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上海ハイウェイス法律相談事例

会社のチームビルディング研修で従業員の家族が 事故に遭った場合、責任は誰が負うか?

2021年7月2日

上海ハイウェイス法律事務所の法律相談事例!連載 ~第32回~

法律物語

会社のチームビルディング研修で従業員の家族が 事故に遭った場合、責任は誰が負うか?

A 社は従業員の帰属意識と団結力を高めるために、従業員とその家族を連れて社員旅行に行った。会食時に従業員 B の家族と従業員 C の家族は飲み比べ対決を始め、その後従業員 B の家族がホテルのプールで溺死した。関連責任の所在について、意見が一致しない。従業員 B は、「A 社、従業員 C の家族、ホテルに責任がある」と主張した。A 社については旅行の主催者であるので、旅行に参加する従業員及びその家族の安全に責任を負うべきである。従業員 C の家族については、飲み比べ対決をしなければ、従業員 B の家族は泳ぎに行かなかった可能性があり、溺死することもなかった。ホテルに対しては、プールの管理方法に不備があり、飲酒後の水泳を許可した上に、事故発生後も直ちに妥当な救急措置を実施しなかったというのが、従業員B が、A 社、従業員 C の家族、ホテルそれぞれも責任があると主張する理由だ。これに対して、A 社、従業員 C の家族、ホテルも理由を挙げて「責任は負わない」と主張した。

本件は「危険引受け」、安全配慮義務、第三者による権利侵害に係わり、責任認定は比較的複雑な案件である。そのため、 法的根拠と事実を踏まえて判断するべきである。

『民法典』第 1176 条には、「自らの意思で一定のリスクを有する文化スポーツ活動に参加し、他の参加者の行為によって損害を受けた場合は、損害を受けた者は他の参加者にて権利侵害責任を負う請求をしてはならない。但し、損害の発生について他の参加者に故意又は重大な過失がある場合を除く。活動主催者の責任は本法第 1198 条ないし第 1201 条の規定の適用を受ける。」と規定している。

上述の規定によると、下記の条件を同時に満たす場合のみ、被害者は自ら責任を負うことになる。(1)被害者が自らの意思で活動に参加する。(2)一定のリスクを有する文化スポーツ活動であることを参加前に認識していた。(3)損害の発生について他の参加者故意又は重大な過失がない。(4)関連場所の経営者、活動主催者が相応の安全配慮義務を尽くしている。

本件において従業員 B の家族は完全な民事行為能力を有する成年者であり、注意義務があるので、飲み比べ対決及び飲酒後の水泳がもたらす結果に対して相応の責任を負うべきである。従業員 C の家族が責任を負うか否かは上述の(3)の判断によって決められ、A 社、ホテルが責任を負うか否かは上述の(4)の判断によって決められる。

まず、『民法典』第 1165 条の権利侵害の関連規定によると、従業員 C の家族は相手がお酒を飲めない、又は過剰摂取であることを知っていながらもお酒を強制的に勧めた場合、一定の割合で損害賠償責任を負うと認定される可能性がある。

次に、安全配慮義務については、『民法典』第 1198 条には、「ホテル......等の経営場所、公共の場所の経営者、管理者又は大衆的活動の主催者が安全配慮義務を尽くさず、他人に損害を与えた場合は、権利侵害責任を負う。第三者の行為により他人に損害を与えた場合は、第三者が権利侵害責任を負う。経営者、管理者又は主催主催者は補充責任を負った後に、第三者に求償することができる。」と規定している。

法律では状況に応じて、それぞれの安全配慮の範囲を定めるのは不可能であるため、個別案件ごとに判断すべきである。裁判官は本件のような案件を審理するときに、まず損害事実の存否を確定し、ひいては損害発生の原因を認定する。損害が 1 つもしくは 1 つ以上の作為又は不作為なものに起因すると結論を下した後、当該行為が安全配慮義務の範囲内であるか否かを判断する。この場合に、安全配慮義務の合理的な範囲をいかに確定するかは裁判官が直面する問題となる[1]。

通常、裁判官は経営者、主催者が理性的かつ合理的に関連リスクを予見できるか否かによって、安全配慮義務の範囲を確定する。主に考慮のポイントとなる点は、関連法令、業界基準、双方間の約定などの有無である。法令で明確な規定がない状況下では、安全配慮義務者は同種の経営者、活動主催者と同程度の注意を払うべきである。又、主催者の実力及び客観的環境による制限も裁判官の考慮要素になる。

本件において主催者である A 社は関連通知において活動のスケジュール、強度、注意事項(例えば、会食において飲みすぎたり、他社にお酒を勧めたりしてはならない)を伝え、活動の紀律(例えば、一緒にお酒を飲む者は関係者が安全な場所まで送り届け、単独で行動しないよう注意する)を強調し、活動のリスク及び責任の負担などを参加者に予め告知した場合、活動のリスクを理性的に認識し、防備したと認定される可能性がある。

[1]『群衆性活動主催者安全保障義務の合理範囲確定研究』、中国裁判所ネット、作者:白涛(北京第二中級法院)

実務検討

会社を解散した際の知的財産権の行方は?

会社の解散は珍しいことではない。不動産や設備などの有形資産の処理と違い、商標、特許等知的財産権の処理は往々に軽視されがちだ。しかし、タイミングを逃すと、トラブルの原因となったり、大切な商機を逃す可能性がある。

従って、会社の解散を行う場合、事前に知的財産権の処理を当該登録抹消計画に組み入れ、譲渡などにより権利者を変更し、その上で変更手続を行う。注意すべきことは、商標を譲渡するときに、同一の商品に対して登録を行った近似商標、或いは類似の商品に対して登録を行った同一商標又は近似商標を一括して譲渡するべきである。

実務において、会社解散のために知的財産権を処理をする際は、特殊な状況が起こりえるので、実情を踏まえて判断を下すべきである。

特殊な状況というと、まず知的財産権の共有が挙げられる。例えば、A 社と B 社が同一の特許を共有している場合に、A 社が登録抹消を行う場合、当該共有特許を如何に処理するかについて事前に B 社と協議すべきである。係る特許を他の共有者に譲渡するケースががよく見られるが、特許共有者が同意した、又はその他の約定がある場合は、第三者に譲渡した後に表示変更登録申請を行うことができる。本件では、A 社の登録抹消結了後に B 社が当該事実を知った。特許権を処理する際は、A 社の財産清算文書に基づき特許権の帰属を明確にしておく必要がある。本件のような状況を回避するために、知的財産権の共有者はその他の共有者の経営状況に注意を払うべきである。

次に、共同で研究開発された技術に対して特許を出願する過程で、共同研究開発者である一方の会社が登録抹消を行う場合は、特許権を如何にして処置するか?特許局が自発的に出願者に変更するよう要求することはない。原則として、特許の審査は、審査意見への回答又は登録抹消を行う会社の捺印が必要な文書に係わらない場合は、別途審査をしない。最終的な特許証書には全ての出願者の名称が表示されるが、後続の使用に影響を及ぼさない。但し、この方法には一定のリスクがある。例えば、今後当該特許の許諾又は譲渡を行うときに、登録抹消が行われた会社は正常な主体として権限を授けることができない。ビジネス活動に不利にならないように、自主的に表示変更登録申請を提出し、出願者を登録抹消会社以外の会社に変更したほうがよい。その際、譲渡協議書を提出する必要がある。特許局による証書発行前に変更を完了した場合、特許証書の正面には変更後の情報が表示され、裏側には出願当日の記載情報が表示される。つまり、登録抹消を行う会社の名称は特許証書の裏側に表示される。特許局による証書発行後に変更を完了した場合、特許証書の正面と裏側には同時に変更前の情報が表示される。表示変更の完了後、特許局は手続合格の通知書を発行する。当該通知書は特許証書と同時に特許権の実際の帰属を証明することができる。同様に、共有商標の登録出願においても、通常、登録者名義変更に係る申請を提出する。

しかし、会社の登録抹消が完了した場合は、救済方法があるか?

商標について、『商標法実施条例』第 32 条には、「登録商標専用権は、承継など譲渡以外の事由により移転が生じるときは、当該登録商標専用権の移転を受け入れる当事者は関連証明文書または法律文書をもって商標局にて登録商標専用権移転手続を行わなければならない」と定めている。著作権について、『著作権法』第 21 条には、以下の規定がある。「法人が終了した後、その著作物の複製、発行、情報ネットワーク伝達など報酬を獲得できる権利は、著作権法で定められた保護期間内に、その権利義務を承継する法人又は非法人組織が享有する。当該権利義務を承継する法人又は非法人組織が存在しない場合は、国が取得する。」特許について、『特許法』では明確な規定がないため、特許局に関連文書を提出してみるしか方法はなく、受理されるか否かは審査結果に委ねられる。

なお、会社が生産経営において他人と提携し、又は他人に研究開発を委託することによって知的財産権が生じうる場合は、その権利の帰属、出願、今後発生しうる許諾、譲渡などについて事前に明確な約定を行うことが望ましい。会社の登録抹消時の財産清算に有利に働き、関連リスクを低減し、紛争を回避し、不要で煩雑な手続を省くこともできるはずだ。

立法動向

『データセキュリティー法』が 2021 年 9 月 1 日より

2021年 6月 10 日、第 13 期全国人民代表大会常務委員会第 29 回会議では『データセキュリティー法』が可決され、2021 年 9 月 1 日より施行されることになった。『データセキュリティー法』はデータ分野の基礎的な法律であり、なおかつセキュリティー分野の重要な法律でもある。但し、『データセキュリティー法』における規定は主に原則的なものなので、実施細則、主管部門の規定又は案内により明確化しておく必要がある。

以上に鑑み、この文章では『データセキュリティー法』による管理を受ける「データ」範囲、データセキュリティー保護における企業の主要な義務及び義務違反による結果を検討する。

1、『データセキュリティー法』による管理を受ける「データ」範囲

『データセキュリティー法』の規定によると、「データ」は、電磁或いはその他の形式による情報的記録を含む。『国家安全法』、『ネットワークキュリティー法』と比べ、『データセキュリティー法』では、紙の登記表などもデータセキュリティー管理の範疇に組み入れ、ネットワークを介さないデータ処理活動を規制できないという既存法律の欠点を補うことができるようになる。

2、データセキュリティー保護における企業の主要な義務及び義務違反による結果

『データセキュリティー法』第四章第 27 条から第 43 条では、企業のデータセキュリティー保護義務を定めた。

法的根拠及び主要な義務

第 27 条

•全過程データセキュリティ-管理制度を構築、整備する。データセキュリティ-教育研修を実施し、相応の技術的措置及びその他の必要な措置を講じなければならない。
•インターネットなどのネットワークを利用したデータ処理活動は、ネットワーク安全等級制度に基づき係る義務を履行すると同時に、上記のデータセキュリティ-保護義務を履行しなければならない。
•重要データの処理者はデータセキュリティ-責任者と管理機関を設定し、データセキュリティ-保護の責任を具体化しなければならない。

第 29 条

リスク監視の強化:
•データセキュリティ-ホール、脆弱性等のリスクを発見したときは、直ちに救済措置を講じなければならない。
•データセキュリティ-インシデントが発生したときは、速やかにユーザーに通知し、かつ関係主管部門に報告しなければならない。

第 30 条

重要データの処理者は、そのデータ処理に対し定期的にリスク評価を実施し、かつ関係主管部門にリスク評価報告を提出しなければならない。

第 31 条

•重要情報インフラの運営者が中国国内での運営により収集・生成した重要データの越境移転の管理については、『ネットワークセキュリティー法』の適用を受ける。

•その他の処理者が中国国内での運営により収集・生成した重要データの越境移転の管理弁法は、国のインターネット情報部門が国務院の関係部門と共同で策定する。

第 33 条

データ取引仲介サービスに従事する機関が取引仲介サービスを提供するとき、データ提供者に対してデータの出所を説明し、取引双方の身分を審査し、かつ審査、取引記録を保存する。

第 35 条

公安機関、国家安全機関が法に従い国の安全維持、又は犯罪捜査のためにデータを入手する必要がある場合、関係組織・個人はこれに協力しなければならない。

第 36 条

中国国内の組織・個人は、中国の管轄部門の承認なく、中国内に保存されているデータを外国の司法機関または法執行機関に提供してはならない。

『データセキュリティー法』第 45 条から第 48 条では、上述の義務違反の結果を明確にした。データの種類、重要性、違反の内容に応じ、是正命令、警告、罰金(5 万元~1000 万元)や直接責任を負う主管者及びその他の直接責任者への罰金(違反内容により 1 万~100 万元)、事業停止・閉鎖・関連許可・ライセンス取消等の処分を受けるリスクがある。

又、『データセキュリティー法』第 8 条は宣言的条項として、「データ処理活動を行うにあたり、法律法令を遵守すること、社会公徳および倫理を尊重すること、商業道徳および職業道徳を守り、信義に従い誠実に行うこと、データセキュリティー保護義務を履行し、社会的な責任を負うこと。そして国家の安全、公共の利益を害したり、個人・組織の合法的な権利を侵害しないこと」とデータ処理活動の基本原則を明らかにしている。個別事案において第 27 条から第 43 条の具体的な規定の適用が不可能な場合、 第 8 条の適用を受ける可能性がある。

要するに、企業は、現時点でデータ管理の方向性、基本要求を全体的に把握し、既存の法律規定を参考しながら、コンプライアンスの視点から、初歩的なリスクチェックを行うとともに、後続の関連文書の動向に十分に関心を寄せることが望ましい。


弁護士紹介

金燕娟 弁護士/パートナー

8年以上の日系企業での勤務経験を持ち、日系企業の文化、経営管理上の普遍的問題点などについて深い理解を持つ。業務執行においては、それぞれの会社の実情に合わせ、問題となる根本的な原因を見つけ、相応の解決策を導き出すことが得意で、顧客中心リーガルサービスの提供が出来る様、日々取り組んでいる。

その他にも、長年にわたるビジネス実務経験と弁護士業務経験を生かし複雑なビジネス交渉などにおいても特有の技能と優位性を示している。

学歴:華東政法大学出身、民商法学修士号取得。

使用言語:中国語、日本語

主な取扱分野:会社運営の日常業務。複数の業種の企業の法律顧問を長年に渡り、務め、人事、リスク管理などを含む総合的リーガルサービスを提供している。知的財産権分野。企業の法律顧問を長年務めるとともに、営業秘密、特許、商標などに関連する訴訟、非訴訟業務に従事し、特に営業秘密の管理体系及び個別案件の処理については幅広い知識と豊かな実務経験を持っている。
不正競争防止分野。主に「ブランドのタダ乗り」、虚偽宣伝を含む知的財産権に関連する不正競争案件、知的財産権侵害と不正競争との複合紛争案件を処理し、個別案件の実情に基づいた有効な解決策の提示を得意としている

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