上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第71回~
法律物語
社員食堂で発生した食中毒は労災になるか
従業員の食事の便宜を図るため、社員食堂を設置する企業は少なくない。従業員が社員食堂で食事をした後に食中毒になっ た場合、労災に該当するのか?
『労働保険問題に関する全国総工会労働保険部の解答』(1964.04.01 実施)には、「ワーカー、職員が次のような場合、信頼で きる証拠があれば、業務上の事由による傷病待遇として処理することができる:本企業の社員食堂での食事後、食中毒による病 気または死亡がもたらされ、それが本人による責任でない場合。」と規定している。広東省、雲南省、吉林省など一部の省・市の 地方性規範文書では、「使用者の食堂で食事をして急性中毒を起こし、入院して救急治療を受けた場合は、労災と見做される」こ とを定めている(詳細は『広東省労災保険条例』、『雲南省<労災保険条例>の実施方法』、『吉林省<労災保険条例>の実施方法』 を参照)。
企業の社員食堂で食事をした後に急性中毒になった場合は、通常、労災と認定される。
例外的な状況は主に 2 つある。(1)従業員の中毒が他の原因により発生したことを示す証拠がある場合は、因果関係が成立 せず、労災に該当しない。例えば、(2019)雲行申 142 号事件では、裁判所は審理の上、「従業員の中毒は、同僚が採取した毒キ ノコを食べたことによるものであり、食堂に起因するものではない。」と認定し、従業員の労災主張を認めなかった。(2)社員食堂 を第三者に業務委託し、第三者が管理・コントロールを行っている場合、一部の裁判所は「労災に該当しない」と判断している。例 えば、(2017)雲 03 行終 72 号事件では、従業員は会社が手配した固定食堂で食事をした後に食中毒になったが、裁判所は当該 食堂が「社員食堂」の特徴に合致しないと判断した。社員食堂は会社が自社の従業員に食事を提供し、またはサービス対象者に 便利な食事を提供する非営利の場所である。会社には食堂の労働者、食堂の労働者の賃金、費用支出、食材の選択に対する 管理とコントロールの職責があり、比較的完備された管理体系を構築しているからである。相応の管理とコントロールが行われて いない場合は、社員食堂の性質を備えていないため、労災と認定されない。
以上を踏まえ、使用者としては以下の方面から保障と対応の措置を講じると良い。
まず、自ら社員食堂を設置し、またはその経営を第三者に委託する場合は、食品の安全性を厳格に監督し、食中毒を証明す る際に必要な証拠が欠くことのないように法に基づきサンプルを保存する。
次に、事件が発生し、社員食堂を外部に委託している場合は、裁判官に認められるように、上述の事例を参考に相応の証拠を 準備する。
最後に、食事をした後に食中毒になった従業員が一部である場合、因果関係を証明するために、2 つの側面から準備する。 (1)関係従業員が食前・食後に他の食べ物を食べたか否かを積極的に確認し、可能であればサンプルを採取、固定する。(2)可 能であれば、関係従業員と同じ時間帯に同じ種類のものを食べた従業員に個別の検査を行い、検査結果を保存する。
実務検討
継続的売買取引における売主の注意点
実務において、買主が長年にわたり、同じサプライヤーから製品を購入するケースはよく見られる。このような取引の特徴は、 継続的取引、継続的決済である。双方間に未払金トラブルが発生した場合、代金と取引の対応関係、貨物と取引の対応関係な どについて意見が対立しやすい。意見の対立はしばしば以下の原因によるものである。
一、約定が不明確である。一般的に、規範に合致する書面契約の未締結、又は一部の注文の欠落などにより、検収、代金決 済、違約責任などが明確にされていない。『民法典』第 510 条には、「契約発後、当事者が品質、代金または報酬、履行場所など について約定を行っておらず、または約定が不明確である場合は、協議により補充することができる。補充協議書が合意に至ら ない場合は、契約の関連条項または商慣習によって確定する。」と規定している。そのため、約定がない場合は、双方の商慣習 を整理して説明する必要がある。採納されるか否かは、売主のこれまでの取引資料の完備性に依拠する。
二、代金のやり取りが不明確。たとえば、支払額と注文額の不一致、納品書と注文書の不一致などにより、主張した金額に対 応する注文、納品及び検収証明書を証明することが困難となる。また買主が関連取引に係る訴訟の時効は過ぎていると直接否 定する可能性もある。
従って、売主としては継続的売買取引について、以下のことに留意する必要がある。
まず、取引開始前に、全面的かつ規範に合う契約の締結を確保し、代金支払のほかに、品質に関する検収と違約条項には特 に注意する。
次に、配送受領記録、検収証明書など履行過程における証拠の保存に重点を置き、金銭支払の対応性には特に注意する。金 銭の授受は、単価、納期、会計期間など、多くの商慣習を証明することができる。また金銭授受は、違約責任を約定していない場 合に、売主が未払による違約金を主張する際の重要な根拠にもなる。そのため、売主は代金が一対一の対応を確保しなければ ならない。買主からの支払額が不規則で、一対一の対応ができない場合は、確認書、取引明細書などで補強したほうがよい。上 述した正式な書状を使用するのが適切でない場合は、少なくとも企業メール、企業ウィーチャットワークなど会話の形式で補強す る必要がある。
山東高裁より公表された魯法案例【2024】066 において,売り手と買い手の双方は数年の間に連続して複数の契約を締結し、 買主は複数回代金の支払いを行っていたが、送金の際、備考に大まかに貨物代金または設備代金などと記載していただけであ った。売主もその発行した大部分の領収書において、相応の契約または工事プロジェクトを備考として記載していなかったため、 代金と貨物の明確な対応関係がない、つまり各契約の履行状況を区別することができず、それによって複数の契約に係る訴訟 の時効が過ぎたか否かについて意見が対立した。
もしこの事件が北京で発生したとすれば、『売買契約紛争事件の審理における若干問題に関する北京市高級人民法院の指導 意見(試行)』(京高法発 200943 号)によると、具体的な証拠によって異なる結果を求めることができたかもしれない。当該指導意 見では、「一定の条件を満たしている状況下で、裁判所は全面的な審理を行って事実を明らかにし、訴訟の時効期間は買手が最 終支払日の翌日から再計算する」ことを定めている。「一定の条件を満たしている状況」には、「1、当事者間には長期にわたって 継続的売買関係が存在しているが、書面による契約がない場合。2、当事者間には枠組み合意が存在し、その後に複数の契約 が締結された場合、または複数回履行した場合。」が含まれる。但し、当該指導意見では、「枠組み合意がなく、独立した契約が 複数存在するだけであり、履行の事実が混在している場合は、本条の指導意見を適用することはできない。係る状況があまりに も複雑である可能性があり、指導意見では徹底的に解決することができないからである」と明記している。
第三に、適時に支払を督促する。訴訟の時効は 3 年であるため、早急に売掛金を回収できるよう尽力するとともに、訴訟の時 効が消滅しないよう、企業は定期的に売掛金を整理し、適時書面で支払を督促するという規則を確立するべきである。
立法動向
『ネットワークデータセキュリティ管理条例』が 2025 年 1 月より施行
『サイバーセキュリティ法』、『データセキュリティ法』、『個人情報保護法』は、情報セキュリティ分野の 3 つの基礎法律である。上 述の基礎法律における関連規定を一層具体化・明確化した『ネットワークデータセキュリティ管理条例』は 2024 年 9 月 24 日に公布 されており、2025 年 1 月 1 日から施行されることになった。
当該『条例』は非常に重要で、注目すべき点が多い。以下はネットワークデータ処理者共通の規定について整理する。
1、ネットワークデータセキュリティ制度の要求
『条例』第 9 条では、ネットワークデータ処理者が講じるべき必要な措置として、バックアップアクセス制御やセキュリティ認証など の技術的措置とその他の必要な措置の事例を追加し、企業実務に対してより多くの選択肢と指針が提供されている。企業は 『GB/T41479-2022情報セキュリティ技術 ネットワークデータ処理セキュリティ要求』で規定されたネットワークデータの収集、保 存、使用、加工、伝送、提供、公開などのデータ処理を展開するためのセキュリティ技術と管理要求に従い、自社の状況に合う規則 や措置を制定することができる。
2、ネットワーク製品サービスセキュリティリスクの報告義務
3 つの基礎法律では、セキュリティ事件に係る報告の期限について規定していない。これに先立ち、工業・情報化部、国家インタ ーネット情報弁公室、公安部によって 2021 年 9 月に公布された『ネットワーク製品のセキュリティ脆弱性管理規定』では、ネットワー ク製品の提供者はその提供したネットワーク製品にセキュリティ脆弱性があることを発見し、または知った時より 2 日以内に工業・情 報化部のネットワークセキュリティ脅威と脆弱性情報共有プラットフォームに対して関連脆弱性情報を報告することを義務付けてい る。『条例』第 10 条では、ネットワークデータ処理者は国家の安全、公共の利益にかかわる脆弱性などのリスクを 24 時間以内に報 告することを義務付けている。
企業は所在地における報告期限の要求の有無にも注目すべきである。例えば、『上海市ネットワークセキュリティ事件緊急時対 応マニュアル』4.1.1 では、ネットワークセキュリティ事件が発生した組織は 30 分以内に口頭で、1 時間以内に書面で上海市インター ネット情報局、上海市緊急時対応連動センターと事件発生地域のネットワークセキュリティ主管部門に報告しなければならず、“比 較的大きい”以上のネットワークセキュリティ事件又は特殊な情況である場合は、直ちに報告しなければならないと規定されてい る。
3、ネットワークデータセキュリティ事件緊急時対応マニュアル制度
『条例』第 11 条では、ネットワークデータセキュリティ事件緊急時対応マニュアル制度における企業の 3 つの義務を明確にしてい る。
1) 報告義務。
2) 通知義務。『条例』では、「個人、組織の合法的権益に危害を与える」場合にのみ、影響を受ける個人と組織に通知する必要が あることを明らかにしている。
3) 違法犯罪の疑いがある手がかりを発見した場合の通報義務。
又、一部の地方規則と国家標準では、ネットワークセキュリティ事件の対応要求を定めている。例えば、『上海市ネットワークセキ ュリティ事件緊急時対応マニュアル』、GB/T20985『情報技術 セキュリティ技術 情報セキュリティ事件管理』、GB/T38645『情報セ キュリティ技術 ネットワークセキュリティ事件緊急時対応訓練マニュアル』など。企業は上述の規定を総合して参考にすることがで きる。
4、第三者とのネットワークデータ伝送の要求
『条例』第 12 条によると、送信者は第三者にネットワークデータ(個人情報と重要データに限る)を伝送する場合、契約を締結 し、受信者を監督し、かつ記録し、3 年間保存しなければならない。
『条例』第 14~17 条では受信者の義務を明確にしている。注意すべきことは、国家機関などへのサービス提供について、『条 例』では監督管理の範囲を国家機関から重要情報インフラ運営者に拡大し、ネットワークデータ処理者が他の公共インフラ、公共 サービスシステムの建設、運行、維持に関与する状況も監督管理の範囲に含まれたことだ。
5、自動化採集技術の評価
「python」などの自動化ツールを使用したネットワークデータアクセス、収集に対して直接的な規定が行われるのは、『条例』第 18 条が初めてである。「他人のネットワークに不正侵入してはならない」ということに関しては、通常、robots プロトコルを回避し、 ウェブサイトの天然の暗号化ルールを解読し(例えば、アプリの暗号化アルゴリズムなどを解読する)、ウェブサイトの技術保護措 置を破壊する(例えば、IP、ID などを偽造してシステムの IP 障壁などの技術保護措置を回避する)などの行為は、他人のネットワ ークへの不正侵入と認定される可能性が高い。「ネットワークサービスの正常な運行を妨害してはならない」ということに関して、 異なるネットワークサービスの正常な運用の統一基準を定義するのが難しいので、『条例』では、企業が自ら「ネットワークサービ スへの影響を評価する」ことを義務付けているが、これによって法律執行の柔軟性の向上につながる。