上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第55回~
法律物語
「特殊労働時間制導入時のポイント
労働時間制度には、標準労働時間制、不定時労働時間制、総合計算労働時間制の 3 つがある。そのうち、不定時労働時間 制と総合計算労働時間制は、労働行政部門の承認を経て初めて施行できるため、通常、特殊労働時間制と総称されている。当 該 2 つの特殊労働時間制の適用対象については規定が比較的明確なため、経験豊富な HR 達は熟知しているだろう。しかし、 以下のような実務上の難点についても理解しているだろうか?
Q:特殊労働時間制を申請するには民主的協議手続が必要であるか?
A: 特殊労働時間制は労働者の休憩・休暇、残業代などに直接影響するため、実務において、多くの地方の労働行政部門 は、特殊労働時間制の実施に対して労働組合又は従業員代表大会の書面意見の提出を求めている。
又、一部の地方、例えば浙江省では、従業員代表又は従業員代表大会の書面意見の提出を要求している。この時、従業員 代表との労働契約及び従業員代表選挙決議の提出も求められる。
その他、従業員本人による書面の同意書類の提出を求める地方もある。
従って、使用者は、特殊労働時間制を申請する前に、まず所在地の労働行政部門の具体的な要求を確認し、状況に応じて適 切な民主的手続を行わなければならない。
Q:特殊労働時間制を派遣社員に対して実施できるか?
A:労働関係であれ労務関係であれ、特殊労働時間制の審査許可基準は、役職が要件を満たしているか否かであるため、派 遣社員に対しても特殊労働時間制を実施することができる。派遣社員について、特殊労働時間制を申請する主体は、派遣業者 ではなく使用者である。また、『労務派遣暫定規定』第 7 条の「労務派遣協議書において記載すべき内容」では、労働時間の記 載が必要であることが定められている。当該規定から、使用者は事前に告知しておく義務がある。
個別の省や市では、派遣社員に対して特殊労働時間制を適用することについて特別な規定がある点には、注意が必要であ る。使用者は所在地の規定に留意しながら実施しなければならない。例えば、河南省の『使用者における不定時労働時間制及 び総合計算労働時間制実施に対する審査許可・管理を一層強化することに関する通知』では、「使用者は派遣社員の連署によ る同意意見を取得しなければならない」ことを定めている。
Q:本社で特別労働時間制の許可を取得した場合、支社は別途申請しなくても良いのか?
A:『企業における不定時労働時間制と総合計算労働時間制の実行に関する審査許可弁法』(労部発(1994)503 号)第 7 条の 規定によると、各省・市の労働行政部門は地方向けに特殊労働時間制の審査許可方法を制定することができる。そのため、各 地方の規定には、ばらつきが見られる。検索結果によると、主に以下の 3 つのタイプに分けられる。
(1)本社がその所在地にて特殊労働時間制を申請し、許可を取得した場合、支社にも直接適用される。例えば、四川、 天津、寧夏、内モンゴル。
(2)本社がその所在地にて特殊労働時間制を申請し、許可を取得しても、支社に適用することができず、支社がその登 録地にて別途申請を行わなければならない。例えば、上海、北京、江蘇省。
(3)本社がその所在地にて特殊労働時間制を申請し許可を取得し、その許可書類に「支社を含む」という記載がある場 合に限り、支社に適用される。例えば、広東省。
実務検討
譲渡禁止特約付き債権が譲渡されたらどうなる?
債権譲渡行為を有効にするためには、通常、4 つの要件を満たす必要がある。①有効な債権が存在する。②譲渡の対象となる 債権が譲渡可能である。③有効な債権譲渡契約が存在する。④債権譲渡について債務者に通知すること。これらの要件を満た さなければ、債権譲渡は債務者に対して効力を発揮しない。
因みに、債権が「性質上譲渡できない」、もしくは「法令により譲渡できない」債権に該当しない限り、原則上、債務者の同意を 得ることなく、債務者に通知すれば譲渡することができる。
しかし、当事者双方が債権譲渡不可という約定をしている場合も、通知するだけで良いのだろうか?債務者が異議を申し立て たらどうするべきだろうか?
『民法典』第 545 条には、「当事者間に非金銭債権を譲渡してはならないという約定がある場合は、善意の第三者に対抗しては ならない。当事者間で金銭債権を譲渡してはならないという約定がある場合は、第三者に対抗してはならない」と規定している。 つまり、金銭債権であれば、譲受者が認識しているかを問わず、債権者と債務者との約定は第三者である譲受者に対抗できな い、つまり債権譲渡は有効となる。非金銭債権の場合は、譲受者が認識していない場合に限り、譲渡が有効となる。
ここで疑問となるのは、譲渡禁止特約付き債権が譲渡されると、債権者(即ち譲渡者)、債務者、譲受者に対してそれぞれどの ような影響を与えるのか、ということである
まず、譲渡者は、契約において「当該債権を譲渡してはならない」と約定しているので、債権譲渡行為は違約となるため、違約 責任を負うことになる。例えば、(2022)京 0106 民初 15108 号事例において、裁判所は「本件は当事者の約定により譲渡してはな らない状況に属する。A 社が契約債権を譲渡する行為は違約にあたるため、相応の違約責任を負わなければならない」と判断し た。仮に違約側が「双方で約定した違約金が高すぎる」と主張すれば、裁判所は事案毎の具体的な状況に応じて調整する可能 性がある。例えば、上述の事例においては、双方間で違約金を 10 万元と約定していたが、B 社が譲渡行為による直接的な経済 損失を証明できないため、最終的に裁判所は、総合的に勘案したうえで違約金を 3 万元に調整した。なお、債権譲渡行為が無効 となった場合、譲渡者と譲受者との約定によっては、譲渡者は譲受者に対して違約責任を負う可能性もある。
次に、債務者ついて。債務者は、上述のように、契約の約定に基づいて譲渡者に対して違約責任を主張することができる一 方、債権譲渡行為が有効であれば、譲受者に対して債務を履行しなければならない。この場合、債務者が「契約では譲渡不可を 約定した」ことを理由に依然として譲渡者に債務を履行する場合、債務者は譲受者から債権を主張されるリスクに直面する可能 性がある。
また、譲受者の立場から考えると、債権譲渡行為が有効で、かつ債務者に対して効力を生じた場合は、譲受者は債務者に対 して債権を直接主張することができる。債権譲渡行為が無効で、かつ契約の約定により譲渡人の責めに帰することができる場 合、譲受者は譲渡者に対して違約責任を主張することができる。
立法動向
『生態環境行政処罰弁法』が 2023 年 7 月 1 日より施行
生態環境部は 2023 年 5 月 8 日に『生態環境行政処罰弁法』(以下『新弁法』という)を公布した。『新弁法』は 2023 年 7 月 1 日から施行される。『新弁法』が登場した背景には、2021 年に改正された『行政処罰法』、及び 10 年余り施行されている『環境行 政処罰弁法』(以下『旧弁法』では、新たな問題に適切に対処できないという現状がある。以下は新旧規定の対比と通して、重点 的に注目すべき内容に焦点を当てる。
1. 処罰の種類の細分化
『旧弁法』に基づいて、『新弁法』では、「(1)通報して批判する。(2)資格と等級を下げる。(3)生産経営活動の展開を制限し、 生産停止・廃業・是正・閉鎖を命じ、就業を制限・禁止する。(4)期限をきって取り壊しを命じる。」ことを定めた。
上述の(1)と(2)は新しく追加されたものである。近年、中国では各方面において企業信用が管理に取り入れられ始め、それ 後、生態環境管理にも取り入れられている。上述の(3)と(4)は『旧弁法』第 12 条の「是正を命じる」という形式を統合したもの で、新規追加項目には該当しない。
2. 法律執行手続の要件の細分化・改正
『新弁法』では、立件期限を従来の 7 稼働日から 15 日に改正した。また特殊な事情の場合、さらに 15 日延長することもできる。 また先行登録後、証拠保存のための措置をとるべき期限を従来の 7 稼働日から 7 日に改正した。
また、新規追加した手続きには、告知手続と聴聞手続の細分化が含まれる。例えば、聴聞を組織すべき 6 つの状況の規定、 聴聞を組織する手続の明確化、法制審査と集団検討の手続が新たに追加された。
3. 行政処罰を行わない、行政処罰の軽減、減刑となる状況の追加
『旧弁法』では、処罰を免除する状況として、「違法行為が軽微でかつ直ちに是正しており、生態環境を害していない場合は、 処罰を行わない」という一つしかなかった。『新弁法』ではさらに 2 つの状況が追加された。①初めての法律違反であり、かつ生 態環境に対する危害が軽微で、直ちに是正した場合。②当事者に主観的な過ちがないことを証明する証拠がある場合。
又、『新弁法』では、行政処罰の軽減、減刑となる状況を追加した。(1)生態環境違法行為による危害を自発的に除去または 軽減する場合。(2)他人に脅迫または誘導されて生態環境違法行為を行っていた場合。(3)生態環境主管部門が把握していな い生態環境違法行為を自発的に供述する場合。(4)生態環境主管部門と協力して生態環境違法行為を調査、処分することで功 績を上げた場合。(5)法律、法規、規則の規定により、その他の行政処罰を軽減ももしくは減刑すべき場合。
弁護士紹介
金燕娟 弁護士/パートナー
8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。
その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。
学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。
使用言語:中国語、日本語
主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている