企業における賃金未払いは、従業員の生活に重大な影響を及ぼす深刻な問題である。特に、技術職などで長年にわたり企業の成長に貢献してきたにもかかわらず、約束された報酬が支払われない場合、従業員は法的手段に頼らざるを得ない。本事例では、日系企業から転職し、中国企業で要職に就いたS氏が、長期にわたる賃金未払い問題に直面し、最終的に法的手続きによってその解決に至った過程を紹介するものである。
登場人物
S氏:日本人。上海の日系会社で技術系の仕事に従事していたがP氏の会社に転職
P氏:中国人。環境保護企業Aを経営している
S氏のA社への入社
S氏はもともと上海の日系会社で技術系の仕事に従事していたが、環境保護企業Aを経営する中国人P氏と知り合い、転職を決意した。P氏はS氏の技術的なバックグラウンドと職務経験を高く評価し、S氏を満足させる待遇を約束して、A社の技術研究開発ディレクターに就任するよう招聘した。
S氏は家族の住居や子供の上海での学校入学を手配した後、A社の研究開発に専念し、数年間にわたりA社の開発を主導、多数の特許を申請し、A社も順調に中国の多くの政府プロジェクトを獲得するに至った。
未払い問題の発生と法的措置の開始
しかし、入社以来、A社は報酬の承諾事項を一部しか履行せず、報酬の一部未払いが長期にわたって続き、S氏の生活は次第に困窮するようになった。S氏は慎重に考えた末、会社に辞職を申し出、責任を持って業務を引き継いだ後、日本への帰国を決意した。出国前にS氏はA社に未払い賃金の支払いを求めたが、支払いは行われなかったため、当所に相談し、弁護士に法的手段での賃金回収を依頼した。
当所の弁護士の尽力による仲裁と訴訟の結果、最終的に裁判所はA社に対し、S氏に滞納している賃金70万元余りを支払うべきだと判決を下した。しかし、市場状況の変化に加え、コロナ禍が中国全土に影響を与え、A社は倒産寸前に追い込まれ、S氏に対する債務を支払う財産が全く残っていなかった。さらに、P氏自身も従業員給与やサプライヤーへの支払いを滞納しており、裁判所により信用喪失者リストに登録される事態に陥っていた。多くの債権者が勝訴したものの、回収の見込みはなかった。
株主への追加賠償責任と最終回収
発生から3年後、コロナ収束時に当所の弁護士は粘り強い努力でA社の債権債務、資産登記、財務申告などを徹底的に調査し、A社の原始株主が出資義務を履行していない可能性があることを発見した。当所の弁護士は急遽、すでに日本に帰国しているS氏に連絡し、A社の債務未払いに対し、株主に追加賠償責任を求める訴訟を提案し、実行に移した。
その後、裁判所はA社の数名の株主に出資未納の事実があると認定し、S氏の債権(70万元の給与元金と10万元余りの利息を含む)に対し追加賠償責任を負うよう判決した。弁護士は裁判所を通じてA社の株主の銀行口座から80万元余りを差し押さえ、最終的に全額回収に成功した。
これにより、S氏は長年にわたって滞納されていた給与と利息を全額回収することができた。
まとめ
本件は、法的手段を通じて粘り強く未払い賃金の回収を図り、株主の追加賠償責任を追及することで最終的に債権を確保した成功事例である。同様の悩みを抱える方々にとって、法的手段が権利保護に有効であることを示す重要な参考事例といえる。