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上海ハイウェイス法律相談事例

高級管理職を解任したい場合はどうすれば良いのか?

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第40回~

法律物語

高級管理職を解任したい場合はどうすれば良いのか?

劉氏は A 社の総経理を務めていたが、「董事会の決議により、総経理解任が決定された」ことを理由に、A 社は劉さんとの労 働契約を解除した。劉氏は労働仲裁を提起し、その結果労働仲裁委員会、第一審裁判所、第二審裁判所はいずれも A 社によ る不当解雇と認定した。

なぜ A 社が敗訴したか?

『会社法』第 46 条第 9 項では、「董事会は総経理の任命又は解任及びその報酬事項を決定し、かつ総経理の指名に基づき 副総経理、財務責任者の任命又は解任及びその報酬事項を決定する権利がある。」と規定している。従って、A 社董事会の決 議に至るプロセスが『会社法』及び会社定款の規定に合致する限り、総経理を解任することは何ら問題ない。

解任事由が事実であるか否か、妥当であるか否かについて、司法実務のルールによると下記の通りである。

「総経理の任命又は解任は会社董事会の法定職権である。董事会の決議におけるプロセスが『会社法』及び会社定款の規 定に違反しておらず、内容についても会社定款の規定に違反していない限り、裁判所は解任事由が事実であるか否かを審査・ 認定せず、董事会の決議の効力に影響を与えない。」(最高裁判所指導案例(2010)滬二中民四(商)終字第 436 号)。

もしかしたら裁判所が間違った判決を下したのか?

そうではない。A 社に敗訴の判決が下された根本的な原因は、職務解任と労働関係解除を混淆し、劉さんとの労働関係を解 除したことにある。つまり、『会社法』に基づき職務を解任すること自体は問題ないが、労働関係を解除する場合は、『労働契約 法』の関連規定、例えば、第 39 条の「労働者の過失による解雇」又は第 40 条の「労働者の過失によらない解雇」に該当するか どうかを確認しなければならない。仮に関連規定に合致するとしたら、『労働契約法』第 43 条の規定に従い労働組合への通知を

行わなければならない。よって、A 社が董事会の決議だけを以って劉さんとの労働関係を一方的に解除することは当然認められ ない。

また、実務において、以下のポイントにも注意すべきである。

第一に、『会社法』第 216 条では、「高級管理職とは、会社の総経理、副総経理、財務責任者、上場会社の董事会秘書及び会 社定款に定めるその他の者を指す」と規定している。前述した『会社法』第 46 条第 9 項には、会社の定款に定められる「その他 の者」が含まれていないため、「その他の者」にあたる高級管理職の職務を変更する場合、何を根拠とすべきか?この場合、『会 社法』第 49 条第 7 項の規定、即ち、「総経理は、董事会が任命又は解任を決定すべき者以外の管理責任者の任命又は解任を 決定する権利がある」を根拠とすることが考えられる。勿論、会社定款に別途定めがある場合は、具体的な規定に従い判断す ることとなる。

第二に、一部の高級管理職が会社と労働契約を締結していない(特に個別の株主が数社の高級管理職を兼任する場

合)。この場合は、『会社法』及び会社定款の規定に合致する限り、係る高級管理職を解任することにリスクはないと判 断する企業も多いだろう。但し、係る高級管理職が何れの会社と労働契約関係を構築していない場合、労働契約上の地 位の確認を求められる可能性があり、通常、裁判所もそれを支持する(適例:(2020)最高法民再 50 号)。

第三に、外国籍労働者も『労働契約法』の適用を受けるが、外国人就業については各地方毎に規定があり、バラつき も見れれるため、外国籍高級管理職の解任について特殊なところがある。上海を例として挙げると、『<外国人の中国に おける就業の管理規定>を貫徹することに関する若干意見』(滬労外発〔1998〕25 号)第 16 条では、「雇用企業と、任命・ 雇用の許可を得た外国人との間の、任命・雇用期限、持ち場、報酬、保険、労働時間、任命・雇用関係解除の条件、違 約責任などの権利義務は、労働契約を通じて約定する。」と規定している。上海の司法実務において、会社と外国籍高級 管理職の間に任命・雇用関係の解除に係る特別約定(例えば、パフォーマンス指標等)がある場合は、通常、裁判所は 当該約定を認める。つまり、外国籍労働者については必ずしも『労働契約法』第 39 条又は第 40 条の関連条件を満たし ているとは限らない(例えば、(2020)滬 01 民終 847 号)。

実務検討

違約金の金額が高すぎる場合はどうなるのか? 

ビジネス活動において、義務者の行為を有効に拘束すると同時に、義務者が違約した場合、権利者が最大限の救済を 受けるために、契約時に当事者が高額な違約金を約定することが多い。例えば、A 社と B 社は『オーディオ・ビデオ番 組独占購入協議書』において、「作品が約定通りのチャンネル・時間帯に放送されない場合、B 社は協議書を解除する権 利があり、A 社は協議書総額の 30%、即ち 1080 万元を違約金として支払う。」ことを約定した。

双方の自由意思である限り、どれだけ高額な違約金を約定しても、認められるのだろうか?

『民法典』第 585 条には、「当事者は、一方が違約した際に違約状況に基づき相手方に対し一定金額の違約金を支払う べき旨を約定することができ、違約による損害賠償額の計算方法も合わせて約定することもできる。...約定された違約 金が損害を過度に上回っている場合、人民法院又は仲裁機関は当事者の請求に応じて適当な減額を行う。...」と規定し ている。当該規定からみて、以下の 2 つの条件を同時に満たす場合、違約金は減額される可能性がある。1約定された 違約金が損害を過度に上回っている。2当事者が司法機関に対して「違約金が高すぎる」ことを主張する。

では、「約定された違約金が損害を過度に上回っている」ことを如何に判断するか?

『<中華人民共和国契約法>の適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈(二)』(既に失効)第 29 条では、「当事者 間で約定された違約金が損失の 30%を超えている場合は、通常、過度に損失を上回ると認定することができる。」と規 定している。『民法典の貫徹実施に関する全国裁判所の会議紀要』(法〔2021〕94 号)第 11 条には、同主旨の規定もあ る。従って、実務において、多くの当事者は違約金を契約金額の 30%に設定する。

但し、多くの場合、このような約定は認められない。

『民法典契約編—理解と適用』によると、違約金が高すぎるか否かを認定するとき、契約の履行状況に基づき、実損を 明らかにし、基本標準を確定し、当事者過失の程度、予想利益、当事者が商事主体であるか否か、当事者間の交渉能力

が平等であるか否か、定型約款を適用するか否かなど様々な要素を総合的に考慮し、公平と信義誠実の原則を遵守すべ きである。又、新型コロナのような特殊な状況において、裁判所は新型コロナウィルスの蔓延による契約履行への影響 も判断要素の一つとする(例えば、(2021)滬 0114 民初 11430 号判決)。

当事者にとって、上述の説明は抽象的で理解しにくいかもしれない。そこで(2021)滬 73 民終 632 号判決を例に、具 体的な事案において裁判所が如何に対処するのかを説明する。当該事案において、上海知的財産権裁判所は、1080 万元 の違約金が高すぎると認定し、情状酌量した上で違約金を 360 万元に減額した。その理由について、裁判所は、「本件に おいて、具体的な違約金額を計算する際、以下の事実を考慮すべきである」と述べた。1被告側は、違約金が高すぎる ことを立証できず、原告側は、相手方の違約による実損又は予想利益の損失を立証できない。2当事者双方は『補充協 議書1』において元協議書における使用許諾料を 3,600 万元に変更したが、支払期限、毎回の支払割合、支払条件は依 然として元協議書に準ずる。又、元協議書 12.1 条の約定によると、いずれかの一方当事者が本協議書に約定される義務 に違反した場合は、違約と見做される。明確な約定がある場合を除き、違約者は相手方に違約金を支払い、違約金は許 諾使用料の合計金額の 10%とする。3原告は、被告の悪意による違約を証明できず、原告自身にも違約行為がある。

なお、金銭給付義務を負う当事者が違約した場合、一部の裁判所は LPR(全国銀行間資金調達センターが公布するロ ーンプライムレート)を参考基準とし、事案の事実に基づき、違約金が高すぎるか否か、どの程度調整するかを判断す る。特殊な状況として、当事者が正当な理由なく、長期にわたって契約約定に従わず、支払を拒否したことにより高額 な違約金が発生、その後当該高額な違約金の支払について明らかに承諾した場合、最高裁判所は(2018)最高法民再 303 号事件において、「裁判所は情状を酌量して違約金を減額しない。さもなければ、公平と信義誠実の原則に背く。」と指 摘した。

立法動向

『国家知的財産権局知的財産権信用管理規定』が公布され、知的財産権信用喪失主体が「ブラックリスト」 に組み込まれる

2022 年 1 月 24 日、『国家知的財産権局知的財産権信用管理規定』(以下『規定』という)が公布されており、当日より施行され ることになった。

以下はQ&A により、『規定』の主要な内容を紹介する。

1. どのような行為が信用喪失行為になるか?

『規定』第 6 条には、6 つの信用喪失行為を明記している。1イノベーション保護を目的とせず、正常でない特許出願行為。2 悪意による商標登録出願行為。3法律、行政法規に違反して特許、商標の代理申請を行い、国家知識産権局の行政処分を受 けた行為。4虚偽資料の提出、重要な事実を隠蔽して行政確認を請求する行為。5信用承諾の適用が承諾の不実または承諾 不履行と認定される行為。6処された行政処分、行政裁決などに対して、履行能力を有するが履行を拒み、執行を免れようとす る行為。

但し、上述の1について、『規定』第 7 条には、「正常でない特許出願行為があるが、適時に是正し、自発的に不利を除去でき る場合は、信用喪失行為と認定されない可能性がある。」と特別に定めている。

2. 信用喪失主体に対する措置

『規定』第 9 条によると、国家知的財産権局は主に以下の措置を講じることができる。 1財政性資金プロジェクトの申請に対する審査許可の厳格化。 2特許、商標に係る費用減額、優先審査などの優遇政策、利便化措置に対する審査許可の厳格化。 3国家知的財産権局主宰の優秀者・先進者評価の参加資格の取り消し。 4国家知的財産権に係る模範企業・優位性企業の申告資格の取り消し。 5中国特許奨などの申告資格の取り消し。 6重点的な監督管理対象に組み込み、検査の頻度を増やし、法により厳格に監督管理を行う。 7信用承諾制を適用しない。

3. 信用喪失主体は如何にして信用修復を行うか?

『規定』第 13 条の規定によると、以下の条件を同時に満す場合は、信用喪失行為認定部門に対して信用修復を申請すること ができる。1主体の信用喪失行為があると認定されてから満 6 か月経過した。2既に信用喪失行為を是正し、関連義務を履行 し、自発的に不利を除去した場合。3信用喪失行為があると再度認定されていない場合。

しかし、『規定』第 14 条の例外規定には特に注意を払う必要がある。以下のいずれかの状況がある場合は、信用修復を行わ ないとされている。1前回の信用修復時点から起算して 1 年未満の場合。2信用修復の申請において人を騙し、故意に事実を 隠蔽するなどの行為がある場合。3信用修復の申請において、信用喪失行為があると再度認定された場合。4法律、行政法 規、中国共産党中央委員会、国務院政策文書に、修復不可と明記されている場合。

4. 信用を守る主体に対する激励措置

『規定』第 20 条の規定によると、3 年連続信用状況が良好な主体に対して、状況に応じて以下の激励措置を講じることができ る。

1行政審査許可、プロジェクト許可において、簡素化、迅速化など利便性の高いサービスを提供する。

2政府専門項目資金の使用において、同等の条件下で、優先選択対象とする。

3特許優先審査において、同等の条件、状況下で、優先選択対象とする。

4知的財産権保護センターに特許予備審査届出における優先審査を行わせる。日常検査、専門項目検査における検査の頻 度を適当に減少する。

国家知的財産権局以外に、実務において、一部の地方市場監督部門も『市場監督管理の重大違法・信用喪失名簿管理弁 法』(2021 年 9 月 1 日より施行)に従い、知的財産権違法者を重大違法・信用喪失名簿に組み込み、全国企業信用公示システム 上で開示する。例えば、今年 1 月には浙江省寧波市の市場監督部門が第 1 期「ブラックリスト」を公布し、4 名の当事者が登録商 標詐称罪、営業秘密侵害罪等として記載された信用喪失名簿を公示した。


弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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