上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第46回~
法律物語
広告における地図使用の潜在的なリスク
企業が宣伝広告において、企業規模や業務範囲を示すため、地図上に業務所在地を表示するケースがよく見られる。『広告 法』第 9 条には、「広告に次の各号に掲げる事由があってはならない。......(4)国家の尊厳又は利益を損ね、国家秘密を漏洩す る。......」と規定されており、2017 年以来は、不適切な地図の使用により主管機関から行政処分を受けるケースも珍しくない。 実務において、企業の多くは地雷を踏みたくないが、どうしたらよいか一知半解である。
これまでの事例からみて、企業が日常経営において注意すべきポイントは下記の通りである。
一、広告の形式。
多くの人にとって、広告についての理解は、広告会社に広告の作成や配布及びパンフレットの印刷を依頼することに留まって いる。実は、『広告法』第 2 条には、「中華人民共和国国内において、商品経営者又はサービス提供者が一定の媒体・形式を通 じて直接又は間接的にその宣伝対象となる商品又はサービスを紹介する商業広告活動は、本法の適用を受ける。......」と規定 している。当該規定からみると、一定の媒体・形式を通じて直接又は間接的にその宣伝対象となる商品又はサービスを紹介す る商業広告活動はいずれも広告に該当する。要するに、企業の公式ウェブサイト、ウィーチャット上の公式アカウントなどを通し て発表される内容はすべて広告に該当する。杭西市監処罰(2021)101 号案件において、江南布衣服飾有限公司は公式ウェブ サイトにより発表した企業紹介において使用した地図が不完全だったため(使用した地図に誤りがあったため)、過料 80 万元に 処された。
二、地図審査の要点。
まず、正確な地図の使用を確保すること。簡潔な方法は、自然資源部地図審査センターの「標準地図サービス」 (http://bzdt.ch.mnr.gov.cn/index.html)により全国地図、世界地図等をダウンロードし、各省、市の地図は、各省、市の自然資源 主管部門の公式ウェブサイトによりダウンロードする。
正確な地図を使用した上で、さらに下記の点に細心の注意を払う必要がある。
(1)地図を使用する際、「審査番号」を付ける。『地図審査管理規定』第 27 条には、「審査を経て承認された地図について、申 請者は地図または地図を使用する製品の適切な位置に審査番号を目立つように表示しなければならない」と規定している。
(2)合法的な審査を経た地図を正確に使う。具体的には、1塗分け、区分け、テキストの追加、削除、修正など地図の無断変 造をしない。2基準とは異なる縮尺変更を行ってはならない。写真やイラストで地図の一部を覆い隠し、地図を不完全なものに してはならない。
(3)上述の 2 点を確認した上で使用する。実務において、多くの企業が定期的に企業紹介、製品紹介の関連宣伝材料の更新
を行っているが、重版時に、地図の審査をおろそかにすることが多く見受けられる。過去に処分を受けなかったことは、過去に使用した地図に問題がなかったというわけではない。潜在的な問題は、いつ爆発するか分からない爆弾のような存在である。
「地図の使用制限が多すぎて、広告のアイデアをつぶす。」等、一部の企業から指摘される問題は、「標準地図サービス」のウ ェブサイトにおける「セルフマッピング」を活用することで解決できる。もちろん、審査の基準や要求の制限を受け、成果 が本来のアイデアの効果を完全に達成できないかもしれないが、それでもイノベーションの要求は大きく満たすことができるはず だ。
実務検討
「受給時支払(pay when paid)」支払条項は無効と認定される可能性はあるか?
「受給時支払(pay when paid)」支払条項は通常、法律上、上下関係にある契約に存在するものである。その特徴は、 支払義務を負う当事者(中間にあたる当事者)が、自分から下流の提携者への支払義務を履行する前提条件として、上 流の提携者による代金支払義務が履行済みであることだ。簡単に言うと、中間にあたる当事者には「先に受給し、後で 支払いをする」ことが要求される。
このような条項は中間側にとって契約履行に伴うリスクを下げ、支払に伴うリスクをシフトするのに役立つので、建 設工事施工、広告宣伝、技術サービス、大口貨物取引などの契約に広く存在している。しかし、現行の法律にはこのよ うな条項の効力について明確に規定されていないため、個別案件においてこのような条項が有効であるか否かは一概に は言えない。
司法実務において、「受給時支払(pay when paid)」条項が無効と認定される理由は主に 4 つある。
1.「受給時支払(pay when paid)」条項は契約の相対性を突破し、公平の原則に違反するので、無効である。(2020) 新民終 45 号案件において、一審裁判所は、「契約の相対性原則によると、A 社が所有者 C 社との契約に基づき C 社から 代金を受給したか否かは、A 社から B 社への代金支払に影響を与えない。C 社から代金を受給後に B 社へ支払うという A 社の約定は公平性に欠ける。」と判断し、抗弁理由を認めなかった。
2.「受給時支払(pay when paid)」条項は定型約款に該当し、公平の原則に違反するので、無効である。 (2018)京 01 民終 5491 号案件において、裁判所は、「協議書では、A 社がエンドユーザーから分割払いで受給した後、一定の割合 で B 社に支払うことを約定した。但し、エンドユーザーが A 社に支払うか否か、いつ支払うかは、 B 社は知るはずが ない。協議書締結時に B 社は明らかに不利な地位にあり、公平の原則に違反する。」と判断した。
3.「受給時支払(pay when paid)」条項は、不明確な約定であるため、無効である。(2019)京 03 民終 6724 号案件に おいて、二審裁判所は、「まず、『製品仕入販売契約』における「受給時支払」の約定は明瞭でもなく、具体的でもない。 支払について、契約では A 社と B 社の支払日と金額を約定しているだけで、「受給時支払」の支払について説明しておら ず、第三者の C 社について記載していない。次に、A 社からの証拠は、「受給時支払」条項に係る具体的な説明を B 社に 告知したことを証明できない。A 社の説明により、B 社は長期に亘り、支払条件成立の可否が分からないというリスクを 負うため、契約法の公平原則と立法精神に違反する。」と判断した。
4.契約の無効により「受給時支払(pay when paid)」条項は無効である。 (2020)川 01 民終 7194 号案件において、 裁判所は、「仮に A 社は、受給時支払条項の原則に従い、契約相手方からの代金を受給した後に B に支払うべきであると 主張したとしても、『給水給電設置工事施工労務下請け契約』が無効であるので、A 社の主張に根拠がない。」と判断し た。
以上のことから、「受給時支払(pay when paid)」条項が無効と認定されるリスクを下げるために、中間側は「受給時 支払」条項を含む契約を締結・履行するときに、下記の 4 点に注意を払うとよい。
第一に、主体契約の有効性を確保する。主体契約が無効と認定された場合は、「受給時支払」条項は無効になる可能性 がある。この場合に、中間側は『民法典』契約編第 567 条(「契約上の権利義務関係の終了は、契約における決済と清算 の効力に影響を与えない」)の規定を根拠に、突破口を切り開くことができる。
第二に、「受給時支払」条項の約定を明確化かつ具体化する。本来、「受給時支払」条項は、少なくとも支払日(具体 的な支払時点、支払期限など)、支払金額、支払形式、支払比率、支払条件などに関する約定を含むべきである。例えば、 建設工事施工類契約の場合は、総請負業者と委託者の契約で約定される支払時点は、総請負業者と下請け業者の契約で 約定される支払時点と一致し、かつ下請け業者には委託者の必要情報を開示するものとする。
第三に、定型約款と認定されることを避ける。「受給時支払」条項を提供する当事者は、特殊な書体、色などで「受給 時支払」条項を強調して説明するなど、相手の注意喚起を行い、注意・説明義務を尽くすとともに、できる限り契約条 項について双方が検討・協議したメールやり取り、WeChat 履歴などを保留し、定型約款と認定されるリスクを下げる。
第四に、契約履行の管理をしっかりと行う。北京市高級人民法院は『建設工事施行契約紛争案件の若干難問に関する 解答』第 22 号において、建設工事施行契約における「受給時支払」条項の効力を肯定した。但し、中間側は決済を遅ら せたり、期限が到来した債権の行使を怠ったりしてはならず、かつ決済状況の事実について立証責任を負う。従って、 中間側は、プロジェクトの検収を積極的に推進した、プロジェクトの進捗をフォローした、上流の提携者に債権を主張 した、関連状況を下流の提携者に知らせた内容など関連証拠を保留すべきである。
立法動向
『インターネットユーザーアカウント情報管理規定』は 2022 年 8 月 1 日より施行
2022 年 4 月、百度(バイドゥ)の掲示板、微博(ウェイボー)、ティックトック(tik tok)などのネットプラットフォームが相次いで IP アドレス表示欄を新設している。これによって、ベールが剥がされるように、インターネットユーザーの詳細が把握できるようにな っている。国家インターネット情報弁公室は 2022 年 6 月 27 日に『インターネットユーザーアカウント情報管理規定』を公布し、8 月 1 日より施行することになった。当該規定は、インターネット情報サービス提供者とユーザー2 つの側面から、ユーザーアカウ ントの登録、使用、管理規則を明確にした。企業にとって、第三者によるネットワーク侵害事件が発生した場合、ユーザーアカウ ントの詳細は、侵害対象をより迅速かつ有効にロックするのに役立つ。
■インターネットユーザーがアカウント情報を登録、使用する際に遵守すべきルール
1.真実性——インターネット個人ユーザーがアカウント情報を登録、使用するときに、職業情報に係る場合は、個人の実際の職 業情報と一致する。インターネット機関のユーザーがアカウント情報を登録、使用するときに、機関の名称、標識などと一致し、 機関のユーザーがアカウント情報を登録、使用するときに、機関の名称、標識などと一致し、機関の性質、経営範囲、所属業界 の種類などと一致する。
2.合法性----インターネットユーザーがアカウント情報を登録、使用するにあたり、以下の行為があってはならない。(1)『イン ターネット情報コンテンツの生態整備規定』第 6 条、第 7 条の規定違反。(2)党派・政府・軍隊機関、企業・事業体、人民団体、社 会組織の名称・標識などを詐称、模倣、捏造。(3)国家(地区)、国際組織の名称・標識などを詐称、模倣、捏造。(4)ニュースサイト、新聞社、ラジオ・テレビ局、通信社などのニュースメディアの名称、標識などを詐称、模倣、捏造する、または「ニュー ス」、「報道」などニュースの属性を持つ名称、標識などを無断で使用する。(5)国家の行政区域、機構の所在地、シンボル的な 建物など重要な空間の地理的名称、標識などを詐称、模倣し、悪意を持って関係づける。公共の利益を損なうことや不正な利 益を得ることを目的として、故意に QR コード、ウェブサイト、メールアドレス、連絡先などを持ち込み、又は同音、語呂合わせ、 近い文字、数字、記号、アルファベットなどを使用する。(7)名実相伴わない、針小棒大に言うなど、大衆を騙き誤解を招く。(8) 法律、行政法規、国家関連規定に禁止されるその他の行為。
3.資格----インターネットユーザーは、インターネットニュース情報サービス、インターネット出版サービスなど、法律に基づい て行政許可を要するインターネット情報サービスを提供するアカウントの登録申請や、経済、教育、医療衛生、司法などの分野 の情報コンテンツ生産に従事するアカウントの登録申請を行う場合、インターネット情報サービス提供者は上記の申請者に対し て、サービス資格、職業資格、専門背景などの関連資料を提供させ、それらの資料を検証し、アカウント情報に特定標識をつけ ること。
■インターネット情報サービス提供者は、ユーザーが上記の要求を満たしているか否かを確認し、ユーザー情報を保護する ほか、以下の措置をとる必要もある。
1. インターネットユーザーアカウント管理規則、プラットフォーム規約を制定、公開し、インターネットユーザーとサービス協議 書を締結し、アカウント情報の登録、使用、管理に関する権利義務を明確にする。実務において、大部分のプラットフォームは 上記の措置を実施しているが、必ずしも上記のユーザーに対する詳細な要求(相応の派生を含む)を含んでいるとは限らない。 そのため、法により関連規則の更新を行うことを提案する。
2. 一定の資格の取得を要するユーザーアカウントについては、確認の上、アカウント情報において特定標識を付ける。
3. 公共の利益のために大衆が監督しやすくするため、インターネットユーザーアカウント情報ページにより、合理的な範囲内 でインターネットユーザーアカウントのインターネットプロトコル(IP)アドレスの帰属先情報を表示する。
4. インターネットユーザーの公式アカウント情報ページにより、公式アカウントの運営主体、登録運営アドレス、コンテンツ生 産種別、統一社会信用コード、有効な連絡先、インターネットプロトコル(IP)アドレスの帰属先などの情報を表示する。
弁護士紹介
金燕娟 弁護士/パートナー
8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。
その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。
学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。
使用言語:中国語、日本語
主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている