』が 2024 年 7 月 1 日より施行

『会社法』は 1993 年 12 月 29 日に可決されて以来、何度も改正されてきた。2023 年 12 月 29 日、第 14 期全国人民代表大会常務委員会第 7 回会議では、新たに改正された『会社法』(以下『新会社法』という)を採決し、2024 年 7 月 1 日より施行される予定になっている。『新会社法』では会社の資本制度、株主の出資責任、小株主権益への保護、組織機構、会社決議の効力、会社登記などにおいて、現行の『会社法』と比較し、大きく改正を行っている。

今回は資本制度及び株主の出資責任に関する改正ポイントを重点的に紹介する。

条項事項改正ポイント
第 52 条株主失権制度•株主が会社定款で定められた出資期限までに出資金を納付しておらず、会社が書面で督促状を出して出資を督促する場合は、会社は督促状において納付の猶予期間を明記することができる(会社が督促状を出した日から 60 日を下回ってはならない)。猶予期間満了後も、株主が依然として出資義務を履行しない場合は、会社は取締役会の決議を経て、当該株主に失権通知を出すことができる。通知は書面で出さなければならない。通知が出される日から、当該株主は未納付の出資金に相応 する持分を喪失する。
•上述の規定により喪失した持分については法に基づき譲渡するか、またはそれに応じて登録資本金を減少させ、かつ当該持分を抹消しなければならない。6 ヶ月以内に譲渡または抹消しない場合、会社の他の株主はその出資割合に応じて相応の出資金を全額納付する。
•株主は失権に異議を申し立てる場合、失権通知の受領日から 30 日以内に人民法院に訴訟を提起するものとする。
第 53 条
出資の払戻による責任
株主が出資の払戻を受けた場合は、それを返還しなければならない。会社に損失をもたらした場合、責任のある取締役、監事、高級管理職は当該株主と連帯して賠償責任を負わなければならない。
第 54 条出資期限の前倒規則支払期日が到来した債務を会社が返済できない場合、会社自らまたは支払期日が到来した債務の債権者は、資本金の払い込み期限にまだ達していない株主に対し、資本金の前払いを要求する権利がある。

又、『新会社法』第 55 条、第 56 条によると、出資証明書、株主名簿の記載事項には「株主の氏名又は名称、払込を引き受けた出 資額及び実際に払い込んだ出資額、出資形態及び出資期日」が含まれる。

弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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