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特集 上海ハイウェイス法律相談事例

もうバッチリ?!定年退職の実務ポイント

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第57回~

法律物語

もうバッチリ?!定年退職の実務ポイント

定年退職においては、女性従業員の定年退職年齢の他にも、注意しなければならないポイントが多数ある。以下では Q&A 方式で分かりやすく解説します。ぜひ実務のハンドブックとしてご活用ください。

Q1:労働契約が終了するのはいつ?

A1:『労働契約法』第 44 条では、「法に基づき、労働者が基本養老保険を受け始めた場合に労働契約は終了する。」、『労働 契約法実施条例』第 21 条では、「労働者が法定定年退職年齢に達した場合、労働契約は終了する。」と規定している。また地方 によって規定が異なる。例えば、北京や広東などでは「労働者が法定定年退職年齢に達した、または基本養老保険の待遇を始 めた場合、労働関係は終了する。」と定めており、2 つの状況のうち一方に該当すると労働関係が終了となるが、上海では、「労 働関係終了の前提は定年退職年齢に達しており、かつ規定に従い定年退職手続が行われた」ことである定めている。

つまり、労働者が法定定年退職年齢到達後も、使用者との労働関係は自動的に終了しない。

定年退職年齢到達後、労働関係が継続し続けるという問題を回避するために、使用者は下記の 2 点に注意しなければならな い。

(1)規則制度において、「労働者が法定定年退職年齢に達している、または基本養老保険を受け始めるとき」等と労働契約が 終了となる 2 つの状況を定めておく。

(2)労働契約終了日についての紛争を避けるため、定年退職手続に時間を要することを考慮し、現地の社会保障部門が認め る範囲内で早いうちに定年退職の手続きを始め、労働者の定年退職当年の誕生日までには完成させる。

Q2:定年退職月の給与は支払う?

A2:司法実務において意見が一致していない。『<労働者定年退職・退職に関する国務院の暫定弁法>の貫徹執行における若 干問題に関する国家労働総局の処理意見(草案)』第 17 条には、「労働者が定年退職、退職するとき、定年退職・退職月の賃金 は通常通り支給される。定年退職費、退職生活費は翌月から支給される」と規定している。当該規定は発効していないが、多く の裁判所が「使用者が定年退職・退職月の賃金を支給しなければならない」という判決を下す根拠としている。上海市人力資源 と社会保障局はその公式ウェブサイト内において、「定年退職月は従業員の実際の労働時間に応じて賃金を支給すること」と明 確にしている。北京市高級人民法院は(2016)京民申 4594 号裁定書において、「従業員が定年退職処理意見を引用した場合、 裁判所は、労働者が定年退職年齢到達後、使用者に労働を提供していない事実に基づき、使用者が労働者へ定年退職月の 賃金の全額を支払う必要はないと判決を下した。」と指摘した。

上述のことに鑑み、賃金額の紛争リスクを下げるために、使用者は規則制度又は労働契約、集団契約において、定年退職月 の賃金支給基準を明確に規定しておくことが望ましいと思われる。

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Q3:定年退職月の従業員の社会保険料を会社は納付しなければならない?

A3:納付しなければならない。社会保険料は月単位で納付されるものであり、定年退職手続きの段階では使用者と従 業員の間には依然として労働関係が存在するからである。

Q4:従業員はいつから年金を受領できる?

A4:『基本年金の社会化支給の一層規範化に関する通知』(労社庁発 2001 年 8 号)の第 2 条には、「基本養老保険待 遇の計算・審査手続を厳格に実行し、新規定年退職者に対して翌月から基本年金を支給する。」と規定している。従って、 条件を満たしている場合は、定年退職手続が完了した翌月から年金を受領することができる。

Q5:退職する従業員が当年の年次有給休暇を取得できる?

A5:『企業従業員年次有給休暇実施方法』第 12 条の規定によると、労働契約が終了する際に、年次有給休暇日数を換 算しなければならない。従って、最終月の賃金を決済するにあたり、年次有給休暇の手配や、未消化の年次有給休暇を 法に基づき賃金換算することを忘れずに行わなければならない。

実務検討

会社が営業許可証を取り上げられた場合、株主は会社の債務に対して連帯責任を負う?

王さんは数年前に友人の M 社の株主になり、5%の持分を保有している。M 社の経営状況は悪く、利益も出ていないが、王さん は気にとめておらず、「払込を引き受けただけで、実際に払い込んだわけではなく、損はない」と思っていた。昨年、M 社の営業許 可証を取り上げられたが、株主たちは何も行動していない。王さんは「営業許可証の取り上げは、人が死んだことに相当し、尾を 引くはずはない。仮に問題が発生しても、有限責任会社の株主は有限責任を引き受けるだけで、自分は最大 5 万元を出せば事 足りるだろう。」と推測していた。しかし、最近になって、王さんのもとに突然裁判所の召喚状が届き、M 社の債権者が提訴し、M 社 の 100 万元余りの債務に対して王さんにも連帯弁済責任を負うよう請求したことが分かった。王さんはたちまちどうしたらよいか分 からなくなった。

これはどういうことだろう?

おそらく多くの人は王さんと同じように、会社が営業許可証を取り上げられると、その法人格が消失すると思っている。実はこれ は大きな認識の誤りだ。「企業法人営業許可証の取り上げは、工商行政管理機関が国家工商行政法規に従い、違法な企業法人 に対して行う行政処分である。営業許可証を取り上げられた後、企業法人は法により清算を行わなければならない。清算手続を 終了し、工商登記抹消を行った後、当該企業法人は消滅する」(【2021】最高法民申 2470 号)。営業許可証の取り上げは『会社 法』第 180 条の会社解散の原因の一つであり、清算抹消手続を行ってから、法人格が消滅する。

『会社法』第 183 条によると、この場合、「解散事由の発生日から 15 日以内に清算グループを設立し、清算を開始しなければな らない。有限責任会社の清算グループは株主によって構成される。株式会社の清算グループは取締役または株主総会で決定さ れた者によって構成される」。また、会社法では組織清算の流れ、清算作業の内容及び期限などについて明確に規定している。 法により、株主は上述の清算義務を履行しない場合、会社の債務に対して連帯責任を負うというリスクがあり、また当該連帯責任 は株主が払込を引き受けた出資額に限らない。

『会社法司法解釈(二)』第 11 条、第 15 条,第 18 条によると、株主が責任を負う可能性のある具体的な状況は下記の通りで ある。

1、株主が清算義務の履行を怠り、これによって会社の主要財産、帳簿、重要書類などの滅失をもたらし、清算が困難になり、 債権者が会社の債務に対して連帯弁済責任を負うよう主張した場合、裁判所は法によりそれを認める。

清算義務の履行を怠ったという判断については、『九民紀要』の観点を参考にすることができる。法定清算事由が発生した 後、株主が清算義務を履行できる場合に、故意に清算義務の履行を遅らせたり、拒否したりし、又は過失によって清算ができな くなるなど消極的な行為が該当する。株主は清算義務を履行するために積極的な措置を講じたことを証明し、または小株主は 会社の取締役会や監事会のメンバーではなく、当該機関のメンバーを選任したこともなく、かつ会社の経営管理に関与したこと がないことを証明し、「義務の履行を怠った」ことに該当しないという理由で、会社の債務に対して連帯弁済責任を負わないと主 張した場合、人民法院は法によりそれを認める。

本件の王さんは関連証拠があれば、連帯弁済責任の負担を回避できるかもしれない。

2、株主が期限を過ぎても清算グループを設立せず、これによって会社財産の切り下げ、流失、毀損や滅失を招き、債権者が 損失範囲内で会社の債務に対する賠償責任を負うよう主張した場合、裁判所は法によりこれを認める。この場合に、債権者は 会社財産の切り下げ、流失、毀損や滅失に対して一定の証明責任を負う。そうでなければ、株主に賠償責任を負わせることは 難しいだろう。

3、株主が清算グループのメンバーであり、かつ清算抹消手続が規定に合致しない場合。具体的には、規定通りに通知と公告 の義務を履行せず、または確認されていない清算案を実行し、債権者に損失を与えた場合に賠償責任を負わなければならな い。

最後に、株主が会社財産を無償で受け取るという特殊な状況もある。『民事執行における当事者の変更、追加の若干問題に 関する最高人民法院の規定』第 22 条の規定によると、会社が執行債務者として営業許可証を取り上げられた後、株主がその財 産を無償で受け取り、これにより当該執行債務者には残余財産がなく、または残余財産が債務を返済するに足りない場合は、 株主を執行債務者に追加することができる。

以上のことから、出資額に問わず、株主は出資対象となる会社の経営状況に注目すべきである。営業許可証を取り上げられ た場合、今後起こり得る不測の法律リスクを避けるために、直ちに法により清算義務を履行し、会社抹消を遂行すべきである。 他人の協力を得られず、うまくいかない場合は、自分が清算義務を履行するために積極的な措置を講じた関連証拠を保存し、リ スクをできる限り低減させるべきである。

立法動向

『『訴訟前調停における委託鑑定業務に関する最高人民法院の規程(試行)』が 2023 年 8 月 1 日に施行

訴訟前の調停とは、『人民調停法』などの関連法律・法規に基づき、窓口である人民法院が、当事者双方が調停に同意したこと を確認した場合、案件の調停を特別招請の人民調停員またはその他の調停組織に委任する形式を指す。訴訟前の調停は『民事 訴訟法』に規定された法定裁判手続ではなく、双方当事者の自由意志に基づくものであるため、訴訟前の調停において、調停員及 び調停組織は職権や一方的な申請によって鑑定依頼の要否を決定することができない。但し、交通事故、医療、製品責任などの 紛争に係る場合は、鑑定を通じて責任者及び責任程度を確定する必要がある。類似事件の迅速な解決を有効に推進するために、 最高人民法院は「訴訟前調停における委託鑑定業務に関する最高人民法院の規程(試行)」(以下『規程』という)を公布した。その 主な内容は以下の通りである。

1. 自由意志の原則

『民事訴訟法』では、裁判手続において、裁判官は法律又は申請に基づいて鑑定を依頼することができ、双方の同意を得る必要 がないことを定めている。『規程』第 2 条では、訴訟前の鑑定は双方の同意を得なければならないことを定めている。但し、『規程』 第 5 条では、裁判所又は調停組織に協調の余白を与え、「裁判所またはその委任した調停組織は鑑定に適すると判断した場合、 当事者に釈明し、訴訟前鑑定の申請期限を指定することができる」と定めている。本条の規定が実用的か否かについては、今後の 状況によって判断される。

2. 訴訟前の鑑定の範囲

『規程』第 3 条では、訴訟前の鑑定の適用範囲を定めている:(1)自動車交通事故責任紛争;(2)医療損害責任紛争;(3)財産損 害賠償紛争;(4)建設工事契約紛争;(5)労務契約紛争;(6)製品責任紛争;(7)売買契約紛争;(8)生命権、身体権、健康権紛争; (9)訴訟前の鑑定に適するその他の紛争。

3. 訴訟前の鑑定の流れ
『規程』第 6 条から第 8 条では一連の流れを定めている。具体的には、当事者は人民法院調停プラットフォームから訴訟前鑑定

の申請書と関連鑑定書類をアップロードする
査に不合格の場合は、相手に補正を要求する 許可した場合、書類を用いて人民法院の委託鑑定システムに入る。人民法院が許可しなかった場合、書類を当事者に返却して釈 明し、記録を作成する。

4. 訴訟前の調停が成立しない場合の鑑定報告書の処理

『規程』第 17 条では、「訴訟前の調停を経ても調停合意が達成しなかった場合、鑑定書類(鑑定報告書を含む)と調停書類を一 緒にオンラインで裁判所に送付し、裁判所が立件する」ことを定めている。第 18 条では、「当事者が正当な理由なく同一の事項につ いて訴訟前の鑑定を繰り返し申請した場合、裁判所は許可しない。」ことを定めている。第 19 条では、「当事者が訴訟前の鑑定を 悪意で利用して訴訟前の調停を遅らせる等、正常な訴訟秩序に影響を与える行為が発見された場合は、訴訟過程における当事 者からの鑑定依頼の再度申請を審査する上で重要な参考とする」ことを定めている。従って、正当な理由がない場合には、訴訟前 の鑑定に係る書類及び報告書は訴訟手続における証拠となる。当事者は訴訟前の鑑定を軽視せず、訴訟前の調停、かつ鑑定を 選択し、または鑑定に同意した場合は、訴訟中と同様に鑑定の各事項において慎重に対応しなければならない。

弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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